坂田銀時(現在95篇)

雷は嫌い。
光と音と地響きと。それら全てが私の恐怖の対象であり、耐え難い苦痛となるから。

春の嵐とはよく言ったもので。その日、急な雷雨に見舞われた。
通りすがりに見つけた軒下でガタガタと震えていると、男が一人駆け込んで来る。そのまま私の横に立つと、空を見上げながら言った。

「ひでェ目に遭ったぜ。今朝は結野アナの天気予報を見る暇無かったからなァ」

まるで猫のように勢い良く頭を振って、髪を濡らす雨をはらう。
癖のある白髪が光り続ける雷を反射し、思わず目を奪われた。

「お姉さんも天気予報見てなかった口?まァ通り雨だろうし、暫く待てば落ち着くっしょ」

気怠そうに言った男だったが、ふと何かに気付いたように私を見つめ、目を細める。
その視線の意味が気になり、私が尋ねようとした時ーー。

「……っ!」

強い光と轟音がほぼ同時に辺りを包んだ。
と同時に私の体も何かに包み込まれる。
驚いて見上げるとそれは白髪の男で。私はいつの間にか彼の腕の中にいた。

「雷が怖いんだろ?通り過ぎるまでこうしててやるから」

そう言って私を抱きしめている彼の力はとても優しくて、私が嫌ならいつでも抜け出せるようにと配慮してくれているようだった。

「うん……ありがとう」

初対面の男の腕の中にも関わらず、礼を述べていた事に驚いたのは私自身。
それ程までに、男の腕の中は安心できた。

「……何だか不思議。貴方が居てくれると、雷が怖く無くなりそう」

私の言葉に男は驚いたのか、目を見開く。そしてフッと優しい笑みを浮かべると言った。

「そんじゃ、雷の時はいつでもどうぞ」

それを聞いて、思わず私の心臓が跳ねる。

ふと気が付けば雷は遠のき、空が明るくなり始めているというのに。
今度は私の心に春の嵐が訪れてしまったようだった。

20180309(金)00:04
41/95ページ
応援👍