背中越しの約束
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【背中越しの約束】
「なァ柚希、今日は暇か?」
耳に息がかかるほどの距離で突然後ろから聞こえた声に、台所で洗い物をしていた柚希は振り向きもせず肩越しに包丁を突きつけた。
「ちょ、待て待て待て! いきなりこれはねーだろ!?」
両手を上げて固まる銀時の鼻先数センチの所には、包丁の先端。さすがの銀時も真っ青だ。
「なんだシロか。気配を消して後ろに立つアンタが悪いんでしょ」
「単純に驚かそうとしただけじゃねェか。っつーか、後ろに立ったら殺そうとするってオメーはゴ〇ゴ13か!?」
「それもかっこ良いなぁ」なんて物騒な事を言いながら、手で包丁を苦無のように回す柚希に、銀時が深いため息を吐く。
普通の女なら、驚いて「きゃぁ!」と可愛く悲鳴の一つも上げるだろうが、柚希の場合は体に染みついた戦いの記憶が、それを許してくれないらしい。
だからこそこういう驚かせ方は、自分の寿命を短くするだけだと分かっているはずなのに。懲りずにまた同じ事を繰り返す銀時もどうかしている。
「で? 本題は何なのよ」
手遊びに飽きたのか、包丁を調理台に置いた柚希は銀時を正面にして立つと、小首を傾げながら見上げてきた。
その仕草は密かに銀時のお気に入りであり、頬が緩む。
「あー、だから、お前は今日時間あるかって話」
「特に用事は無いよ。お散歩がてら買い物に行ってこようかなとは思ってたけど」
「そんじゃ、ちょっと遠出してみねェ? 依頼で手紙を届けるっつーのがあるんだけどよ。割と距離があるから、どうせならドライブがてらどうかと思ってな」
「ドライブって……スクーターでって事?」
「そ。最近は暖かくなってきたし、気持ち良いと思うぜ」
銀時に言われ、しばし考え込む柚希。確かにここ最近日中の気温は高くなってきており、春の訪れを感じさせる。軽く防寒対策をしておけば、少々遠出をしても負担にはならないだろう。それに断る理由も見つからない。
「せっかくの申し出だし、行ってみようかな」
「よっしゃ、決まりな。早速出かける準備しようぜ」
「新八くんと神楽ちゃんは?」
「あいつらは別件があるから気にすんな」
「そうなの? だったらすぐ準備するわ」
早く出かけたいとソワソワしているのが丸分かりな銀時に笑いながら、柚希はリュックに手荷物をまとめていく。そんな中ふと思い立って薄化粧を施すと、急いで万事屋を出た。
既に下ではスクーターにまたがり、エンジンをかけた銀時が待っている。
「お待たせ」
「おう。……なァ、お前グロスなんか持ってたっけ?」
「あ、気付いた? この間西郷さんにおススメされて買っちゃった。似合わないかな?」
普段あまり化粧をする事の無い柚希が、うっすらとでもメイクをして照れ笑いを見せる。そんな姿に暫く見惚れていた銀時だったが、すぐに小さく微笑むと言った。
「……いや、すげェ似合ってる」
「ほんと? 良かったぁ」
心から嬉しそうに笑う柚希に、銀時の笑みも深くなる。
「あーほんとほんと。あんまりにも可愛くなっちまったからよ」
「……シロ?」
「他の奴には見せたかねーな」
ツイと伸びてきた銀時の手が、柚希の腕を引いた。バランスを崩した柚希を器用に抱き留め、自然に唇を重ねる。
「んっ……」
角度を変えながら何度も啄まれ、ようやく解放された頃には完全に、グロスは取れてしまっていた。
「もう、シロってばこんな往来のど真ん中でなんて事すんのよ!」
恥ずかしさを怒りでごまかす柚希だったが、銀時はしれっとしたもので。自らの唇に移ったグロスを指で拭い、にやりと笑ってみせる。
