松陽日記
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【松陽日記】
銀時が私達と一緒に暮らすようになってから、今日で五日が過ぎました。
初めは少しぎこちなかった子供たちも徐々に打ち解けており、平和な日々を送っています。
そんな中つい先ほど、私がのんびり日向でお茶をすすっていると、銀時が慌てて走り寄ってきました。
走る勢いそのままに私に飛びついた銀時は、私の袖を掴んで引っ張りながら言ったんです。
「柚希泣いてる! 涙たくさん出てる!」
「はい?」
その尋常ならざる慌てっぷりに何かとんでもない事件でも起こったのかと心配しつつ、銀時に導かれるままに辿り着いたのは、台所。
おや、と思い中を覗けば、そこにはポロポロと涙を流しながら包丁を握りしめている柚希の姿がありました。
「何があったんですか?」
そう言いながら台所に入った時にまず気付いたのは、ツンと鼻をつく独特の匂い。なるほどと思い調理台を見れば、予想通りの光景が広がっていました。
「大丈夫ですか? 柚希」
私は声をかけながら、ゆっくりと柚希に近付きます。突然側に行ったら、あの手の中の包丁がどうなるか分かったものではないですしね。
「その声、親父様……? やだ、シロってば親父様を呼んできちゃったの? 大丈夫だって言ったのに」
「貴女の事が心配で、血相を変えて私を呼びにきたんですよ」
その微笑ましさに私はくすくすと笑いながら、未だ目を開けられない柚希からそっと包丁を受け取りました。
まな板の上で半分ほど薄切りになった玉ねぎの横に包丁を置くと、台所の入り口で不安そうに覗き込んでいる銀時を手招きします。
「柚希、何で泣いてた?」
ゆっくりとこちらに歩み寄りながら、不安そうに柚希と私を交互に見る銀時はあまりにも可愛くて。私の中にムクムクと悪戯心がわいてきました。
「どうしましょう、銀時。柚希を泣かせていた意地悪な玉ねぎ星人が未だここに……」
「親父様!」
どうやら玉ねぎを切ると涙が出ることを知らないらしい銀時に、その事を教えてあげようと思ったのですが、しみる目をシパシパとさせながら柚希が私の発言を止めます。
「シロは真剣なんだからね! 趣味の悪いからかい方はしないの!」
「え〜? 私だって真剣にからかおうとしてたんですよ」
「……玉ねぎ星人なんて危険な物、食事には入れられないよね。今日の親子丼は、親父様の分だけ玉ねぎ抜きにしておかなきゃ」
「ああっ、嘘ですごめんなさい! 玉ねぎ大好きなんで私にも入れて下さい! むしろたっぷり目にお願いします~!」
ちょっとした悪戯も、聡い私の娘は許してくれないようですね。
大好きな玉ねぎを入れてもらおうと、慌てて詫びる私にため息を吐いて見せた柚希は、銀時に向かって言いました。
「玉ねぎはね、切ると涙が出る事が多いの。別に泣いてたわけでも、玉ねぎ星から来た天人なんて物のせいでもないからね」
「柚希、痛いとか悲しいは違う?」
「違うよ。親父様が痛い奴だとは思ったけど」
「……私の方が泣きそうなんですけど……銀時、慰めてくれます?」
手を広げて銀時を招き寄せようとすれば、守るように銀時を抱きかかえる柚希。それならばとさめざめ泣いてみても「泣きまねは通用しないからね!」と一蹴されてしまいました。
「ほんとにもう、親父様は……」
そう言って再び大きくため息を吐いた柚希は言います。
「美味しい親子丼を食べたかったら、シロに意地悪をせず大人しく待ってる事!」
「はい!」
どうやら許してもらえたようですね。私は元気よく返事をすると、柚希の腕の中で固まっている銀時を今度こそ呼び寄せました。
「では銀時、あちらで出来上がるのを待ちましょう」
「柚希、未だ涙出てる」
「大丈夫ですよ。すぐに落ち着きますから」
「……そうなのか?」
不思議そうに首を傾げながらも柚希が無理矢理作って見せた笑顔で納得したのか、銀時は私について台所を出てくれました。
やがて出来上がってきた親子丼の味と、銀時の食べっぷりに喜ぶ柚希の嬉しそうな顔に安心したのでしょう。初めて無邪気な笑顔を私たちに見せてくれたので、こうして日記に記しておこうと思います。
「……って日記が教本に紛れてたんだけどね、親父様。これは皆の前で音読しろって事?」
