高杉晋助(現在16篇)

【紅】

 べにを引くのが苦手だ。
 ただ唇に色を乗せるだけだというのに、どれだけ回を重ねても何故か上手くいかず、違和感しか無い。

「もう、何がいけないわけ?」

 今日もまた鏡の中には、おかしな紅を引いた自分が映っている。
 はぁっと大きくため息を吐き、諦め半分で紅を落とそうとしていると、不意に高杉が声をかけてきた。

「相変わらず下手くそだな」
「煩いな。アンタには関係ないでしょ」

 ムッとして言い返せば、おかしそうに笑って私の顎を掴む高杉。

「な、何よ……」
「俺が直してやろうか」
「……は?」

 何を言っているのかと訊ねる間もなく、重ねられた唇。驚きで見開いた目に飛び込んできたのは、私の紅がうつった、高杉の唇だった。

「た……かすぎ……?」
「テメェは濃く塗りすぎてんだよ。……あァ、でもちっとばかし取りすぎちまったな」
「ん……っ」

 今度は啄むように唇が触れる。
「悪かねェな」の言葉とともに見せられた鏡には、キレイに紅を差した私がいて。

「自分でできねェなら、これからも俺がやってやろうか」

 そう言って口角を上げた高杉は、自らの唇に残った紅をペロリと舐めとった。

〜了〜
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