大人の恋には未だ早い
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残された銀時はと言えば、自分の起こした大胆な行動を思い出し、吹き出した汗を拭いながら目を泳がせている。
だがやがてその視線は、自らの首に巻かれたマフラーによって固定された。
「誕生日、か……」
『誕生日』という言葉を知ったのは、柚希たちと出会ってからだ。自らの誕生日どころか出自を知らぬ銀時にとって、誕生日など縁のないものだと思っていたのに、こんな形で祝われる日が来るとは。
「……未だ暑いっつーの」
マフラーに手をかけ、鼻先まで持ち上げる。
羽織と同じく、砂糖菓子でも香水でもない柚希の生命を感じられる匂いが鼻孔をくすぐり、銀時の口元がゆるんだ。
「ひょっとして最近アイツがよそよそしかったのって、コレを作ってた事を秘密にしてたからか?」
「ご名答」
「どわァッ!」
本日二回目の悲鳴を上げる。振り向けばそこには松陽がニコニコ笑顔で立っていた。
「どいつもこいつも驚かしやがって!」
「すみませんねぇ。貴方の反応が面白くてつい」
「……趣味悪ィ」
ジト目を向けられ、頭を掻きながらヘラリと笑う松陽。
「あはははは。まあそれについては今は横に置いておきまして……お誕生日おめでとうございます、銀時」
「別にめでたくなんかねェよ。年食うばっかだし、そもそも柚希が勝手に決めたもんだしよ」
「良いじゃありませんか。それに誕生日は、ただ年を重ねたことだけをお祝いする日じゃありません。その人が生まれてきてくれたことに感謝する日でもあるんですよ」
「だったら余計に縁がねェだろ。誰が俺なんかに感謝するんだってーの。やっぱ誕生日なんてモンは必要な──」
銀時がそこまで言った時だった。松陽の表情がすぅっと変わり、真剣なものとなる。
「本気で思ってますか? そのマフラーを見ても?」
「それは……」
静かな怒りに気圧され、銀時はたじろいだ。
「最近柚希と私がよく出かけていたでしょう? 実は隣町の編み物教室へ習いに行っていましてね。私は保護者として付き添っていましたが、『シロは喜んでくれるかな?』とそれはそれは嬉しそうに編んでいたんですよ。ギリギリまで頑張って、今日ようやく出来上がったんです」
「……」
松陽の言葉に何も言えなくなる。柚希の思いに気付かされ、自身の浅はかさに胸がチクリと痛んだ。
そんな銀時を見ていた松陽はと言うと、自分の言葉がきちんと銀時に伝わった事が分かり、表情が柔らかくなる。
「ねぇ銀時、誰にだって誕生日はあるんです。だから柚希がシロと名付けた坂田銀時の誕生日は今日、十月十日。これからは胸を張ってそう答えなさい」
「……分かったよ」
拗ねたように答えた銀時だったが、その口元は小さく微笑んでいた。
「ではそろそろ行きましょうか」
「行くってどこへだよ」
「私の部屋ですよ。柚希が準備してくれているので行きましょう」
そう言った松陽は銀時の頭をポンポンと優しく叩いて移動を促す。何が待ち受けているのだろうと部屋に足を踏み入れれば、そこに広がっていたのは驚きの光景。
「すげェ……」
テーブルの上に所狭しと並べられた食事は、全て銀時が好んだ物だった。そして真ん中にはホールケーキが置かれ、『Happy Birthday』の文字が書かれている。
「今日は銀時の初めての誕生日ですからね。自由に好きなものをお腹いっぱい食べて下さい」
「マジでか!? 好きなだけ??」
「はい、どうぞ」
「やりィ!」
満面の笑みを見せる銀時に、同じく笑顔を見せる松陽。
ところが配膳をしている柚希を見て何かを思い出したのか、銀時を背後から抱きしめた。そして柚希に聞こえないよう、銀時に耳打ちする。
