坂田銀時(現在95篇)

 触れた額の熱さに不安が募る。
 いつもの憎まれ口はどこへ行ってしまったのか。こちらが何を尋ねてもただ頷くだけのお前に、俺はただ戸惑うばかりだ。

「バカは風邪引かねーって言うのにな。……薬は飲んだのか?」

 俺の言葉にうっすらと目を開け、小さくこくりと頷く。そしてまたすぐに、その目は閉じられてしまった。

「……調子狂うぜ」

 氷水に浸けたタオルを絞りながら、浅い呼吸で苦しげに横たわっているお前を見つめる。ただの風邪だとは分かっていても、こんな姿を見たくはなかった。

「ったく、何で銀さんがこんな事ーー」

 そう言いながら、タオルを額に乗せてやる。
 一瞬体をびくりと震わせて再び目を開けたお前は、虚ろな眼差しで俺を見ると、嬉しそうに微笑んだ。しかもゆっくりとした瞬きで礼を伝えてくるもんだから、俺の心はざわつくばかりだ。

「あーもーホント、迷惑な話だよな」

 きつい言葉とは裏腹に、お前の熱を吸い取ってしまうようにと願いつつ、氷水で冷えた手を頬に当てた。

「さっさと治らねーと……」

 眉間にしわを寄せて睨む俺を不安げに見上げるお前に、俺は顔を近付ける。

「襲っちまうぞ」

 こうして挑発しておけばお前の事だ。きっとすぐに回復するよな?

 紡いだ言葉と重ねた唇、どちらを先に認識したのか。風邪が治ったら真っ先に聞いてやるとしよう。
 唇から伝わってくる高い熱を感じながら、そんな事を考えていた。


ver.3 2019/1/14
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