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第3章 接触

「俺は女を用心棒にするのは、どうかと思うんだがな」
「――おんなぁっ!?」

 それは、壬生村中に響き渡る程に大きな叫び。
 どうやら土方以外の誰一人、蘭を女だとは思っていなかったらしい。

「ちょっ、ウソだろ? マジで? ほんとに?」
「じゃあ私は女に負けたって事? 信じられない……信じたくないっ!!」

 平助と総司が、呆然と蘭を見つめる。

「信じられねぇな……でもまぁあんだけ華奢な体だし、納得はいくか」
「女誑しの土方さんだからこそ、見抜けたって奴か? しかし女にしておくのは惜しい強さだよな」

 永倉と原田は、土方と蘭を交互に見ながら頷いていた。
 そして八木はと言うと――。

「蘭はんが女子やったとは……」

 呆然自失と言ったところか。思いもよらない話が、頭を真っ白にさせてしまったようだ。 
 だがこの男、何だかんだで根が図太いらしく、すぐに頭を切り替えたのか再び蘭に話しかけた。

「蘭はんは、ほんまに女子なんか?」
「ああ」
「何で教えてくれはらへんかったんどす?」
「いや、聞かれなかったし……言う必要も無いだろう。強さに男も女も無いからな」
「なるほど……」

 八木はその言葉に感銘を受けたらしい。

「やはり蘭はんに用心棒をお頼みしますわ。おまさも娘が欲しい言うとったし、一石の鳥が増えますわな」

 うんうんと頷きながらポンと一つ手を叩くと「これで決まり。よろしおすな。皆はんあんじょう頼みますえ」と言い、ほな、と蘭の肩を叩くと玄関に入ってしまった。

 残された蘭は呆然としながら八木を見送ると、腕組みをして何かを考え始める。他の者達も、八木の決めた事に口を挟むことも出来ず、何とも言えない面持ちでいた。
 するとそこに、今度は八木の妻である雅がやってくる。

「まぁまぁ、この方が蘭はんやの? 今日からうちらを守ってくれはるんやて? しかも女子はんていやぁ、嬉しなぁ」
「え? あの……」
「はいはい、こっち来て詳しい話をしまひょ」
「あ、いや、その、えええぇ!?」

 勢いに押されっぱなしの蘭は、まるで嵐の如くやってきた雅に引っ張られ、抗う事も出来ぬまま、あっという間に連れ去られてしまった。

「さすが雅さん。あいつ、何も言えずに連れ去られていったな……」

 永倉が気の毒そうに言う。

「ひょっとして蘭は、俺達よりもよっぽど大変なもんに捕まったんじゃねぇ?」

 平助の言葉に誰一人反対する者は無く、皆大きく頷いた。
 結局捕縛はうやむやのまま、蘭は強引に八木家の用心棒とされてしまったのだが、新選組として本当にそれを認めて良いのかと言うと、それはまた別の問題で。

「良いんですか? 土方さん。貴方が悪くない話だなんて言ってしまったから、話が進んじゃったじゃないですか」

 総司が冷たい目で土方を見る。
 土方としては、蘭が女子だと分かればこの話は流れると思っていた。だがむしろますます乗り気になってしまった八木に、更なる否を唱える事が出来ないまま話を終えられてしまったわけだ。

「仕方ねぇだろう。八木さんにはお世話になってる立場だし、あまり強くは言えねぇんだからよ」
「だからと言って、素性の知れないあいつを用心棒として認めるのはなぁ……。八木さんの用心棒とは言え、常に同じ屋根の下にいる事になるわけだぜ? いつ俺達が寝首を掻かれるか分かったもんじゃねぇよ」

 永倉の言葉に、土方の眉間のしわが深くなる。しかし、平助がその言葉に反論した。
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