第6章 秘匿
「そう言えば、食後に蘭を連れて出ようとしてはったけど、何処行くつもりやったん? 忘れられてしもとるけどええんかいな?」
再び外に立てかけられた階段を使って階下に下りながら、雅が言った。その言葉に、ああそうやったと思い出したように八木が答える。
「わても忘れとったわ。蘭の刀をどうにかしたろと思うてな。刀についてはあまりようは分からんけど、何や使い込んでるように見えたし。研ぐなり何なりした方がええやろ」
「そういう事やったら、せっかくやし新選組の誰かに頼みまひょ。……丁度ええカモが来はったし」
「カモ?」
八木がニヤリと笑う雅の視線を追うと、丁度門の所からこちらを見ている者の姿があった
「……何してんだよ、二人して梯子の上でさ……階段でも壊れたのか?」
呆れた顔をしながらこちらに歩み寄って来たのは、平助だ。元々八木夫婦が突飛な事をするのは分かっていたが、梯子に上って仲良く会話する姿を見るのはさすがに初めてだったので、困惑しているらしい。
「階段は壊れてまへん。ちょっと覗きを……な」
「覗きぃ? 良い大人が何やってんだよ。で、何を覗いてたんだ?」
「蘭や」
「はぁ!?」
ますますわけがわからないと言った風に呆れた声を出す平助。だがその表情は、微妙だ。
「何で蘭を覗くんだよ。っていうか雅さんは女だから良いとしても、八木さんはダメだろ?」
「いや、わては上まで付いてっただけや。覗いとったんは雅だけやしな」
「……それならまぁ良いけどさ……いや、良くないのか?」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきているのか、首を傾げている平助に、梯子から下りた雅がにっこりと笑いかける。だがその笑顔には含みがあり、平助を震え上がらせ、思わず後ずさらせた。
「な、何? 雅さんの笑顔がすっげー怖いんだけど……」
「なーんも怖い事なんぞあらしまへんのえ。ちょ~っとばかし手伝うてくれんかな~? と思うたんや」
ポン、と肩に置かれた手は、平助をその場から逃げ出せなくするには効果絶大で。平助は、全身からザアッと血の気が引く音を聞いたような気がした。
「手伝いって……何? 俺はもう少ししたら巡察が……」
「あれ丁度ええわ。出かけはるんやったら、一緒に連れてったって」
「へ? 誰を?」
そう言った平助のもう片方の肩に、今度は八木の手が置かれる。もちろんその表情は、満面の笑み。だがそちらにもしっかりと含みは存在しているわけで。思わず「ひぃっ!」と悲鳴を上げた平助だが、逃げる手段も断る選択肢も存在しない。
「もちろん、蘭や」
「……えぇっ!? 無理だろそれ。いくらなんでも隊務にあいつを連れて行くのは、俺が良いと言っても土方さんが許すわけねぇし」
なるほど、それは尤もな意見。本来部外者を連れての隊務などありはしない。しかし八木夫婦は満面の笑みで首を横に振る。
「大丈夫。藤堂はんはやれば出来る男や! この八木源之丞が保証しますえ」
「そうそう、藤堂はんならやれる!」
そんな見事な無茶ぶりをすると、「ほな、出る時迎えに来たってや」と言って踵を返し、二人はさっさと玄関へと歩き出した。
再び外に立てかけられた階段を使って階下に下りながら、雅が言った。その言葉に、ああそうやったと思い出したように八木が答える。
「わても忘れとったわ。蘭の刀をどうにかしたろと思うてな。刀についてはあまりようは分からんけど、何や使い込んでるように見えたし。研ぐなり何なりした方がええやろ」
「そういう事やったら、せっかくやし新選組の誰かに頼みまひょ。……丁度ええカモが来はったし」
「カモ?」
八木がニヤリと笑う雅の視線を追うと、丁度門の所からこちらを見ている者の姿があった
「……何してんだよ、二人して梯子の上でさ……階段でも壊れたのか?」
呆れた顔をしながらこちらに歩み寄って来たのは、平助だ。元々八木夫婦が突飛な事をするのは分かっていたが、梯子に上って仲良く会話する姿を見るのはさすがに初めてだったので、困惑しているらしい。
「階段は壊れてまへん。ちょっと覗きを……な」
「覗きぃ? 良い大人が何やってんだよ。で、何を覗いてたんだ?」
「蘭や」
「はぁ!?」
ますますわけがわからないと言った風に呆れた声を出す平助。だがその表情は、微妙だ。
「何で蘭を覗くんだよ。っていうか雅さんは女だから良いとしても、八木さんはダメだろ?」
「いや、わては上まで付いてっただけや。覗いとったんは雅だけやしな」
「……それならまぁ良いけどさ……いや、良くないのか?」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきているのか、首を傾げている平助に、梯子から下りた雅がにっこりと笑いかける。だがその笑顔には含みがあり、平助を震え上がらせ、思わず後ずさらせた。
「な、何? 雅さんの笑顔がすっげー怖いんだけど……」
「なーんも怖い事なんぞあらしまへんのえ。ちょ~っとばかし手伝うてくれんかな~? と思うたんや」
ポン、と肩に置かれた手は、平助をその場から逃げ出せなくするには効果絶大で。平助は、全身からザアッと血の気が引く音を聞いたような気がした。
「手伝いって……何? 俺はもう少ししたら巡察が……」
「あれ丁度ええわ。出かけはるんやったら、一緒に連れてったって」
「へ? 誰を?」
そう言った平助のもう片方の肩に、今度は八木の手が置かれる。もちろんその表情は、満面の笑み。だがそちらにもしっかりと含みは存在しているわけで。思わず「ひぃっ!」と悲鳴を上げた平助だが、逃げる手段も断る選択肢も存在しない。
「もちろん、蘭や」
「……えぇっ!? 無理だろそれ。いくらなんでも隊務にあいつを連れて行くのは、俺が良いと言っても土方さんが許すわけねぇし」
なるほど、それは尤もな意見。本来部外者を連れての隊務などありはしない。しかし八木夫婦は満面の笑みで首を横に振る。
「大丈夫。藤堂はんはやれば出来る男や! この八木源之丞が保証しますえ」
「そうそう、藤堂はんならやれる!」
そんな見事な無茶ぶりをすると、「ほな、出る時迎えに来たってや」と言って踵を返し、二人はさっさと玄関へと歩き出した。