坂田銀時(現在95篇)

ふと気まぐれで立ち寄った馴染みの飲み屋は、閉店間近な事もあり客の姿が無かった。

「遅くにごめんね。一杯だけ良い?」
「あいよ。どこでも好きなとこ座んな」

促されてカウンターに座った時、ふと目に入った一人の男。
奥の座敷で酔いつぶれ、いびきをかく姿はもう見飽きてしまっている。

「何でここに銀時が……」
「嬢ちゃんを待ってたんだよ」

独り言のつもりだった私の疑問に、コップ酒を持って来たオヤジさんが答えてくれた。

「どこぞで嬢ちゃんが落ち込んでるとこを見たらしくてな。今夜はきっとここに来るだろうと踏んでたらしい」
「……何それ。大体私がここに入ったのは偶然だし、この道を通らなかったら違う店に入ってたかもしれないのに」
「理由なんざ知らねェが、銀ちゃんには分かっちまったんだろう。それだけ嬢ちゃんの事が好きだってこった」
「銀時が……私を?」

驚きで飲みかけのコップを落としそうになった私に、にやりと笑みを見せるオヤジさん。

「知らぬは本人ばかりなりってか。まァこれ以上の事は俺の口からは言えねェし、飲み終わったら二人夜道で語り合えや。それで良いんだろ? 銀ちゃんよォ」

オヤジさんの言葉を受けてか、座敷から聞こえていたいびきはピタリと止まり、もそもそと銀時が起き上がるのが分かった。

「……このくそオヤジ。余計な事をベラベラと喋りやがって」

忌々しげな声に振り向けば、バツが悪そうにしながらも切なげな瞳で銀時がこちらを見ている。
思わずドキリと心臓が飛び跳ね全身が熱くなったのは、全てお酒のせいだと思いたくて。
私は一気にコップの中身を飲み干した。

20180316(金)08:07
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