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坂田銀時(現在95篇)

【紅】

 べにを引くのが苦手だ。
 ただ唇に色を乗せるだけだというのに、どれだけ回を重ねても何故か上手くいかず、違和感しか無い。

「もう、何がいけないわけ?」

 今日もまた鏡の中には、おかしな紅を引いた自分が映っている。
 はぁっと大きくため息を吐き、諦め半分で紅を落とそうとしていると、不意に銀時が声をかけてきた。

「未だ終わってねーのかよ」
「煩いわね。女は準備に時間をかけるもんなの!」

 苛立ちを隠さず言えば、フッと鼻で笑う銀時。そして私と鏡の間にドカリと座り込むと、顔を覗き込みながら言った。

「化粧したって大して変わんねーんだから、さっさと終わらせちまえってんだ」
「な……っ! 失礼なやーー」

 あまりの言葉に反論してやろうと思ったのに。いつの間にか銀時の手に移っていた紅筆は、私の唇の動きを止めた。

「『紅を差す』って言葉、知ってるか? お前のはただ塗りたくってるだけだから、上手くいかねーんだよ。こうしてそっと乗せりゃァ良いんだっつーの」

 銀時の手によって、トントンと唇に乗せられていく紅。促されて見た鏡の中の自分は、ほんの少し色付いただけにも関わらず、大人びて見えた。

「こんなに薄い色なのに、キレイに見えるもんなんだねぇ。ありがと」

 嬉しさに頬を緩めながら言えば、何故か返ってきたのは不機嫌な答え。

「別に普段と何も変わっちゃいねェよ」

 そう言って銀時は、私の頬に手を当てた。

「紅なんざ無くたって……」

 まっすぐに目を見つめられ、ドキリと心臓が跳ねる。

「あの……銀……時?」
「あー、くそッ! せっかく今まで我慢してきたってェのに、紅なんて差しちまうから俺は……!」

 銀時の顔が近付き、重なる影。
 やがて気付けば、紅はすっかりと消え落ちており。代わりに私の唇を覆っていた銀時の熱が、私を色付かせていた。

〜了〜

2019/12/10
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