高杉晋助(現在16篇)

 また子は盲目的に追いかけてるけど、私はいつだって冷めた目でしか見られなかった。
 全てを壊すだの何だの言ったところで、ちっぽけな人間一人、何が出来るってんだか。心底そう思ってたから。

 そんな私の心を見透かしているのか、冷めた目と皮肉な笑みで私を見る高杉。その割に、私を側に置いているのだから意味が分からない。

「自分に心酔してる人間だけにしておかないと、いつか寝首をかかれるかもよ」

 一人窓から月を見上げ、紫煙を燻らせている彼の後ろに立つ。首から数ミリの所で止めたナイフの切れ味は、誰よりもこの男が分かっているはずだ。
 だが、高杉に動揺は微塵も感じられない。

「せっかく綺麗な満月だってのに、野暮な事してんじゃねェよ」

 しかもその声は楽しそうで、実に不愉快だ。

「今すぐここでこの首、掻き切ってあげようか?」

 手に力を込め、高杉の首にナイフの先端を押し付けようとした私は、すぐにそれが叶わぬ事と知る。

「そいつァ困るな。未だ俺はやる事が残ってるんでね」

 私の手首はしっかりと掴まれ、一ミリたりとも動かない。

「だがこの緊張感は心地イイな」

 そう言った高杉は次の瞬間、素早い動きで私を引き倒し、上からのし掛かった。咄嗟に睨みつけた私の顔を見下ろすその顔は、妖しい微笑みを浮かべている。

「……これだからお前を手放せねェんだ」

 その言葉は、唇越しに私に伝わった。

2018/10/21
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