大人の恋には未だ早い
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銀時が柚希と松陽から妙なよそよそしさを感じるようになったのは、ほんの数日前。傍から見ればいつもと変わらぬが、銀時にとってはわけの分からぬ疎外感に戸惑いを覚えていた。
銀時が松陽に拾われ柚希たちと共に暮らすようになって、はや一年が過ぎようとしている。その間このように感じたことは一度たりとも無かった。
「俺、何かしたっけか」
昼食後、一人竹刀を持って庭に出ながら考える。
この数日柚希と松陽は、野暮用があるからと二人して出かけることが多かった。それなら自分もと声をかけたが、毎度留守番していろと言われてしまえば強引について行くこともできない。
「……俺だけ除け者かよ」
ブンブンとヤケ気味に、ただ振り回されるだけの棒切れと化した竹刀は、吐き出されたため息同様覇気が無く。考えるほどにやる気も失われ、数分後には縁側で小さく丸まりふて寝してしまった。
どのくらい眠っていたのだろう。頬に当たる夕日の眩しさに目を覚ました銀時が体を起こすと、肩からスルリと羽織が滑り落ちた。
「……寒ッ」
寝起きで焦点の定まらぬまま羽織を引き寄せ、再び肩にかける。すると、ふわりと甘い匂いが銀時の鼻孔をくすぐった。
「……コレ、柚希のか」
目で見ずとも分かるほどに、傍にあるのが当たり前となった匂い。確信と共に深く息を吸い込めば、ゆっくりと口角が上がっていった。
「な〜んか安心すんだよな……」
「何が安心なの?」
「うわッ!」
不意に後ろから聞こえた声に、一瞬で銀時の意識が覚醒する。慌てるあまり思わず放り投げてしまった羽織は、弧を描いて柚希の頭にパサリと落ちた。
「ちょっと〜、人の羽織を投げないでよね」
「お、お前がいきなり驚かすのが悪いんだろ! いつの間に帰ってきてたんだよ」
独り言を聞かれてしまった恥ずかしさもあって、怒鳴るように言う銀時。対して柚希は呆れ顔を見せていた。
「三十分ほど前よ。帰ってきたらシロがここでうたた寝してたから、羽織をかけておいてあげたんじゃない。でもさすがに日も傾いてきたし、いい加減このままじゃ風邪引くと思って声をかけにきてあげたらこの仕打ち。失礼しちゃうわ」
「別に俺は頼んじゃいねーだろ。余計なお世話だっつーの」
「何よそれ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは無いんだけど」
投げられた羽織と持っていた袋を床に置き、銀時の前に座った柚希は、軽くペチリと音を立てて銀時の頬に触れる。
「ほら、こんなに冷たくなってるじゃない」
「どこがだっつーの。別に俺は……」
「ううん、冷えてる」
銀時の言葉を遮るように言った柚希は「ちょっと待っててよ」と一言加え、今しがた置いたばかりの袋を引き寄せた。そして中から取り出した物を「はい、プレゼント」と言って銀時の首にかける。それは少しばかり見た目がいびつだが、肌触りの良いマフラーだった。
温もりと共に優しい匂いが感じられたことから、柚希の手作りであると分かる。
「これは……?」
「少し早いかなとは思ったけど、これから重宝するはずよ。お誕生日おめでとう、シロ」
「……は?」
突然与えられた祝いの言葉の意味を理解できず、ぽかんとする銀時。しかし柚希にとってその反応は想定内だったらしく、マフラーの端を握って笑顔を見せた。
「私が貴方に『シロ』って名前を付けたのが去年の十月十日。丁度一年前の今日だったの。だから今日はシロの誕生日なんだよ」
「なんだそりゃ。勝手に人の誕生日なんざ作んなっての」
「良いじゃない。これからは毎年お祝いしてあげるからね。ありがたく思いなさいよ」
そう言うと柚希は、銀時の首の周りにマフラーを一周させた。
とその時、二人の顔が近付く。ハッと気付いた時にはお互いの吐息がかかる距離だった。間近で絡んだ視線からは、どちらも逃げられない。
「シロ……」
銀時の名を紡いだ唇が、小さく震えているのが分かる。その姿は銀時の心を大きく揺さぶった。
湧き上がった感情の名前は知らない。だが目の前で頬を赤く染め、自分を見つめている柚希に自分が触れたいのだと言うことだけは分かるから。
「柚希……」
名を呼びながら焦点が合わなくなる距離まで顔を寄せる。本能的に目を閉じ、唇で柚希に触れようとした時──。
「帰りましたよ〜!」
明るい声が屋敷内に響き渡り、玄関の方からパタパタと走る足音が聞こえてきた。瞬間的に身を引いた二人は、顔を真っ赤にしながらお互い目をそらす。
「せ、先生が帰ってきたみてェだな。出迎えに行くか?」