「ばァか、こんなトコだからだっつーの。今後グロスは銀さんの前だけで付けなさい。……ほらよ」
未だ怒りの収まらない柚希に、ポンとヘルメットを投げて寄こす。放物線を描いて落ちて来たヘルメットを受け止めた柚希は、頬を膨らませながらもきちんと装着した。
――恥ずかしくて頭が沸騰してるくせに、こういうトコは素直なんだよなァ。
心の中で思いながらククッと笑う銀時を「何よ」と睨んで見せる柚希に怖さは無い。笑いを堪え切れぬまま「乗れよ」と言った銀時の言葉にしぶしぶ従った柚希は、後ろに座ると頬を膨らませたままギュッと銀時の腰にしがみついた。
「そんじゃァ行くとしますか」
その言葉を合図にアクセルを吹かす銀時。人ごみを器用にすり抜けながら、スクーターは目的地を目指して走り始めた。
「よぉ銀さん、べっぴんさん乗せてデートかい?」
「仕事だっつーの!」
「可愛い子乗せて、銀さんも隅に置けないねェ」
「うるせーよ、ばァか」
「ちょっと銀ちゃん! ツケ払ってよ!」
「急いでるので失礼しま~っす」
ただ町の中を走っているだけであちこちから声をかけられ、面倒くさそうにしながらも丁寧に答える銀時の姿に、柚希がクスリと笑う。
「何笑ってんだよ柚希」
声を出さずに笑っていても、サイドミラーにはばっちり映っている柚希の笑み。
理由が気になり尋ねてみると、柚希はミラー越しに銀時を見ながら言った。
「ん~……優しい町だなぁって思ったの」
「何だそりゃ」
「いつも金欠のシロに、ツケで飲ませてくれるお店があるんだもん。優しいじゃない?」
「そこォ!?」
クスクスと笑いが止まらなくなる柚希に盛大な溜息を吐く銀時だったが、その表情は明るい。こんなに軽い冗談を言い合える時が来るとは思っていなかっただけに、言葉にはしないが大きな幸せを感じていた。
「なァ柚希、今日は暇か?」
耳に息がかかるほどの距離で突然後ろから聞こえた声に、台所で洗い物をしていた柚希は振り向きもせず肩越しに包丁を突きつけた。
「ちょ、待て待て待て! いきなりこれはねーだろ!?」
両手を上げて固まる銀時の鼻先数センチの所には、包丁の先端。さすがの銀時も真っ青だ。
「なんだシロか。気配を消して後ろに立つアンタが悪いんでしょ」
「単純に驚かそうとしただけじゃねェか。っつーか、後ろに立ったら殺そうとするってオメーはゴ〇ゴ13か!?」
「それもかっこ良いなぁ」なんて物騒な事を言いながら、手で包丁を苦無のように回す柚希に、銀時が深いため息を吐く。
普通の女なら、驚いて「きゃぁ!」と可愛く悲鳴の一つも上げるだろうが、柚希の場合は体に染みついた戦いの記憶が、それを許してくれないらしい。
だからこそこういう驚かせ方は、自分の寿命を短くするだけだと分かっているはずなのに。懲りずにまた同じ事を繰り返す銀時もどうかしている。
「で? 本題は何なのよ」
手遊びに飽きたのか、包丁を調理台に置いた柚希は銀時を正面にして立つと、小首を傾げながら見上げてきた。
その仕草は密かに銀時のお気に入りであり、頬が緩む。
「あー、だから、お前は今日時間あるかって話」
「特に用事は無いよ。お散歩がてら買い物に行ってこようかなとは思ってたけど」
「そんじゃ、ちょっと遠出してみねェ? 依頼で手紙を届けるっつーのがあるんだけどよ。割と距離があるから、どうせならドライブがてらどうかと思ってな」
「ドライブって……スクーターでって事?」
「そ。最近は暖かくなってきたし、気持ち良いと思うぜ」
