花に嵐
やがて、俺を見つめる山崎の視線に耐えられなくなった頃。さっさと屯所に戻りゃ良いんじゃねぇかって事に気付いてハッとする。
これ以上目を合わせてたら、どうにかなっちまいそうだ。その場の雰囲気に流されてちゃたまんねぇ。
俺はそっぽを向きながら傘を自らに引き寄せると、「雷は去ったんだ。雨の中を歩くくらいは出来んだろ。さっさと屯所に戻るぞ」と言って、帰る方向を向いた。
「はい」と山崎の返事を確認し、傘に入れと促せば素直に俺の隣に立つ。同時に足を踏み出すと、山崎も小走りで俺に付いてきた。
俺は普通に歩いてるつもりなんだが、こいつは体が小さい分歩幅が狭いんだろうな。必死にちょこまかと足を動かしている様が妙におかしくて、思わず頬が緩んだ。
しかも、だ。
「副長、私が傘をお持ちしますので……」と手を伸ばしてくるのだからおかしくて。こいつなりに俺を気遣っての事だろうが、体格差を考えたら、明らかに無理があるだろうっての。
必死に伸ばしてくる手だって、触れた感触はこんなにも華奢で柔らかくて、ちょっと強めに握ったら折れちまいそうだ。
「ばぁか。背の低いお前が持ったらどうなるかって事、分かんねぇのか?」
「ちゃんと副長のお邪魔にならないよう、手を伸ばして差しますよ」
「手ぇ伸ばして背伸びして……ってか? んな不格好な奴と一緒に歩くくらいなら、俺は濡れ鼠で帰った方がよっぽど良い」
「……そこまで言いますか……」
「こういう事は、出来る奴がやれば良いんだよ。お前は……せいぜい足の長い俺に置いて行かれないよう、必死に歩け」
「なっ……!」
思った事を言っただけだが、山崎にとってはからかいにしかならねーか。だが俺の言葉に一瞬頬を膨らませ、すぐに気を取り直した時の表情は面白かった。
いつも冷静な山崎にも、こんな一面があるんだな。我慢しきれなくなっちまって、笑いながら歩く俺を山崎は軽く睨んでいたが、屯所に着く頃にはまたいつもの山崎に戻っていた。
結局屯所に着くまで雨足が弱まる事は無く。
傘を差していても既にびしょ濡れだったこともあり、このままだと風邪をひいちまうからと風呂で体を温めた。
その後改めて山崎が副長室へとやってきて、今日の仕事についての報告をする。
「……以上です」
「そうか、ご苦労だったな」
一通りの話を聞き終え、俺が労いの言葉をかけると、一礼して立ち上がった山崎が踵を返す。だが俺は咄嗟にそれを引き留めた。
「ちょっと待て、山崎」
「何でしょうか?」
山崎が振り向くより早く後ろに立ち、手を伸ばす。
「ちょっとよく顔を見せてみろ」
「はあ?」
眉を顰める山崎の顎に手をかけ、クイと持ち上げた。それは、俺ですら驚いてしまった程に衝動的な行動。間近に山崎を見つめれば、やはり先ほどと同じく何とも言えない感情が湧き上がってくるのが分かる。
――今まで気にした事が無かったが……綺麗な顔をしてやがるな。
「副長?」
俺の視線から何かを感じたのか、山崎は戸惑っているようだった。
これ以上目を合わせてたら、どうにかなっちまいそうだ。その場の雰囲気に流されてちゃたまんねぇ。
俺はそっぽを向きながら傘を自らに引き寄せると、「雷は去ったんだ。雨の中を歩くくらいは出来んだろ。さっさと屯所に戻るぞ」と言って、帰る方向を向いた。
「はい」と山崎の返事を確認し、傘に入れと促せば素直に俺の隣に立つ。同時に足を踏み出すと、山崎も小走りで俺に付いてきた。
俺は普通に歩いてるつもりなんだが、こいつは体が小さい分歩幅が狭いんだろうな。必死にちょこまかと足を動かしている様が妙におかしくて、思わず頬が緩んだ。
しかも、だ。
「副長、私が傘をお持ちしますので……」と手を伸ばしてくるのだからおかしくて。こいつなりに俺を気遣っての事だろうが、体格差を考えたら、明らかに無理があるだろうっての。
必死に伸ばしてくる手だって、触れた感触はこんなにも華奢で柔らかくて、ちょっと強めに握ったら折れちまいそうだ。
「ばぁか。背の低いお前が持ったらどうなるかって事、分かんねぇのか?」
「ちゃんと副長のお邪魔にならないよう、手を伸ばして差しますよ」
「手ぇ伸ばして背伸びして……ってか? んな不格好な奴と一緒に歩くくらいなら、俺は濡れ鼠で帰った方がよっぽど良い」
「……そこまで言いますか……」
「こういう事は、出来る奴がやれば良いんだよ。お前は……せいぜい足の長い俺に置いて行かれないよう、必死に歩け」
「なっ……!」
思った事を言っただけだが、山崎にとってはからかいにしかならねーか。だが俺の言葉に一瞬頬を膨らませ、すぐに気を取り直した時の表情は面白かった。
いつも冷静な山崎にも、こんな一面があるんだな。我慢しきれなくなっちまって、笑いながら歩く俺を山崎は軽く睨んでいたが、屯所に着く頃にはまたいつもの山崎に戻っていた。
結局屯所に着くまで雨足が弱まる事は無く。
傘を差していても既にびしょ濡れだったこともあり、このままだと風邪をひいちまうからと風呂で体を温めた。
その後改めて山崎が副長室へとやってきて、今日の仕事についての報告をする。
「……以上です」
「そうか、ご苦労だったな」
一通りの話を聞き終え、俺が労いの言葉をかけると、一礼して立ち上がった山崎が踵を返す。だが俺は咄嗟にそれを引き留めた。
「ちょっと待て、山崎」
「何でしょうか?」
山崎が振り向くより早く後ろに立ち、手を伸ばす。
「ちょっとよく顔を見せてみろ」
「はあ?」
眉を顰める山崎の顎に手をかけ、クイと持ち上げた。それは、俺ですら驚いてしまった程に衝動的な行動。間近に山崎を見つめれば、やはり先ほどと同じく何とも言えない感情が湧き上がってくるのが分かる。
――今まで気にした事が無かったが……綺麗な顔をしてやがるな。
「副長?」
俺の視線から何かを感じたのか、山崎は戸惑っているようだった。