桂小太郎(現在12篇)

熾烈な戦いの中にある、短く貴重な休息のひととき。
傷の治療をしたり、体力回復の為の食事や睡眠をとる者が多い中、桂さんは一人皆から離れた場所で戦況確認をしていた。

「少しはお休みにならないと」

こういう時の桂さんは、何を言っても聞いてくれない事を知っている。
それでも心配になり、せめてこれだけでもと私は栄養飲料のパックを差し出しながら言った。
私の出現を想定していなかったのだろう。少し驚いた目で私を見た桂さんだったが、フッと笑みを浮かべてそれを受け取ってくれる。

「すまない。だがここが正念場なのでな。皆が命を懸けて戦ってくれている以上、少しでも戦いやすい状況を作ってやらねば」

パックを口にし、一瞬で空にした桂さんはふぅっと大きくため息を吐く。その表情は疲れ切っているというのに、決して弱音を吐こうとはしなかった。
それならば、と私は一つ提案する。

「では、先ほど私が集めて来た前線の情報をまとめる間だけ、ここで仮眠を取りませんか? 目覚めた時には情報があり、頭もすっきりしていれば更に良い案も浮かぶでしょう」
「前線の情報? 君は一体何を……」
「直接相手と戦う事は出来ませんが、諜報は得意なんですよ。一兵卒の私にも、ちょっとは目立つ働きをさせて下さい」

そう言って私はその場に座ると、ポンポンと膝を叩いた。

「はい、簡易枕です」
「……え!? いや、それはさすがに……」
「膝枕って、足がしびれるんですよね。戦場での足のしびれは命とりです。ってなわけで急いで仕事を終わらせますから、桂さんはしびれタイマーのスイッチとして私の膝に乗っておいてください」
「それは無茶苦茶な理由ではないか?」
「貴方が休息を取れるなら、理由なんて何でも良いんです。それに、体を休める事も上に立つ者の仕事であり義務だと思いますよ。貴方が倒れたらどれだけの仲間が困る事か」

もう一度膝を叩き、桂さんを呼ぶ。
少し困った顔をしていた桂さんだったが、やがて小さく頷くとゆっくり体を横たえ、私の膝に頭を乗せた。

「では情報がまとまるまで、な」

そう言った数秒後にはもう、聞こえてくる寝息。余程疲れていた事が分かり、私は苦笑いをするしか無い。

そんな中ふと顔を上げれば、少し離れた所からこちらを伺う影が三つ。
膝が揺れないようにそっと両手を上げ、大きく丸を作って見せると、影はそのまま姿を消した。

「皆、貴方を心配しているんですよ。……もちろん私も」

私はそう小さく呟くと、既にまとめておいた資料を懐から出し、桂さんの持っていた資料に重ねたのだった。

20180313(火)00:06
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