土方十四郎(現在51篇)
【嘘つき】
「今夜は泊まっていってくれるんでしょう?」
そう言った私に、彼は一瞬困ったような表情を見せる。だがすぐに小さなため息をつくと、「ああ」と言って頷いた。
チクリと胸が痛むのを隠し、口づけをせがむ。染み付いたタバコの香りが、触れただけの唇の隙間から、私の中に零れ落ちた。
「嘘つき」
そんな気なんてさらさら無い癖に、いつだって私に気を使って否定の言葉を飲み込むのだ。それがどれだけ私を傷つけているかも知らずに。
心なんてどこにもないキス。恋も愛も存在しない、ただ無機質なキスを与えられて喜ぶ女なんているはずがないじゃない。
「……もう良い」
せめて私から別れてやろう。そう思って彼を押しのけた。本当は睨みつけてもやりたかったけど、今の私の目には、滲んで何も見えていない。
「バイバイ」
涙が頬を伝うのも構わず踵を返した私は、一秒でも早くこの場を立ち去りたくて早足で歩く。それなのに、たどり着いたのは何故か彼の腕の中だった。
「離して!」
もがく私を強く抱きしめ、彼は言う。
「お前は未だガキだから、俺が大人にならなきゃいけねェと思ってーー」
「……っ!」
そのまま強引に重ねられた唇に、嘘はなかった。
「今夜は泊まっていってくれるんでしょう?」
そう言った私に、彼は一瞬困ったような表情を見せる。だがすぐに小さなため息をつくと、「ああ」と言って頷いた。
チクリと胸が痛むのを隠し、口づけをせがむ。染み付いたタバコの香りが、触れただけの唇の隙間から、私の中に零れ落ちた。
「嘘つき」
そんな気なんてさらさら無い癖に、いつだって私に気を使って否定の言葉を飲み込むのだ。それがどれだけ私を傷つけているかも知らずに。
心なんてどこにもないキス。恋も愛も存在しない、ただ無機質なキスを与えられて喜ぶ女なんているはずがないじゃない。
「……もう良い」
せめて私から別れてやろう。そう思って彼を押しのけた。本当は睨みつけてもやりたかったけど、今の私の目には、滲んで何も見えていない。
「バイバイ」
涙が頬を伝うのも構わず踵を返した私は、一秒でも早くこの場を立ち去りたくて早足で歩く。それなのに、たどり着いたのは何故か彼の腕の中だった。
「離して!」
もがく私を強く抱きしめ、彼は言う。
「お前は未だガキだから、俺が大人にならなきゃいけねェと思ってーー」
「……っ!」
そのまま強引に重ねられた唇に、嘘はなかった。