第4章 剔抉
有無を言わせず『新選組預かり八木家用心棒』となってしまった蘭だったが、何とかその日は一旦自分の塒へと戻れたようだ。
強引に住み込みの契約とされてしまったものの、
「せめて荷物をまとめさせてくれ!」
という希望は叶ったらしい。
また風呂上がり、雅によって無理やり押し付けられた可愛らしい着物も、外では何が起こるか分からず、この出で立ちではいざという時に対応出来ないからと何とか男物に変えさせる事も出来た。
その代わり、部屋着は女物を着るとの約束はさせられたようだが。
「……何でこんな事に……」
古ぼけた畳に大の字になりながら、ため息を吐く。
ずっと一人で生きてきた蘭にとって、あの賑やかな場所は新鮮であると同時に苦痛でもあった。
常に感じられる人の気配。いつも耳に入ってくる誰かしらの声。一人でいられるというのは、どれほど平穏であるのかという事を今、蘭は嫌と言う程感じている。
「衣食住の全てを求めてなどいない。報酬は食だけで良いから、必要な時だけ用心棒として呼んでくれれば良いんだが……」
それが一番理想の雇用形態なのだが、あの夫婦はきっと許してくれないだろう。
更にはもう一つ問題があった。
「子供は苦手なんだよ……」
八木家には、八木夫婦の他に男子四名、女子六名の子供がいるのだ。家を出ている者もいる為に、いつも全員がいるという訳では無い。だが下二人の息子は未だ幼くやんちゃ盛りで、蘭を見ると興奮のあまり部屋中を走り回るわ、遊んでくれとまとわりついてくるわで散々だった。
「あれも守れというのか?」
八木夫婦だけならまだしも、子供達にまで気を配れと言われたらたまったものではない。平助達が話をしていた通り、蘭はとんでもない一家に捕まってしまったようだった。
「子供なんて……」
呟きながら蘭がチラリと視線を向けたのは、文机に置かれた一枚の手紙。先日ひょんな事から総司達の手に渡り、取り返した物だ。
そこには異国の文字が走り書きされており、紙の端には赤黒いシミが付着している。
「キライ、だ……!」
眉根を潜め、無理矢理吐き出されたかのような言葉は、何処か悲しげだった。
強引に住み込みの契約とされてしまったものの、
「せめて荷物をまとめさせてくれ!」
という希望は叶ったらしい。
また風呂上がり、雅によって無理やり押し付けられた可愛らしい着物も、外では何が起こるか分からず、この出で立ちではいざという時に対応出来ないからと何とか男物に変えさせる事も出来た。
その代わり、部屋着は女物を着るとの約束はさせられたようだが。
「……何でこんな事に……」
古ぼけた畳に大の字になりながら、ため息を吐く。
ずっと一人で生きてきた蘭にとって、あの賑やかな場所は新鮮であると同時に苦痛でもあった。
常に感じられる人の気配。いつも耳に入ってくる誰かしらの声。一人でいられるというのは、どれほど平穏であるのかという事を今、蘭は嫌と言う程感じている。
「衣食住の全てを求めてなどいない。報酬は食だけで良いから、必要な時だけ用心棒として呼んでくれれば良いんだが……」
それが一番理想の雇用形態なのだが、あの夫婦はきっと許してくれないだろう。
更にはもう一つ問題があった。
「子供は苦手なんだよ……」
八木家には、八木夫婦の他に男子四名、女子六名の子供がいるのだ。家を出ている者もいる為に、いつも全員がいるという訳では無い。だが下二人の息子は未だ幼くやんちゃ盛りで、蘭を見ると興奮のあまり部屋中を走り回るわ、遊んでくれとまとわりついてくるわで散々だった。
「あれも守れというのか?」
八木夫婦だけならまだしも、子供達にまで気を配れと言われたらたまったものではない。平助達が話をしていた通り、蘭はとんでもない一家に捕まってしまったようだった。
「子供なんて……」
呟きながら蘭がチラリと視線を向けたのは、文机に置かれた一枚の手紙。先日ひょんな事から総司達の手に渡り、取り返した物だ。
そこには異国の文字が走り書きされており、紙の端には赤黒いシミが付着している。
「キライ、だ……!」
眉根を潜め、無理矢理吐き出されたかのような言葉は、何処か悲しげだった。