「好きなだけ食べてくれて構いませんが……柚希のお味見は駄目ですよ。大人の真似は未だちょっと早いですからね」
「……ッ!」
まさかアレを見られていたとは思わず、顔を真っ赤にして絶句する銀時。その素直な反応にクスクスと笑いながら、松陽は言った。
「柚希、そろそろお願いできますか?」
「は〜い」
銀時が赤くなった理由に気付かず、でも先程の出来事による動揺を残しながらろうそくに火を灯す。各々着席して電気を消すと、松陽と柚希がハッピーバースデーの曲を歌い、終了と共に銀時が火を吹き消した。
「おめでとー、シロ」
「おめでとう、銀時」
「お、おぅ」
初めての自分の誕生パーティーはやはり照れくさいのだろう。暫くはそわそわと落ち着かない様子だったが、やがて料理に手を伸ばし食べ始めれば、いつもの銀時らしさが戻る。その姿に柚希と松陽は、満足げな笑みを浮かべたのだった。
日付が変わる頃。
全てをやり終えて気が抜けたのか、深い眠りに就いている柚希に一つの影が近付いた。
それは柚希の隣で寝ていたはずの銀時。しばしの間息を潜めて柚希の寝顔を見つめていたが、やがて小さくため息をつくと再び自らの布団に戻った。
「名前とか誕生日とか……でけェもんばっかだよなァ」
仰向けになり目を瞑れば、大きなあくびが漏れる。
「出会った時からお前は俺に色々なものをくれてんのに、俺は何一つやれるもんが無ェんだよ。それでも──」
ゆるゆると襲い来る眠気に微睡みながら、銀時は言った。
「お前は本当にこれからも……俺の誕生日ってやつを祝い続けて……くれる……」
言葉を紡ぎきらぬまま、意識が沈んでいく銀時。
そんな彼の疑問に答えるものはおらず、返ってきたのは二つの静かな寝息だけだった。
しかし翌朝松陽が銀時と柚希を起こしに行った時、何故か二人の手はしっかりと繋がれていたという。
それが何を意味するのかに銀時が気付く日は、そう遠くはないだろう──。
〜了〜
だがやがてその視線は、自らの首に巻かれたマフラーによって固定された。
「誕生日、か……」
『誕生日』という言葉を知ったのは、柚希たちと出会ってからだ。自らの誕生日どころか出自を知らぬ銀時にとって、誕生日など縁のないものだと思っていたのに、こんな形で祝われる日が来るとは。
「……未だ暑いっつーの」
マフラーに手をかけ、鼻先まで持ち上げる。
羽織と同じく、砂糖菓子でも香水でもない柚希の生命を感じられる匂いが鼻孔をくすぐり、銀時の口元がゆるんだ。
「ひょっとして最近アイツがよそよそしかったのって、コレを作ってた事を秘密にしてたからか?」
「ご名答」
「どわァッ!」
本日二回目の悲鳴を上げる。振り向けばそこには松陽がニコニコ笑顔で立っていた。
「どいつもこいつも驚かしやがって!」
「すみませんねぇ。貴方の反応が面白くてつい」
「……趣味悪ィ」
ジト目を向けられ、頭を掻きながらヘラリと笑う松陽。
「あはははは。まあそれについては今は横に置いておきまして……お誕生日おめでとうございます、銀時」
「別にめでたくなんかねェよ。年食うばっかだし、そもそも柚希が勝手に決めたもんだしよ」
「良いじゃありませんか。それに誕生日は、ただ年を重ねたことだけをお祝いする日じゃありません。その人が生まれてきてくれたことに感謝する日でもあるんですよ」
「だったら余計に縁がねェだろ。誰が俺なんかに感謝するんだってーの。やっぱ誕生日なんてモンは必要な──」
銀時がそこまで言った時だった。松陽の表情がすぅっと変わり、真剣なものとなる。
「本気で思ってますか? そのマフラーを見ても?」
「それは……」
静かな怒りに気圧され、銀時はたじろいだ。
