土方十四郎(現在51篇)

 こんなにも近くにいるのに、いつだって貴方の存在は遠かった。
 今だってこうして私の隣で眠っていても、二人の間には見えない高い壁が存在している。

「寂しいって言ったところで、貴方には届かないね」

 頬を伝う涙が、布団にいくつものシミを作る。明日もまた干さなきゃいけないな……なんて事をボンヤリと考えていると、不意に聞こえた言葉。

「届いちゃいるさ。……ただ、俺に踏み出す勇気が無いだけだ」

 いつの間に起きてたんだろう。肩が触れても決して私に手を出す事なく、背中を向けて眠っているから分からなかった。

「私の気持ちを知っていても、勇気は出せない?」
「俺はあくまでお前の護衛だからな」
「……そっか……」

 鬼の副長が隊務を疎かにするはずが無い。私が諦めのため息を吐くと、それに呼応するかのように土方さんはゆっくりとこちらを向いた。

「だが、お前が望むなら……」

 少しだけ頬を赤く染め、でも真剣な表情を見せて言う土方さん。だからこそ私は、その言葉の意味を理解出来た。
 きっかけを女に任せるなんてズルイ男だとは思ったけれど、そんな事はどうでも良い。

「私を守ってくれますか? 心も、体も――生涯をかけて」
「……ああ」

 躊躇いながらも伸ばされた手が私の頬に触れ、ゆっくりとお互いを引き寄せる。
 待ち焦がれていた熱は、想像よりずっと熱く、情熱的だった。
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