第4章 剔抉
「そいつを斬るから退けと言ってるんだ、平助!」
その言葉を聞いた平助が見せたのは――。
「蘭……初めて俺の名前、呼んでくれたよな……!」
「はぁ~~!?」
思わず蘭が呆気に取られる、予想外の反応。
平助は蘭に名前を呼ばれた事に感動し、満面の笑みを浮かべていたのだ。
「新選組ってのは、とことん馬鹿の集まりなのか?」
本気で首を斬り落とそうと思う程に猛っていた気持ちが、一瞬で萎えてしまう。蘭は真剣に、これ以上彼らと関わりたく無いと思った。
「もうたくさんだ。私は一人で八木さんの所に向かう」
そう言って、蘭は一目散に八木邸へと走り出す。
「あ、待てよ蘭!」
慌てて平助達が追いかけようとした時にはもう、蘭の姿は遠のいていて。
さすがに追いつけない事を悟り、平助はガックリと肩を落とした。
「……山崎くん、俺達ってそんなに馬鹿?」
悲しげな表情で平助が尋ねる。
全てが計算の上の山崎は、一瞬目を丸くして平助を見たが、すぐに優しい笑顔で答えた。
「ま、愛すべき馬鹿やろな」
「何だよそれ、結局は馬鹿じゃん」
「ん~、ほんまはわてとしては馬鹿より阿呆言うて欲しいんやけどなぁ」
「何それ? 何か違うの?」
「そやな、強いて言うなら感覚の違いや」
「……わけ分かんないや」
口を尖らせて、とぼとぼと歩き出す平助の後を追うように、笑いながら歩き出す山崎。だがその時ふと視界の端に映った物が気になり、何気なく拾い上げた。
「どうかした? 山崎くん」
自らの手を見つめて立ち止まってしまった山崎を不審に思った平助が、覗き込む。
「何それ。笄(こうがい)だよね? 何でこんなトコに落ちてんだ?」
「さあな。けど……」
「けど?」
山崎が言いよどむ事は珍しい。しかも平助が山崎の顔を見上げると、今まで見た事の無い真剣な表情で笄を見つめていて。だが平助の視線に気付くと、すぐにまたいつものふざけた山崎に戻っていた。
「べっつに何でもあらへん。そないな事より藤堂はん、はよ屯所に戻らな色々面倒でっせ。蘭はんよりあまりに遅う帰って、副長はもちろん八木はんにまでどやされても敵わんし、わては先に戻らせてもらいまっさ」
「え? ちょっ……」
「ほな、お先~!」
「山……っ!」
既に山崎の姿は遠のいている。あっという間に走り去った山崎に呆気に取られていた平助だったが、今の自分の状況がかなりまずい事に気付くと、真っ青になりながら慌てて屯所へと走り出したのだった。
ちなみに蘭はと言うと、もちろん既に八木邸に到着していて。
「あれ? 藤堂はんを迎えに寄越したはずやけど、一人かいな?」
玄関で迎えた雅が首を傾げながら聞く。
「あいつなら今頃、山崎と遊んでいるんじゃないか?」
ぶっきらぼうに答えた蘭の言葉は、偶然庭からこちらに向かって来ていた土方の耳にも入り――。
帰屯早々平助が、土方と八木から説教を受けた事は想像に難くない。
その言葉を聞いた平助が見せたのは――。
「蘭……初めて俺の名前、呼んでくれたよな……!」
「はぁ~~!?」
思わず蘭が呆気に取られる、予想外の反応。
平助は蘭に名前を呼ばれた事に感動し、満面の笑みを浮かべていたのだ。
「新選組ってのは、とことん馬鹿の集まりなのか?」
本気で首を斬り落とそうと思う程に猛っていた気持ちが、一瞬で萎えてしまう。蘭は真剣に、これ以上彼らと関わりたく無いと思った。
「もうたくさんだ。私は一人で八木さんの所に向かう」
そう言って、蘭は一目散に八木邸へと走り出す。
「あ、待てよ蘭!」
慌てて平助達が追いかけようとした時にはもう、蘭の姿は遠のいていて。
さすがに追いつけない事を悟り、平助はガックリと肩を落とした。
「……山崎くん、俺達ってそんなに馬鹿?」
悲しげな表情で平助が尋ねる。
全てが計算の上の山崎は、一瞬目を丸くして平助を見たが、すぐに優しい笑顔で答えた。
「ま、愛すべき馬鹿やろな」
「何だよそれ、結局は馬鹿じゃん」
「ん~、ほんまはわてとしては馬鹿より阿呆言うて欲しいんやけどなぁ」
「何それ? 何か違うの?」
「そやな、強いて言うなら感覚の違いや」
「……わけ分かんないや」
口を尖らせて、とぼとぼと歩き出す平助の後を追うように、笑いながら歩き出す山崎。だがその時ふと視界の端に映った物が気になり、何気なく拾い上げた。
「どうかした? 山崎くん」
自らの手を見つめて立ち止まってしまった山崎を不審に思った平助が、覗き込む。
「何それ。笄(こうがい)だよね? 何でこんなトコに落ちてんだ?」
「さあな。けど……」
「けど?」
山崎が言いよどむ事は珍しい。しかも平助が山崎の顔を見上げると、今まで見た事の無い真剣な表情で笄を見つめていて。だが平助の視線に気付くと、すぐにまたいつものふざけた山崎に戻っていた。
「べっつに何でもあらへん。そないな事より藤堂はん、はよ屯所に戻らな色々面倒でっせ。蘭はんよりあまりに遅う帰って、副長はもちろん八木はんにまでどやされても敵わんし、わては先に戻らせてもらいまっさ」
「え? ちょっ……」
「ほな、お先~!」
「山……っ!」
既に山崎の姿は遠のいている。あっという間に走り去った山崎に呆気に取られていた平助だったが、今の自分の状況がかなりまずい事に気付くと、真っ青になりながら慌てて屯所へと走り出したのだった。
ちなみに蘭はと言うと、もちろん既に八木邸に到着していて。
「あれ? 藤堂はんを迎えに寄越したはずやけど、一人かいな?」
玄関で迎えた雅が首を傾げながら聞く。
「あいつなら今頃、山崎と遊んでいるんじゃないか?」
ぶっきらぼうに答えた蘭の言葉は、偶然庭からこちらに向かって来ていた土方の耳にも入り――。
帰屯早々平助が、土方と八木から説教を受けた事は想像に難くない。