坂田銀時(現在95篇)

見事に咲いたハクモクレンの花を見上げながら歩いていると、数本先の木の下に、同じく花を見上げる男がいた。
白よりほんの少し青みがかった白銀の髪がとてもきれいで、花よりもそちらに目が行ってしまう。

でももっと気になったのは、薄汚れた着物に点々と散った赤。そして生気のない瞳。
何故か心がざわついた私は、やがて聞こえて来た呼子の音をきっかけに、男の手を取って引っ張った。

「こっちへ」

男が驚くのも気にせず、すぐ近くの私の家へと連れ込む。
戸に鍵をかけ、家の前をいくつもの足音が過ぎるのをやり過ごすと、ようやくほっと息を吐く事が出来た。

「何のつもりだよ、アンタ」

生気は無いのに殺意だけはたっぷりと込められた視線が私に向けられる。こんな危険な男を何故自分の家に連れ込んだかなんて、私にも分からなかった。

「寂しそうに見えたから……かもしれない」

恐怖を覚えてもおかしくないはずなのに、私の体は逃げる事無く男の正面に立つ。
目を見つめれば、紅い瞳が動揺するのが分かった。
その瞬間、いけないと分かっていながらも生まれてしまう感情。

「どこに向かおうとしているのかは知らないけど、時には羽を休める事も必要じゃない?」

反応を伺いながらそっと手を差し伸べれば、何の抵抗も無く頬に触れる事が出来た。

「ハクモクレンは数日しか咲かないわ」

そう言った私に、男は驚いた顔を見せる。

「すぐに散らしちまうかもしんねーぞ」
「その時はその時よ。精一杯咲ければ後悔なんてしないわ」

私が笑顔で答えると、男の表情は柔らかくなり、ゆっくりと口角が上がった。

20180315(木)00:09
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