土方十四郎(現在51篇)

 煙草なんて嫌いなのに、その匂いを嗅いだだけでドキリと跳ねてしまう心臓。不快なはずの煙は、いつだって私の中にちぐはぐな感情を生み、戸惑わせる。

 テーブルの上には、あの人が忘れて行った煙草ケース。吸えもしないのに一本取り出し、先端に火を点けた。
 深く吸い込もうとしても体は受け付けず、噎せてしまう。
 あの人は何故いつも、こんな物を求め続けるのか。どうせ求めるのなら――。
 
「な~にやってんだ、お前は」
「十四郎……屯所に戻ったんじゃ無かったの?」
「人のモン勝手に吸ってんじゃねェよ。返せ」

 そう言った十四郎は、私の指から煙草を取り上げると、そのまま口に銜えた。

「煙草が体の一部みたいね。そんなに口寂しいの?」

 嫌みの一つでもかましておこうと言った私に、煙草を銜えたまま十四郎は答える。

「仕方ねェだろ。隊務中に代わりが出来るのは、コイツしかねェんだからよ」

 煙草を吸うための、苦し紛れの言い訳だろう。そう思った私が呆れたように「何の代わりなんだか」と言うと、暫く私を見つめた十四郎は徐に煙草を指に挟み、私にキスをした。

「コレの代わりに決まってんだろ」
「え……?」

 突然の事に驚く私に、十四郎が言う。

「煙草の後のお前の唇は、一段と甘いな」

 再びキスをしてきた十四郎は、手の中の煙草を灰皿に押し付けた。

20181019(金)16:20
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