斎藤さんにご用心
最近、気付いた事がある。
朝から副長の機嫌が良い日は、ほぼ間違い無く山崎くんが疲れた顔をしているのだ。
一度あまりに顔色が悪く心配になり、声をかけた事があったが、
「ご心配おかけしてすみません。ちょっと疲れが溜まってまして……気合いが足りていませんね」
と流されてしまった。
山崎くんは、俺以上に副長からの仕事を受ける事が多い。もしかして、俺が知らないだけで、相当厳しい任務を与えられているのだろうか?
副長は割と無茶な仕事を頼む事がある。俺も何度か苦労はしたが、あそこまで顔色が悪くなる程に疲れた記憶は無かった。
今朝も、山崎くんの顔色は悪い。しかもよく見ると、目に少し潤みもあるようだ。
新選組隊士たるもの、体調管理にも気を配れねば、いざという時に命も危ぶまれるではないか。俺は差し出がましいとは思いながらも、副長に掛け合う事にした。
「副長、宜しいでしょうか?」
「斉藤か? 入れ」
中に入ると案の定、ご機嫌の副長がいた。しかも心なしか肌のツヤも良く、スッキリした顔をしているように見える。
疲れを溜めた山崎くん。機嫌の良い副長。果たしてこの謎の答えは……?
考えるより、直接話を聞いた方が早い。
「副長にお聞きしたい事があるのですが……」
「あん? 何だよ、改まって」
「最近、山崎くんが疲れきっている姿をよく見かけています。しかも何故かその時は、副長のご機嫌が良い。これは何か理由があるのでしょうか」
遠回しに聞くのは、俺の性に合わない為、単刀直入に聞いてみた。すると、副長が目を見開いて驚いている。
「お前……よく見てるな」
「誰でも気付くと思いますが。あれだけ疲れてフラフラになっていては、隊務に支障が出ます」
「そんなに酷い状態なのか?……ちっとばかしやり過ぎたか……加減してやんなきゃなんねーな」
ブツブツと独り言を言う副長は、何故か少し楽しそうにも見えた。
「副長?」
「おっと、すまねぇ。山崎には俺から休むよう言っておく」
「承知しました。しかし一体どのような任務を遂行すれば、あんなに疲れてしまうのでしょう? 副長がご機嫌だという事は、毎回成功しているのでしょうが……山崎くんが辛いようでしたら、時には俺が変わりましょうか?」
それだけ厳しいのなら、やり甲斐も達成感もあるだろう。単純な興味から、そう口にしたのだが……。
「あ、いや……」
何故か副長が動揺している。 それも、真っ青になりながら。
「副長?俺は何かまずい事を言ったのでしょうか?」
こんな副長を見たのは初めてかもしれない。それ程までに動揺を促す事を、俺は言ったのか?
「あー……お前が山崎を心配してるのはよく分かった。部下の体調管理も上司の仕事だからな。後は俺に任せろ」
視線を泳がせながら言う副長は、完全に挙動不審だ。この様子から鑑みるに、俺には言えないような極秘任務という事か。
それならば仕方ないな。これ以上詮索はすまい。
「承知しました」
俺は素直に引き下がった。それが隊士としての正しい在り方だから。
「失礼しました」
部屋を出ると、そこには顔を真っ赤にした山崎くんが立っていた。慌てたように頭を下げ、声をかける間もなく副長室に入る。きっと極秘任務の報告だろう。彼は優秀な人材だ。俺も彼のように、副長に極秘任務を与えられるほどの信頼を得られるように精進せねば。
そう己の心に誓った俺は、湯呑みが割れたような音が後ろから聞こえたのも気にせず、自分の部屋へと戻った。
ちなみに部屋に戻ると、何故かお腹を抱えて笑い転げている総司がいて。何がそんなにおかしいのかと尋ねはしたが、結局その笑いの理由を聞き出す事は出来なかったのだった。
~了~
朝から副長の機嫌が良い日は、ほぼ間違い無く山崎くんが疲れた顔をしているのだ。
一度あまりに顔色が悪く心配になり、声をかけた事があったが、
「ご心配おかけしてすみません。ちょっと疲れが溜まってまして……気合いが足りていませんね」
と流されてしまった。
山崎くんは、俺以上に副長からの仕事を受ける事が多い。もしかして、俺が知らないだけで、相当厳しい任務を与えられているのだろうか?
