変わらない事
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変わらない事が何より嬉しい。
そう思うようになったのは、いつからだろう。
きっかけは忘れてしまったが、今の柚希はいつだって「変わらない」事を望んでいた。
「なァ、これ食っても良い?」
大晦日。
例の如く、柚希が新年を迎えるための準備に勤しんでいると、銀時が訊いてきた。
その手にあったのは、元旦に皆で食べようと買っておいた『花びら餅』。しかもわけあって、戸棚の奥に隠しておいた物だった。
「ダメに決まってるでしょ。明日まで我慢して」
「良いじゃねーか。隠してあったってことは、こっちは余分なんだろ?」
「もう、目敏いんだから」
「まァ良いじゃねーの。年末の恒例行事ってやつよ」
「別に恒例なんじゃなくて、シロが勝手に……って、こら! 未だ良いって言ってない!」
「んー、やっぱ美味いわ」
会話の途中にも関わらず、一つを口に放り込む銀時。しかも満面の笑みでモグモグと口を動かしながら、次の花びら餅に手を伸ばす。
「これ以上はダメよ!」
咄嗟に残りを取り上げ、腕に抱え込んだ。一瞬動きの遅れた銀時の手は、虚しく空を切る。
「なァ、柚希ちゃん。もう一個! もう一個だけ、な?」
「だーめ」
「あと一個だけだから、頼む!」
めげることなく、拝むように頼んでくる銀時に、柚希は苦笑いをするしかなかった。
「もう……あと一個だけだからね」
必死さに負けて仕方なく手渡せば、銀時が「おう」と嬉しそうに受け取る。先程は丸呑み状態で口に入れていたが、今度は数回に分けて味わうように食べていた。
「シロってばほんと、子供の頃から好きよね、これ」
「まァな。正月しかお目にかかれねぇ代物だから、食える時に食っちまわなきゃと思ってたしよ」
「親父様と相談して隠しておいてるのに、恐ろしい嗅覚で見つけ出しては、大晦日の内に食べちゃうんだもん。お陰で毎回必ず余分に買う羽目になってたのよ」
「だから目に付くトコに置いてあるやつには手ェ出してねーだろ」
「それはそうだけど、やってることが大人になっても変わらないとは……」
全く悪びれない銀時に、柚希がため息を吐く。だがそのため息はあっさりと、銀時の笑みによって打ち消された。
「これだけが大晦日の楽しみだったからな。でもーー」
そこまで言った銀時は、柚希を抱き寄せる。優しく重ねられた唇は、甘い匂いを伴っていた。
「大人になった銀さんは、ちゃーんと食う前に許可をもらいに来たかんね。こうして『ごちそうさん』のキスだって出来るし、ガキの頃とは大きく違うっしょ」
大人だと主張しながらも、浮かべているのは子供の頃と変わらぬ笑顔。そんな銀時に、柚希が反論など出来るはずもなく。
ーーこの笑顔が見たくて、親父様に呆れられながらも、毎年多めに買ってたんだもの。結局私もあの頃と変わってないんだなぁ。
ささやかなことではあるけれど、変わらない事が何より嬉しい。
与えられるキスを素直に受けながら、柚希はそう思わずにはいられなかった。
〜了〜
そう思うようになったのは、いつからだろう。
きっかけは忘れてしまったが、今の柚希はいつだって「変わらない」事を望んでいた。
「なァ、これ食っても良い?」
大晦日。
例の如く、柚希が新年を迎えるための準備に勤しんでいると、銀時が訊いてきた。
その手にあったのは、元旦に皆で食べようと買っておいた『花びら餅』。しかもわけあって、戸棚の奥に隠しておいた物だった。
「ダメに決まってるでしょ。明日まで我慢して」
「良いじゃねーか。隠してあったってことは、こっちは余分なんだろ?」
「もう、目敏いんだから」
「まァ良いじゃねーの。年末の恒例行事ってやつよ」
「別に恒例なんじゃなくて、シロが勝手に……って、こら! 未だ良いって言ってない!」
「んー、やっぱ美味いわ」
会話の途中にも関わらず、一つを口に放り込む銀時。しかも満面の笑みでモグモグと口を動かしながら、次の花びら餅に手を伸ばす。
「これ以上はダメよ!」
咄嗟に残りを取り上げ、腕に抱え込んだ。一瞬動きの遅れた銀時の手は、虚しく空を切る。
「なァ、柚希ちゃん。もう一個! もう一個だけ、な?」
「だーめ」
「あと一個だけだから、頼む!」
めげることなく、拝むように頼んでくる銀時に、柚希は苦笑いをするしかなかった。
「もう……あと一個だけだからね」
必死さに負けて仕方なく手渡せば、銀時が「おう」と嬉しそうに受け取る。先程は丸呑み状態で口に入れていたが、今度は数回に分けて味わうように食べていた。
「シロってばほんと、子供の頃から好きよね、これ」
「まァな。正月しかお目にかかれねぇ代物だから、食える時に食っちまわなきゃと思ってたしよ」
「親父様と相談して隠しておいてるのに、恐ろしい嗅覚で見つけ出しては、大晦日の内に食べちゃうんだもん。お陰で毎回必ず余分に買う羽目になってたのよ」
「だから目に付くトコに置いてあるやつには手ェ出してねーだろ」
「それはそうだけど、やってることが大人になっても変わらないとは……」
全く悪びれない銀時に、柚希がため息を吐く。だがそのため息はあっさりと、銀時の笑みによって打ち消された。
「これだけが大晦日の楽しみだったからな。でもーー」
そこまで言った銀時は、柚希を抱き寄せる。優しく重ねられた唇は、甘い匂いを伴っていた。
「大人になった銀さんは、ちゃーんと食う前に許可をもらいに来たかんね。こうして『ごちそうさん』のキスだって出来るし、ガキの頃とは大きく違うっしょ」
大人だと主張しながらも、浮かべているのは子供の頃と変わらぬ笑顔。そんな銀時に、柚希が反論など出来るはずもなく。
ーーこの笑顔が見たくて、親父様に呆れられながらも、毎年多めに買ってたんだもの。結局私もあの頃と変わってないんだなぁ。
ささやかなことではあるけれど、変わらない事が何より嬉しい。
与えられるキスを素直に受けながら、柚希はそう思わずにはいられなかった。
〜了〜