想いを繋げて
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「……なんだこりゃ?」
いつものように寝ぼけ眼で起きてきた銀時の、開口一番のセリフがソレだった。
「あ、おはよ、シロ。可愛いでしょ? 頂き物なんだけど、せっかくだから飾ってみたの」
そう言いながら台所から出てきた柚希は、銀時の朝食のプレートをテーブルに置いた。
二人の視線の先にあるのは、社長机。そしてその上には小さな雛飾りが置かれている。
「何でこんなモンを貰うんだ? っつーかいつ貰ったんだよ。ひな祭りは今日だぜ? さすがに飾るのが遅すぎんだろ」
「頂いたのが昨日の夕方だったんだもん。これ、折り紙で作ったんだって。凄いよねぇ」
「ほー、折り紙ねェ」
近寄って手に取れば、確かにそれは緻密な作りの折り紙雛だった。
「折り紙が趣味のおばあちゃまが下さったのよ。私の身を護ってくれるからって」
「身を護るだァ? こんな人形がかよ」
「あれ、知らないの? 雛人形はその持ち主の身代わりに災厄を引き取ってくれると言われてるのよ。雛遊びと呼ばれるお人形遊びが原点とも言われてるけど、あのおばあちゃまは身代わり雛の説を取ってるのね」
「へェ……ま、そういう事なら大事に飾っとかなきゃな。雑に扱ったらバチが当たりそうだしよ」
いつもなら興味の無い物など放り出す銀時が、今回は珍しく丁寧に元の場所へと戻す。その姿にクスリと笑いながら、柚希は言った。
「そうだね……考えてみたら私も幼い頃は、当たり前のように雛人形を飾ってたなぁ」
「そう……なのか?」
「うん。女の子が生まれたら、母方の祖母が準備するって習わしがあるらしくてね。だから買ってくれたのは婆様で、毎年飾ってくれてたのは母様なんだ。懐かしい」
未だ銀時達に出会う前の、両親が健在だった頃を思い出し目を細めた柚希だったが、その思い出は同時に悲しい記憶も呼び起こしてしまう。思わず涙が溢れそうになった柚希は、慌てて銀時に背中を向けると、台所へと戻ろうとした。
ところがすぐにその体は、銀時の腕によって引き寄せられ、抱きしめられてしまう。
「ったく……すぐお前はそうやって辛いのを隠そうとするからな」
いつもより少しだけ強い力で柚希を抱きしめた銀時は、髪に口付けながら言った。
「お前の雛人形には、お前のお袋さんと婆さんの想いが詰まってたんだな。だからお前が一人になっちまった後、これだけ過酷な人生を歩んできても命を落とさず生き抜いて来れた。その身代わり人形とやらが、お前の命を護ってくれたんだろ」
「……っ」
銀時の言葉が胸に染み込んでいく。
悲しく寂しい思い出が、今を共に生きている銀時の言葉によって形を変えた瞬間だった。
「シロ……うん、そうだね。きっと母様と婆様が護ってくれたんだ」
「そーそー。そんでもってステキな彼氏と……先生に出会うきっかけもくれたんだろ」
「先生はともかく、ステキな彼氏って誰よ」
「ええッ!? そこはすぐに銀さんと分かってくんなきゃ」
「だって『ステキ』とイコールにならないんだもん」
「なんだとコラ! このまま襲っちまうぞ!」
「キャーッ! こわぁい!」
先ほどまでの泣きそうな顔は何処へやら。戯れ合う二人の間には笑顔しか存在してはいない。
「んの……ッ! 怖いなんてふざけた事言ってるのはこの口か!?」
笑顔でジタバタしている柚希の顎に手をかけ、強引に口付ける銀時。触れた唇から伝わってくる優しい熱は、柚希を一瞬で大人しくさせてしまう。
潤んだ瞳で見上げてくる柚希に向かって、銀時は優しく微笑みながら言った。
「これからは代替わりした雛人形が、お前を護ってくれんだろ」
そして今度は雛人形に視線を移す。
「……まァ、俺がお前を護る補佐的存在としてだろうけどよ」
その頬は、少しだけ赤くなっていた。
「シロ……ありがとう」
心の底から嬉しそうに言った柚希に、照れた顔のまま戻した銀時の視線が向けられる。そのまま自然と二人の顔は近付きーー。