「違いますよぅ。返してくださーい!」
~了~
銀時が私達と一緒に暮らすようになってから、今日で五日が過ぎました。
初めは少しぎこちなかった子供たちも徐々に打ち解けており、平和な日々を送っています。
そんな中つい先ほど、私がのんびり日向でお茶をすすっていると、銀時が慌てて走り寄ってきました。
走る勢いそのままに私に飛びついた銀時は、私の袖を掴んで引っ張りながら言ったんです。
「柚希泣いてる! 涙たくさん出てる!」
「はい?」
その尋常ならざる慌てっぷりに何かとんでもない事件でも起こったのかと心配しつつ、銀時に導かれるままに辿り着いたのは、台所。
おや、と思い中を覗けば、そこにはポロポロと涙を流しながら包丁を握りしめている柚希の姿がありました。
「何があったんですか?」
そう言いながら台所に入った時にまず気付いたのは、ツンと鼻をつく独特の匂い。なるほどと思い調理台を見れば、予想通りの光景が広がっていました。
「大丈夫ですか? 柚希」
私は声をかけながら、ゆっくりと柚希に近付きます。突然側に行ったら、あの手の中の包丁がどうなるか分かったものではないですしね。
「その声、親父様……? やだ、シロってば親父様を呼んできちゃったの? 大丈夫だって言ったのに」
「貴女の事が心配で、血相を変えて私を呼びにきたんですよ」
その微笑ましさに私はくすくすと笑いながら、未だ目を開けられない柚希からそっと包丁を受け取りました。
まな板の上で半分ほど薄切りになった玉ねぎの横に包丁を置くと、台所の入り口で不安そうに覗き込んでいる銀時を手招きします。
「柚希、何で泣いてた?」
ゆっくりとこちらに歩み寄りながら、不安そうに柚希と私を交互に見る銀時はあまりにも可愛くて。私の中にムクムクと悪戯心がわいてきました。
「どうしましょう、銀時。柚希を泣かせていた意地悪な玉ねぎ星人が未だここに……」
「親父様!」
どうやら玉ねぎを切ると涙が出ることを知らないらしい銀時に、その事を教えてあげようと思ったのですが、しみる目をシパシパとさせながら柚希が私の発言を止めます。
「シロは真剣なんだからね! 趣味の悪いからかい方はしないの!」
「え〜? 私だって真剣にからかおうとしてたんですよ」
「……玉ねぎ星人なんて危険な物、食事には入れられないよね。今日の親子丼は、親父様の分だけ玉ねぎ抜きにしておかなきゃ」
「ああっ、嘘ですごめんなさい! 玉ねぎ大好きなんで私にも入れて下さい! むしろたっぷり目にお願いします~!」
ちょっとした悪戯も、聡い私の娘は許してくれないようですね。
大好きな玉ねぎを入れてもらおうと、慌てて詫びる私にため息を吐いて見せた柚希は、銀時に向かって言いました。
「玉ねぎはね、切ると涙が出る事が多いの。別に泣いてたわけでも、玉ねぎ星から来た天人なんて物のせいでもないからね」
「柚希、痛いとか悲しいは違う?」
「違うよ。親父様が痛い奴だとは思ったけど」
「……私の方が泣きそうなんですけど……銀時、慰めてくれます?」
手を広げて銀時を招き寄せようとすれば、守るように銀時を抱きかかえる柚希。それならばとさめざめ泣いてみても「泣きまねは通用しないからね!」と一蹴されてしまいました。
「ほんとにもう、親父様は……」
そう言って再び大きくため息を吐いた柚希は言います。
「美味しい親子丼を食べたかったら、シロに意地悪をせず大人しく待ってる事!」
「はい!」
どうやら許してもらえたようですね。私は元気よく返事をすると、柚希の腕の中で固まっている銀時を今度こそ呼び寄せました。
「では銀時、あちらで出来上がるのを待ちましょう」
「柚希、未だ涙出てる」
「大丈夫ですよ。すぐに落ち着きますから」
「……そうなのか?」
不思議そうに首を傾げながらも柚希が無理矢理作って見せた笑顔で納得したのか、銀時は私について台所を出てくれました。
やがて出来上がってきた親子丼の味と、銀時の食べっぷりに喜ぶ柚希の嬉しそうな顔に安心したのでしょう。初めて無邪気な笑顔を私たちに見せてくれたので、こうして日記に記しておこうと思います。
「……って日記が教本に紛れてたんだけどね、親父様。これは皆の前で音読しろって事?」
「違いますよぅ。返してくださーい!」
~了~