土方十四郎(現在51篇)

障子の向こうに映る影は、想い人の物。

このたった一枚の仕切りが作る彼との距離は、どちらかが一歩を踏み出すまで縮むことは無い。
だから今は、あの影を揺らすことのできる蝋燭の灯りですら、私には羨ましかった。

こちらに背を向けている事を確認し、そっと障子の影に触れる。
切なさがこみ上げ、一筋の涙が頬を伝った。

「ばァか。泣くなっての」

不意に部屋の中から聞こえた声。

「あとほんの少しだ。辛抱してろ」

障子越しに土方さんの指が触れ、熱が伝わってきた。

「でも土方さん、私寂しくて……」
「分かってる。もう数日だけ待ってろ」
「何でこんな事に……」

触れている指が、燃えるように熱い。

「まさか今頃になって、土方さんがインフルエンザで隔離される羽目になるなんて……っ!」
「煩ェよっ!」

20180306(火)23:29
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