坂本辰馬(現在1篇)
【紅】
紅 を引くのが苦手だ。
ただ唇に色を乗せるだけだというのに、どれだけ回を重ねても何故か上手くいかず、違和感しか無い。
「もう、何がいけないわけ?」
今日もまた鏡の中には、おかしな紅を引いた自分が映っている。
はぁっと大きくため息を吐き、諦め半分で紅を落とそうとしていると、不意に辰馬が声をかけてきた。
「機嫌悪そうじゃのぅ。どうしたがか?」
「急いでるのに、紅がちゃんと引けなくて」
「なんじゃァ、そがいな事かい」
「なっ……私には大変な事なの!」
大した事が無いと言われ、カチンときた私が怒ると、辰馬は慌てて前言を撤回する。
「すまんすまん、怒らせるつもりは無かったき。ただ、おまんは紅なんぞ引かんでも、十分綺麗じゃと思うとるからのぅ」
「え……?」
想像もしていなかった褒め言葉が恥ずかしくて、思わず顔が赤くなった。それを見た辰馬は、屈託のない笑顔で言う。
「紅がおかしゅう見えるのは、おまん自身が見慣れとらんからじゃき。男から見れば美しゅう仕上がっとるが、強いて言うなら……おまんにはちっくと色が濃過ぎるのかもしれんのぅ」
「色が?」
「あァ。試しにわしが直してやるき。ちょっくら失礼」
「……っ」
そう言いながら私に唇を重ねてきた辰馬は、何度も角度を変えて唇をこすり合わせた。
「……おまんには、このくらいが丁度ええ」
「見てみィ」と促されて見た鏡には、色付きリップが塗られた程度の赤みを帯びた、私の唇が映っている。辰馬の言う通り、その仕上がりはとてもしっくりくるものだった。
「ほんとだ……ありがと」
紅が馴染んだのは嬉しかったけれど、そこに至るまでの行為が恥ずかしくて、語尾が小さくなる。
そんな私の心を知ってか知らずか、「おまんの事は、誰よりも分かっちょる。これからは全てわしに任すとええ」と言った辰馬は、優しく微笑みながら、私の肩を抱き寄せた。
〜了〜
ただ唇に色を乗せるだけだというのに、どれだけ回を重ねても何故か上手くいかず、違和感しか無い。
「もう、何がいけないわけ?」
今日もまた鏡の中には、おかしな紅を引いた自分が映っている。
はぁっと大きくため息を吐き、諦め半分で紅を落とそうとしていると、不意に辰馬が声をかけてきた。
「機嫌悪そうじゃのぅ。どうしたがか?」
「急いでるのに、紅がちゃんと引けなくて」
「なんじゃァ、そがいな事かい」
「なっ……私には大変な事なの!」
大した事が無いと言われ、カチンときた私が怒ると、辰馬は慌てて前言を撤回する。
「すまんすまん、怒らせるつもりは無かったき。ただ、おまんは紅なんぞ引かんでも、十分綺麗じゃと思うとるからのぅ」
「え……?」
想像もしていなかった褒め言葉が恥ずかしくて、思わず顔が赤くなった。それを見た辰馬は、屈託のない笑顔で言う。
「紅がおかしゅう見えるのは、おまん自身が見慣れとらんからじゃき。男から見れば美しゅう仕上がっとるが、強いて言うなら……おまんにはちっくと色が濃過ぎるのかもしれんのぅ」
「色が?」
「あァ。試しにわしが直してやるき。ちょっくら失礼」
「……っ」
そう言いながら私に唇を重ねてきた辰馬は、何度も角度を変えて唇をこすり合わせた。
「……おまんには、このくらいが丁度ええ」
「見てみィ」と促されて見た鏡には、色付きリップが塗られた程度の赤みを帯びた、私の唇が映っている。辰馬の言う通り、その仕上がりはとてもしっくりくるものだった。
「ほんとだ……ありがと」
紅が馴染んだのは嬉しかったけれど、そこに至るまでの行為が恥ずかしくて、語尾が小さくなる。
そんな私の心を知ってか知らずか、「おまんの事は、誰よりも分かっちょる。これからは全てわしに任すとええ」と言った辰馬は、優しく微笑みながら、私の肩を抱き寄せた。
〜了〜
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