第3章 接触

 実際近藤も、蘭に対しては不思議な感情を覚えている。捕縛すべき対象者だという認識はあるにも関わらず、無意識に完敗だと口をついていたのだ。 新選組にとって、負ける事は死を意味するのと同じ事。それを局長自ら認めてしまうのは、あってはならない事だった。

 更には他の者達。平助を初めとして永倉、原田も、口では色々と言いながら、最終的に完全な拒絶はしていない。辛うじて総司はその姿勢を見せてはいたが、それはあくまで強さに対する対抗意識なのだろう。

 そして、八木だ。
 軽い男に思えるが、実際は年の功もあり、人をたくさん見てきているこの人物。思っている以上に人を見る目を持っており、過去に何度か入隊志願者の中で怪しい人物を見抜いた事もあった。だからこそ、この者が手放しで迎え入れた蘭という人物が、気になって仕方がない。

「不思議な子だな、彼女は。何にしても八木さんが決められた事だし、暫く彼女は新選組預かりとして様子を見ようじゃないか」
「預かりだぁ? また面倒な事を……」
「野放しにするより良いんだろう? 歳が言った事じゃないか」
「ちっ……揚げ足を取りやがって。まぁ、あんたが言うなら俺は構わねぇけどよ」

 迷惑そうな顔をしながらも、心底反対しているわけではないようだ。土方が頷くのを見て、近藤は笑みを浮かべた。

 こうして蘭は本人の意向を確認される事も無く、正式に『新選組預かりの八木家用心棒』となる事が決定したのである。



 ちなみに土方と近藤が真剣に話をしていた頃。

「私は、了承したつもりはないのだが……」
「ほらほら、そない細かい事は気にせんと着替えまひょ。ほんま嬉しなぁ。若い娘はんを迎える思たらもうたまらんなってしもて、早速色んなべべ出してきたんえ。うちの娘達はもう、うちが用意するべべなんぞ着てくれはらへんし」
「いや、だから私は……」
「あらあら、まずはお風呂に入らなあきまへんな。汚れを落として綺麗なべべ着まひょ。さ、全部脱ぎなはれ。女子同士やし、恥ずかしがる事おへんやろ」
「やめ……っ! 入るから! 一人でちゃんと入れるから!」
「へえへえ、ほな上がってくるのを待っとりますえ。髪もしっかり洗てや」
「……帰りたい……」

 雅の勢いに負け、逃げ出す事も叶わぬままおもちゃにされていた事を、新選組の面々は知らない――。
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