副長は割と無茶な仕事を頼む事がある。俺も何度か苦労はしたが、あそこまで顔色が悪くなる程に疲れた記憶は無かった。
今朝も、山崎くんの顔色は悪い。しかもよく見ると、目に少し潤みもあるようだ。
新選組隊士たるもの、体調管理にも気を配れねば、いざという時に命も危ぶまれるではないか。俺は差し出がましいとは思いながらも、副長に掛け合う事にした。
「副長、宜しいでしょうか?」
「斉藤か? 入れ」
中に入ると案の定、ご機嫌の副長がいた。しかも心なしか肌のツヤも良く、スッキリした顔をしているように見える。
疲れを溜めた山崎くん。機嫌の良い副長。果たしてこの謎の答えは……?
考えるより、直接話を聞いた方が早い。
「副長にお聞きしたい事があるのですが……」
「あん? 何だよ、改まって」
「最近、山崎くんが疲れきっている姿をよく見かけています。しかも何故かその時は、副長のご機嫌が良い。これは何か理由があるのでしょうか」
遠回しに聞くのは、俺の性に合わない為、単刀直入に聞いてみた。すると、副長が目を見開いて驚いている。
「お前……よく見てるな」
「誰でも気付くと思いますが。あれだけ疲れてフラフラになっていては、隊務に支障が出ます」
「そんなに酷い状態なのか?……ちっとばかしやり過ぎたか……加減してやんなきゃなんねーな」
ブツブツと独り言を言う副長は、何故か少し楽しそうにも見えた。
「副長?」
「おっと、すまねぇ。山崎には俺から休むよう言っておく」
「承知しました。しかし一体どのような任務を遂行すれば、あんなに疲れてしまうのでしょう? 副長がご機嫌だという事は、毎回成功しているのでしょうが……山崎くんが辛いようでしたら、時には俺が変わりましょうか?」
それだけ厳しいのなら、やり甲斐も達成感もあるだろう。単純な興味から、そう口にしたのだが……。
「あ、いや……」
何故か副長が動揺している。 それも、真っ青になりながら。
「副長?俺は何かまずい事を言ったのでしょうか?」
こんな副長を見たのは初めてかもしれない。それ程までに動揺を促す事を、俺は言ったのか?
「あー……お前が山崎を心配してるのはよく分かった。部下の体調管理も上司の仕事だからな。後は俺に任せろ」
視線を泳がせながら言う副長は、完全に挙動不審だ。この様子から鑑みるに、俺には言えないような極秘任務という事か。
それならば仕方ないな。これ以上詮索はすまい。
「承知しました」
俺は素直に引き下がった。それが隊士としての正しい在り方だから。
「失礼しました」
部屋を出ると、そこには顔を真っ赤にした山崎くんが立っていた。慌てたように頭を下げ、声をかける間もなく副長室に入る。きっと極秘任務の報告だろう。彼は優秀な人材だ。俺も彼のように、副長に極秘任務を与えられるほどの信頼を得られるように精進せねば。
そう己の心に誓った俺は、湯呑みが割れたような音が後ろから聞こえたのも気にせず、自分の部屋へと戻った。
ちなみに部屋に戻ると、何故かお腹を抱えて笑い転げている総司がいて。何がそんなにおかしいのかと尋ねはしたが、結局その笑いの理由を聞き出す事は出来なかったのだった。
~了~
1/1ページ