花に嵐
「きゃぁぁっ!」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
「お、おい、山崎っ!?」
動揺したまま叫んだ俺の視界に映っているのは、俺にしがみついてガタガタと震えている山崎の姿。そして先ほど聞こえたのは、まるで女子のような悲鳴。
飛びつかれた勢いで落としてしまった傘を拾おうにも、全力でしがみついて来ている山崎がいる以上、一歩も体を動かせない。しかも、だ。
――何でこいつは、こんなにも小さくて柔らかいんだ……?
今まで俺は男女共、腕の中に迎え入れた事がある。っつっても、男の場合は柔術やらなんやらで、羽交い絞めにしたって話だがな。もちろん女は言わずもがな、だ。
だからこそ、分かる。こいつの抱き心地は……男じゃねぇ。でも山崎は男で、新選組の監察の人間だ。これは一体どういう事なんだ?
俺が硬直していると、はっと気が付いたように山崎が顔を上げる。
「すみませ……やぁっ!」
どうやら俺に謝ろうとしたらしいが、またすぐに次の雷鳴が轟き、再び叫びながらしがみついてきた。
「おい、山崎? 離れろって!」
山崎も動揺しているようだが、今のこの状態は俺だって動揺している。
「山崎! いい加減離れろ! 山崎!」
そう何度も怒鳴ってはみたが、なかなか鳴り止まない雷鳴がそれを許してはくれず。結局俺の方が根負けをして、抱きつく山崎を振り解けぬまま、雷鳴が過ぎ去るのを待った。
やがて雷鳴が遠のき、雨の音だけが耳に残るようになった頃。
落ち着いたと同時に恥ずかしくなったらしい山崎が、弾かれたように俺から離れる。
「す、すみません! お見苦しいところをお見せして……!」
深々と頭を下げる山崎に、俺は苦笑いを浮かべるしかない。何故なら、認めたくは無いのだが……こいつが離れた事を寂しく思った自分がいたからだ。
俺は断じて男色じゃねぇ。だが山崎を腕の中に感じた時、想像だにしなかった柔らかさが、俺の中の何かをおかしくしちまったんだろうか。
生まれたばかりの奇妙な感覚に思わず顔が赤くなっちまったのが分かり、崩れそうになった口元を手で覆った。
「いつも冷静なお前が、雷なんぞを怖がって我を忘れちまうなんてな」
我を忘れてんのはテメェもだろ! と自分に突っ込みたい気持ちを必死に抑え、冷静に言い放つと、「面目次第もございません」と言って山崎がもう一度頭を下げた。
それと同時に、俺が落としていた傘に気付いたらしい。
「副長、傘を……!」
山崎は慌てたように傘を拾い上げると、俺に差し出した。
「ああ」
傘を受け取ろうと手を伸ばし、柄を掴む。 その際に俺の手が、柄と一緒に山崎の指に触れた。
思わずビクリと体が震えてしまい、危うく傘を落としそうになる。だが俺は、何事かと驚いて顔を見上げてくる山崎に動揺を気取られぬよう、いつもと変わらぬ表情で見つめ返した。
実際は山崎を意識しすぎて、頭の中が混乱していたんだがな。
触れた指から手を離す事も出来ず、相手の体温を指先で感じながら、まるで時が止まったかのように、俺達は暫しの間見つめ合っていた。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
「お、おい、山崎っ!?」
動揺したまま叫んだ俺の視界に映っているのは、俺にしがみついてガタガタと震えている山崎の姿。そして先ほど聞こえたのは、まるで女子のような悲鳴。
飛びつかれた勢いで落としてしまった傘を拾おうにも、全力でしがみついて来ている山崎がいる以上、一歩も体を動かせない。しかも、だ。
――何でこいつは、こんなにも小さくて柔らかいんだ……?
今まで俺は男女共、腕の中に迎え入れた事がある。っつっても、男の場合は柔術やらなんやらで、羽交い絞めにしたって話だがな。もちろん女は言わずもがな、だ。
だからこそ、分かる。こいつの抱き心地は……男じゃねぇ。でも山崎は男で、新選組の監察の人間だ。これは一体どういう事なんだ?
俺が硬直していると、はっと気が付いたように山崎が顔を上げる。
「すみませ……やぁっ!」
どうやら俺に謝ろうとしたらしいが、またすぐに次の雷鳴が轟き、再び叫びながらしがみついてきた。
「おい、山崎? 離れろって!」
山崎も動揺しているようだが、今のこの状態は俺だって動揺している。
「山崎! いい加減離れろ! 山崎!」
そう何度も怒鳴ってはみたが、なかなか鳴り止まない雷鳴がそれを許してはくれず。結局俺の方が根負けをして、抱きつく山崎を振り解けぬまま、雷鳴が過ぎ去るのを待った。
やがて雷鳴が遠のき、雨の音だけが耳に残るようになった頃。
落ち着いたと同時に恥ずかしくなったらしい山崎が、弾かれたように俺から離れる。
「す、すみません! お見苦しいところをお見せして……!」
深々と頭を下げる山崎に、俺は苦笑いを浮かべるしかない。何故なら、認めたくは無いのだが……こいつが離れた事を寂しく思った自分がいたからだ。
俺は断じて男色じゃねぇ。だが山崎を腕の中に感じた時、想像だにしなかった柔らかさが、俺の中の何かをおかしくしちまったんだろうか。
生まれたばかりの奇妙な感覚に思わず顔が赤くなっちまったのが分かり、崩れそうになった口元を手で覆った。
「いつも冷静なお前が、雷なんぞを怖がって我を忘れちまうなんてな」
我を忘れてんのはテメェもだろ! と自分に突っ込みたい気持ちを必死に抑え、冷静に言い放つと、「面目次第もございません」と言って山崎がもう一度頭を下げた。
それと同時に、俺が落としていた傘に気付いたらしい。
「副長、傘を……!」
山崎は慌てたように傘を拾い上げると、俺に差し出した。
「ああ」
傘を受け取ろうと手を伸ばし、柄を掴む。 その際に俺の手が、柄と一緒に山崎の指に触れた。
思わずビクリと体が震えてしまい、危うく傘を落としそうになる。だが俺は、何事かと驚いて顔を見上げてくる山崎に動揺を気取られぬよう、いつもと変わらぬ表情で見つめ返した。
実際は山崎を意識しすぎて、頭の中が混乱していたんだがな。
触れた指から手を離す事も出来ず、相手の体温を指先で感じながら、まるで時が止まったかのように、俺達は暫しの間見つめ合っていた。