桂小太郎(現在12篇)

【紅】

 べにを引くのが苦手だ。
 ただ唇に色を乗せるだけだというのに、どれだけ回を重ねても何故か上手くいかず、違和感しか無い。

「もう、何がいけないわけ?」

 今日もまた鏡の中には、おかしな紅を引いた自分が映っている。
 はぁっと大きくため息を吐き、諦め半分で紅を落とそうとしていると、不意に桂くんが声をかけてきた。

「どうした? 随分と苛ついているようだが」
「桂くん……うん、お恥ずかしながら、紅が上手く引けなくて」
「そうか。ならば俺が引いてやろう」
「え? 桂くんが?」
「敵地への潜入で、何度か女装をしているからな。任せておけ」

 あれよあれよと言う間に、桂くんの手へと渡る紅入れ。でも紅筆は受け取らず、まずは薬指で私の唇に触れた。
 左右に優しく往復し、やがて紅入れから紅を取って唇に乗せること数回。

「……よく似合う」

 紅入れを私に差し出した桂くんが言った。

「何もせずとも、整った顔立ちだとは思っていたが……紅を差すとますます映えるな」

 そのまましばし私を見つめ、何かを考え込む。そしておもむろに、紅の残った薬指を、自らの唇に寄せた。

「なれば……お主の白い肌に紅を差せばどうなるか、言わずと知れたもの」

 そう言って桂くんは、指に残った紅をペロリと舌に乗せる。

「是非ともその姿、拝んでみたいものだ」

 意味深な笑みと共に紡がれた不穏なセリフは、舌の紅と混ざりながら、私の首筋を伝っていった。

〜了〜
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