「最近柚希と私がよく出かけていたでしょう? 実は隣町の編み物教室へ習いに行っていましてね。私は保護者として付き添っていましたが、『シロは喜んでくれるかな?』とそれはそれは嬉しそうに編んでいたんですよ。ギリギリまで頑張って、今日ようやく出来上がったんです」
「……」
松陽の言葉に何も言えなくなる。柚希の思いに気付かされ、自身の浅はかさに胸がチクリと痛んだ。
そんな銀時を見ていた松陽はと言うと、自分の言葉がきちんと銀時に伝わった事が分かり、表情が柔らかくなる。
「ねぇ銀時、誰にだって誕生日はあるんです。だから柚希がシロと名付けた坂田銀時の誕生日は今日、十月十日。これからは胸を張ってそう答えなさい」
「……分かったよ」
拗ねたように答えた銀時だったが、その口元は小さく微笑んでいた。
「ではそろそろ行きましょうか」
「行くってどこへだよ」
「私の部屋ですよ。柚希が準備してくれているので行きましょう」
そう言った松陽は銀時の頭をポンポンと優しく叩いて移動を促す。何が待ち受けているのだろうと部屋に足を踏み入れれば、そこに広がっていたのは驚きの光景。
「すげェ……」
テーブルの上に所狭しと並べられた食事は、全て銀時が好んだ物だった。そして真ん中にはホールケーキが置かれ、『Happy Birthday』の文字が書かれている。
「今日は銀時の初めての誕生日ですからね。自由に好きなものをお腹いっぱい食べて下さい」
「マジでか!? 好きなだけ??」
「はい、どうぞ」
「やりィ!」
満面の笑みを見せる銀時に、同じく笑顔を見せる松陽。
ところが配膳をしている柚希を見て何かを思い出したのか、銀時を背後から抱きしめた。そして柚希に聞こえないよう、銀時に耳打ちする。
「好きなだけ食べてくれて構いませんが……柚希のお味見は駄目ですよ。大人の真似は未だちょっと早いですからね」
「……ッ!」
まさかアレを見られていたとは思わず、顔を真っ赤にして絶句する銀時。その素直な反応にクスクスと笑いながら、松陽は言った。
「柚希、そろそろお願いできますか?」
「は〜い」
銀時が赤くなった理由に気付かず、でも先程の出来事による動揺を残しながらろうそくに火を灯す。各々着席して電気を消すと、松陽と柚希がハッピーバースデーの曲を歌い、終了と共に銀時が火を吹き消した。
「おめでとー、シロ」
「おめでとう、銀時」
「お、おぅ」
初めての自分の誕生パーティーはやはり照れくさいのだろう。暫くはそわそわと落ち着かない様子だったが、やがて料理に手を伸ばし食べ始めれば、いつもの銀時らしさが戻る。その姿に柚希と松陽は、満足げな笑みを浮かべたのだった。
日付が変わる頃。
全てをやり終えて気が抜けたのか、深い眠りに就いている柚希に一つの影が近付いた。
それは柚希の隣で寝ていたはずの銀時。しばしの間息を潜めて柚希の寝顔を見つめていたが、やがて小さくため息をつくと再び自らの布団に戻った。
「名前とか誕生日とか……でけェもんばっかだよなァ」
仰向けになり目を瞑れば、大きなあくびが漏れる。
「出会った時からお前は俺に色々なものをくれてんのに、俺は何一つやれるもんが無ェんだよ。それでも──」
ゆるゆると襲い来る眠気に微睡みながら、銀時は言った。
「お前は本当にこれからも……俺の誕生日ってやつを祝い続けて……くれる……」
言葉を紡ぎきらぬまま、意識が沈んでいく銀時。
そんな彼の疑問に答えるものはおらず、返ってきたのは二つの静かな寝息だけだった。
しかし翌朝松陽が銀時と柚希を起こしに行った時、何故か二人の手はしっかりと繋がれていたという。
それが何を意味するのかに銀時が気付く日は、そう遠くはないだろう──。
〜了〜