未だ押入れの中で寝ていた神楽が起きるまで、二人の影が離れることはなかったのだった。
〜了〜
いつものように寝ぼけ眼で起きてきた銀時の、開口一番のセリフがソレだった。
「あ、おはよ、シロ。可愛いでしょ? 頂き物なんだけど、せっかくだから飾ってみたの」
そう言いながら台所から出てきた柚希は、銀時の朝食のプレートをテーブルに置いた。
二人の視線の先にあるのは、社長机。そしてその上には小さな雛飾りが置かれている。
「何でこんなモンを貰うんだ? っつーかいつ貰ったんだよ。ひな祭りは今日だぜ? さすがに飾るのが遅すぎんだろ」
「頂いたのが昨日の夕方だったんだもん。これ、折り紙で作ったんだって。凄いよねぇ」
「ほー、折り紙ねェ」
近寄って手に取れば、確かにそれは緻密な作りの折り紙雛だった。
「折り紙が趣味のおばあちゃまが下さったのよ。私の身を護ってくれるからって」
「身を護るだァ? こんな人形がかよ」
「あれ、知らないの? 雛人形はその持ち主の身代わりに災厄を引き取ってくれると言われてるのよ。雛遊びと呼ばれるお人形遊びが原点とも言われてるけど、あのおばあちゃまは身代わり雛の説を取ってるのね」
「へェ……ま、そういう事なら大事に飾っとかなきゃな。雑に扱ったらバチが当たりそうだしよ」
いつもなら興味の無い物など放り出す銀時が、今回は珍しく丁寧に元の場所へと戻す。その姿にクスリと笑いながら、柚希は言った。
「そうだね……考えてみたら私も幼い頃は、当たり前のように雛人形を飾ってたなぁ」
「そう……なのか?」
「うん。女の子が生まれたら、母方の祖母が準備するって習わしがあるらしくてね。だから買ってくれたのは婆様で、毎年飾ってくれてたのは母様なんだ。懐かしい」
未だ銀時達に出会う前の、両親が健在だった頃を思い出し目を細めた柚希だったが、その思い出は同時に悲しい記憶も呼び起こしてしまう。思わず涙が溢れそうになった柚希は、慌てて銀時に背中を向けると、台所へと戻ろうとした。
ところがすぐにその体は、銀時の腕によって引き寄せられ、抱きしめられてしまう。
「ったく……すぐお前はそうやって辛いのを隠そうとするからな」
いつもより少しだけ強い力で柚希を抱きしめた銀時は、髪に口付けながら言った。
「お前の雛人形には、お前のお袋さんと婆さんの想いが詰まってたんだな。だからお前が一人になっちまった後、これだけ過酷な人生を歩んできても命を落とさず生き抜いて来れた。その身代わり人形とやらが、お前の命を護ってくれたんだろ」
「……っ」
銀時の言葉が胸に染み込んでいく。
悲しく寂しい思い出が、今を共に生きている銀時の言葉によって形を変えた瞬間だった。
「シロ……うん、そうだね。きっと母様と婆様が護ってくれたんだ」
「そーそー。そんでもってステキな彼氏と……先生に出会うきっかけもくれたんだろ」
「先生はともかく、ステキな彼氏って誰よ」
「ええッ!? そこはすぐに銀さんと分かってくんなきゃ」
「だって『ステキ』とイコールにならないんだもん」
「なんだとコラ! このまま襲っちまうぞ!」
「キャーッ! こわぁい!」
先ほどまでの泣きそうな顔は何処へやら。戯れ合う二人の間には笑顔しか存在してはいない。
「んの……ッ! 怖いなんてふざけた事言ってるのはこの口か!?」
笑顔でジタバタしている柚希の顎に手をかけ、強引に口付ける銀時。触れた唇から伝わってくる優しい熱は、柚希を一瞬で大人しくさせてしまう。
潤んだ瞳で見上げてくる柚希に向かって、銀時は優しく微笑みながら言った。
「これからは代替わりした雛人形が、お前を護ってくれんだろ」
そして今度は雛人形に視線を移す。
「……まァ、俺がお前を護る補佐的存在としてだろうけどよ」
その頬は、少しだけ赤くなっていた。
「シロ……ありがとう」
心の底から嬉しそうに言った柚希に、照れた顔のまま戻した銀時の視線が向けられる。そのまま自然と二人の顔は近付きーー。
未だ押入れの中で寝ていた神楽が起きるまで、二人の影が離れることはなかったのだった。
〜了〜