場を取り繕わんとして銀時が言うと、高速で頷く柚希。
「うん、うん、そうね。それじゃ!」
そして勢いよく立ち上がると、一瞬にして松陽の元へと走り去ってしまった。
銀時が松陽に拾われ柚希たちと共に暮らすようになって、はや一年が過ぎようとしている。その間このように感じたことは一度たりとも無かった。
「俺、何かしたっけか」
昼食後、一人竹刀を持って庭に出ながら考える。
この数日柚希と松陽は、野暮用があるからと二人して出かけることが多かった。それなら自分もと声をかけたが、毎度留守番していろと言われてしまえば強引について行くこともできない。
「……俺だけ除け者かよ」
ブンブンとヤケ気味に、ただ振り回されるだけの棒切れと化した竹刀は、吐き出されたため息同様覇気が無く。考えるほどにやる気も失われ、数分後には縁側で小さく丸まりふて寝してしまった。
どのくらい眠っていたのだろう。頬に当たる夕日の眩しさに目を覚ました銀時が体を起こすと、肩からスルリと羽織が滑り落ちた。
「……寒ッ」
寝起きで焦点の定まらぬまま羽織を引き寄せ、再び肩にかける。すると、ふわりと甘い匂いが銀時の鼻孔をくすぐった。
「……コレ、柚希のか」
目で見ずとも分かるほどに、傍にあるのが当たり前となった匂い。確信と共に深く息を吸い込めば、ゆっくりと口角が上がっていった。
「な〜んか安心すんだよな……」
「何が安心なの?」
「うわッ!」
不意に後ろから聞こえた声に、一瞬で銀時の意識が覚醒する。慌てるあまり思わず放り投げてしまった羽織は、弧を描いて柚希の頭にパサリと落ちた。
「ちょっと〜、人の羽織を投げないでよね」
「お、お前がいきなり驚かすのが悪いんだろ! いつの間に帰ってきてたんだよ」
独り言を聞かれてしまった恥ずかしさもあって、怒鳴るように言う銀時。対して柚希は呆れ顔を見せていた。
「三十分ほど前よ。帰ってきたらシロがここでうたた寝してたから、羽織をかけておいてあげたんじゃない。でもさすがに日も傾いてきたし、いい加減このままじゃ風邪引くと思って声をかけにきてあげたらこの仕打ち。失礼しちゃうわ」
「別に俺は頼んじゃいねーだろ。余計なお世話だっつーの」
「何よそれ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは無いんだけど」
投げられた羽織と持っていた袋を床に置き、銀時の前に座った柚希は、軽くペチリと音を立てて銀時の頬に触れる。
「ほら、こんなに冷たくなってるじゃない」
「どこがだっつーの。別に俺は……」
「ううん、冷えてる」
銀時の言葉を遮るように言った柚希は「ちょっと待っててよ」と一言加え、今しがた置いたばかりの袋を引き寄せた。そして中から取り出した物を「はい、プレゼント」と言って銀時の首にかける。それは少しばかり見た目がいびつだが、肌触りの良いマフラーだった。
温もりと共に優しい匂いが感じられたことから、柚希の手作りであると分かる。
「これは……?」
「少し早いかなとは思ったけど、これから重宝するはずよ。お誕生日おめでとう、シロ」
「……は?」
突然与えられた祝いの言葉の意味を理解できず、ぽかんとする銀時。しかし柚希にとってその反応は想定内だったらしく、マフラーの端を握って笑顔を見せた。
「私が貴方に『シロ』って名前を付けたのが去年の十月十日。丁度一年前の今日だったの。だから今日はシロの誕生日なんだよ」
「なんだそりゃ。勝手に人の誕生日なんざ作んなっての」
「良いじゃない。これからは毎年お祝いしてあげるからね。ありがたく思いなさいよ」
そう言うと柚希は、銀時の首の周りにマフラーを一周させた。
とその時、二人の顔が近付く。ハッと気付いた時にはお互いの吐息がかかる距離だった。間近で絡んだ視線からは、どちらも逃げられない。
「シロ……」
銀時の名を紡いだ唇が、小さく震えているのが分かる。その姿は銀時の心を大きく揺さぶった。
湧き上がった感情の名前は知らない。だが目の前で頬を赤く染め、自分を見つめている柚希に自分が触れたいのだと言うことだけは分かるから。
「柚希……」
名を呼びながら焦点が合わなくなる距離まで顔を寄せる。本能的に目を閉じ、唇で柚希に触れようとした時──。
「帰りましたよ〜!」
明るい声が屋敷内に響き渡り、玄関の方からパタパタと走る足音が聞こえてきた。瞬間的に身を引いた二人は、顔を真っ赤にしながらお互い目をそらす。
「せ、先生が帰ってきたみてェだな。出迎えに行くか?」
場を取り繕わんとして銀時が言うと、高速で頷く柚希。
「うん、うん、そうね。それじゃ!」
そして勢いよく立ち上がると、一瞬にして松陽の元へと走り去ってしまった。