第3章 接触
「確かに蘭は怪しいけどさ、決して悪い奴じゃないと思うぜ? だって、俺達と戦ってる時に誰一人殺さなかっただろ? 蘭が本気だったら、今頃新選組が無くなってたかもしれないよな。それに蘭はいつも俺達から仕掛けないと攻撃して来なかった。むしろ戦いを避けようとしてたし、本当は優しい奴なんじゃないかなぁ」
そして、何かを思い出しながら続ける。
「さっき一瞬だけ見えた蘭の目、本当に綺麗だったんだよ。でも何だか凄く寂しそうにも見えてさ。……何ていうか、とにかく俺達がいつも見ているような、悪い奴とは何かが違う気がするんだ」
「何だぁ? 平助、お前随分彼奴を庇うな。ひょっとして……惚れちまったのか?」
必死に蘭を庇う平助を、原田がニヤニヤしながら揶揄った。こういう時、いつもなら怒って否定をしてくるはずなのだが……。
「……へ?」
顔を真っ赤にして固まった平助の姿に、原田は思わず変な声を上げてしまった。
「うっそ……マジかよ!?」
「っち、違う! 違うから! 別に俺はそんなんじゃなくて……!」
原田の声にハッと気を取り戻し、慌てて言う。だがその姿は更に平助を追い込む事になる訳で。
「そんなに動揺しちまうくらい本気だってのか? そうかー。とうとう平助にも春が来たかー」
「いやだから違うって! いい加減にしろよ、二人共!」
一緒になって揶揄う永倉に、ようやくいつもの調子を取り戻した平助が怒り出す。始まった追いかけっこは、当分続きそうだった。
そんな三人を見ながら、総司がぼやく。
「私は絶対認めない。八木さんが何て言おうと、必ず倒して捕縛するよ。平助ってばほんとどうかしちゃってる。あんな奴に懸想するなんてさ」
そして一人、道場に向かって歩き出した。今から稽古に励むのだろうか。その顔には闘志が漲っており、暫くは道場が荒れる事を予感させた。
一方、その様子を見ていた土方と近藤はと言うと――。
「どう思う? 近藤さん」
「そうだな……俺もあの子はそんなに悪い人間には見えなかったな。どこかの間者かとも思ったが、そういう訳でもなさそうだったしなぁ。歳こそどう感じたんだ? 女子と言う以外にも何かが気になっているんだろう?」
この二人は誰よりも旧知の仲であり、新選組の前身である壬生浪士組を結成する、ずっと以前からのお互いをよく知っている。その為か、何も言わなくてもお互いの感情の変化を読み取る事が出来た。
「あんたも今言ったように、まず彼奴は『子』なんだよ。やけに擦れて大人びた喋りをしているが、体つきからして多分十五、六くらいじゃねぇか? その若さであの強さ。しかも全く流派の存在しない、我流そのものだ。あれはいくら道場剣術で免許皆伝になっても身に付かねぇ、実戦経験でのみ成せる業だろう。それがどうもちぐはぐと言うか……見ていて妙な気にさせやがる」
「目元が隠れているからよく分かっていなかったが、そんなに若いのか? ならば彼女は一体どのような人生を歩んできたんだろうか」
「それは知らねぇよ。だが彼奴は多分、生きる為に本能で戦ってやがるんだろうな。……認めたくはねぇが、今の俺達ではどうやったって敵わねぇ」
悔しそうに拳を握りしめる土方の言葉を、近藤は真剣に聞いていた。
そして、何かを思い出しながら続ける。
「さっき一瞬だけ見えた蘭の目、本当に綺麗だったんだよ。でも何だか凄く寂しそうにも見えてさ。……何ていうか、とにかく俺達がいつも見ているような、悪い奴とは何かが違う気がするんだ」
「何だぁ? 平助、お前随分彼奴を庇うな。ひょっとして……惚れちまったのか?」
必死に蘭を庇う平助を、原田がニヤニヤしながら揶揄った。こういう時、いつもなら怒って否定をしてくるはずなのだが……。
「……へ?」
顔を真っ赤にして固まった平助の姿に、原田は思わず変な声を上げてしまった。
「うっそ……マジかよ!?」
「っち、違う! 違うから! 別に俺はそんなんじゃなくて……!」
原田の声にハッと気を取り戻し、慌てて言う。だがその姿は更に平助を追い込む事になる訳で。
「そんなに動揺しちまうくらい本気だってのか? そうかー。とうとう平助にも春が来たかー」
「いやだから違うって! いい加減にしろよ、二人共!」
一緒になって揶揄う永倉に、ようやくいつもの調子を取り戻した平助が怒り出す。始まった追いかけっこは、当分続きそうだった。
そんな三人を見ながら、総司がぼやく。
「私は絶対認めない。八木さんが何て言おうと、必ず倒して捕縛するよ。平助ってばほんとどうかしちゃってる。あんな奴に懸想するなんてさ」
そして一人、道場に向かって歩き出した。今から稽古に励むのだろうか。その顔には闘志が漲っており、暫くは道場が荒れる事を予感させた。
一方、その様子を見ていた土方と近藤はと言うと――。
「どう思う? 近藤さん」
「そうだな……俺もあの子はそんなに悪い人間には見えなかったな。どこかの間者かとも思ったが、そういう訳でもなさそうだったしなぁ。歳こそどう感じたんだ? 女子と言う以外にも何かが気になっているんだろう?」
この二人は誰よりも旧知の仲であり、新選組の前身である壬生浪士組を結成する、ずっと以前からのお互いをよく知っている。その為か、何も言わなくてもお互いの感情の変化を読み取る事が出来た。
「あんたも今言ったように、まず彼奴は『子』なんだよ。やけに擦れて大人びた喋りをしているが、体つきからして多分十五、六くらいじゃねぇか? その若さであの強さ。しかも全く流派の存在しない、我流そのものだ。あれはいくら道場剣術で免許皆伝になっても身に付かねぇ、実戦経験でのみ成せる業だろう。それがどうもちぐはぐと言うか……見ていて妙な気にさせやがる」
「目元が隠れているからよく分かっていなかったが、そんなに若いのか? ならば彼女は一体どのような人生を歩んできたんだろうか」
「それは知らねぇよ。だが彼奴は多分、生きる為に本能で戦ってやがるんだろうな。……認めたくはねぇが、今の俺達ではどうやったって敵わねぇ」
悔しそうに拳を握りしめる土方の言葉を、近藤は真剣に聞いていた。