銀時に言われ、しばし考え込む柚希。確かにここ最近日中の気温は高くなってきており、春の訪れを感じさせる。軽く防寒対策をしておけば、少々遠出をしても負担にはならないだろう。それに断る理由も見つからない。
「せっかくの申し出だし、行ってみようかな」
「よっしゃ、決まりな。早速出かける準備しようぜ」
「新八くんと神楽ちゃんは?」
「あいつらは別件があるから気にすんな」
「そうなの? だったらすぐ準備するわ」
早く出かけたいとソワソワしているのが丸分かりな銀時に笑いながら、柚希はリュックに手荷物をまとめていく。そんな中ふと思い立って薄化粧を施すと、急いで万事屋を出た。
既に下ではスクーターにまたがり、エンジンをかけた銀時が待っている。
「お待たせ」
「おう。……なァ、お前グロスなんか持ってたっけ?」
「あ、気付いた? この間西郷さんにおススメされて買っちゃった。似合わないかな?」
普段あまり化粧をする事の無い柚希が、うっすらとでもメイクをして照れ笑いを見せる。そんな姿に暫く見惚れていた銀時だったが、すぐに小さく微笑むと言った。
「……いや、すげェ似合ってる」
「ほんと? 良かったぁ」
心から嬉しそうに笑う柚希に、銀時の笑みも深くなる。
「あーほんとほんと。あんまりにも可愛くなっちまったからよ」
「……シロ?」
「他の奴には見せたかねーな」
ツイと伸びてきた銀時の手が、柚希の腕を引いた。バランスを崩した柚希を器用に抱き留め、自然に唇を重ねる。
「んっ……」
角度を変えながら何度も啄まれ、ようやく解放された頃には完全に、グロスは取れてしまっていた。
「もう、シロってばこんな往来のど真ん中でなんて事すんのよ!」
恥ずかしさを怒りでごまかす柚希だったが、銀時はしれっとしたもので。自らの唇に移ったグロスを指で拭い、にやりと笑ってみせる。
「ばァか、こんなトコだからだっつーの。今後グロスは銀さんの前だけで付けなさい。……ほらよ」
未だ怒りの収まらない柚希に、ポンとヘルメットを投げて寄こす。放物線を描いて落ちて来たヘルメットを受け止めた柚希は、頬を膨らませながらもきちんと装着した。
――恥ずかしくて頭が沸騰してるくせに、こういうトコは素直なんだよなァ。
心の中で思いながらククッと笑う銀時を「何よ」と睨んで見せる柚希に怖さは無い。笑いを堪え切れぬまま「乗れよ」と言った銀時の言葉にしぶしぶ従った柚希は、後ろに座ると頬を膨らませたままギュッと銀時の腰にしがみついた。
「そんじゃァ行くとしますか」
その言葉を合図にアクセルを吹かす銀時。人ごみを器用にすり抜けながら、スクーターは目的地を目指して走り始めた。
「よぉ銀さん、べっぴんさん乗せてデートかい?」
「仕事だっつーの!」
「可愛い子乗せて、銀さんも隅に置けないねェ」
「うるせーよ、ばァか」
「ちょっと銀ちゃん! ツケ払ってよ!」
「急いでるので失礼しま~っす」
ただ町の中を走っているだけであちこちから声をかけられ、面倒くさそうにしながらも丁寧に答える銀時の姿に、柚希がクスリと笑う。
「何笑ってんだよ柚希」
声を出さずに笑っていても、サイドミラーにはばっちり映っている柚希の笑み。
理由が気になり尋ねてみると、柚希はミラー越しに銀時を見ながら言った。
「ん~……優しい町だなぁって思ったの」
「何だそりゃ」
「いつも金欠のシロに、ツケで飲ませてくれるお店があるんだもん。優しいじゃない?」
「そこォ!?」
クスクスと笑いが止まらなくなる柚希に盛大な溜息を吐く銀時だったが、その表情は明るい。こんなに軽い冗談を言い合える時が来るとは思っていなかっただけに、言葉にはしないが大きな幸せを感じていた。
