想い溢れて
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【想い溢れて】
「う〜ん、あとちょっと……」
これ以上なく真剣な面持ちで、必死に手を伸ばしているのは柚希。
「指先は届いてるのに、掴み切れないもどかしさ……っ!」
ギリギリの爪先立ちで手を伸ばした先にあるのは、棚の上の方に陳列されている箱。柚希は今日、これを買うためにスーパーにやって来ていた。
「何でこんな高い場所に……置いてるのよ……っ!」
怒りながらもプルプルと震える体を何とか支えつつ、商品に手を伸ばしていた柚希だったが、どんなに頑張っても手足が伸びるわけもなく。台の一つもあれば良いのだが、あいにく置いていないばかりか、近くに店員の姿も見当たらない。
「こうなったら仕方ない、か」
諦めきれないのか、しばし悩んでいたが、最終手段を取る事にしたようだ。小さく頷いた柚希は、徐に懐の扇子に手をかけた。
ところが扇子は取り出される事なく、柚希の動きが止まる。
「店ン中でそんなモンを使うんじゃありません。……これか?」
不意に後ろから影が差し、聞こえてきた声。同時に大きな手が棚の上にあった商品の箱を掴み、柚希の目の前に下ろしてきた。
振り向かずとも分かる、その声と手は……。
「シロ! いつの間に?」
「ったく、お前ってば常識人のようで、意外と大胆なんだよな」
商品を受け取りながら後ろを向けば、呆れながらも優しい笑みを見せている銀時が立っていた。
「時と場所をわきまえろってーの」
「だって、絶対買って帰りたかったんだもん。シロの好きなおやつの材料なのに、時々しかお店に並ばないからね」
ポフリと背中から倒れるように銀時の胸にもたれかかり、商品を見ながら「えへへ」と笑う柚希を、銀時は眩しそうに見つめる。幼い頃は同じ目線だった柚希が、今ではこうしてスッポリと自分の腕の中に入るばかりか、つむじまでも見下ろせるこの状況に、銀時は幸せを感じていた。
「そいつはわざわざどーも」
優しく柚希の頭をポンポンと叩いて「ほら、レジに行くぞ」と言えば、「はぁい」と軽やかな一歩を踏み出す柚希。その風に煽られてフワリと香る柚希の甘い匂いは、銀時をクラクラさせる物だった。
「なァ、柚希」
銀時が名を呼ぶと、目当ての物を買える喜びからか、嬉しそうに柚希が振り向く。 それは銀時にとって何よりも愛おしく、大切にしたい笑顔で。一気に想いが溢れ出てしまうのを抑える事は、到底無理な話だった。
「何?」
「そのおやつも良いんだけどよォ」
銀時の手が伸び、柚希の肩をそっと抱き寄せる。そのまま耳元で囁かれたのはーー。
「銀さん、今夜のデザートは柚希が良いなァ」
そう言ってカプリと耳たぶを甘噛みすれば、びくりと体を震わせる柚希。
「もちろん前菜からでも良いぜ。その代わりメインディッシュも柚希だかんな。な〜んかいくらでも食べられそうだわ」
「ばっ……!」
銀時の行動に言葉を失って真っ赤になりながらも、柚希が拒否しないのは何故か。その理由は銀時が一番分かっているようだ。
それがまた嬉しくて、更に愛しさが募る。
「さっさと帰ってメシにすんぞ」
「あ、あの、シロ!」
肩を抱いたまま強引に歩き出す銀時に、慌てる柚希。そんな柚希に、銀時は少しだけ意地悪な笑みを見せた。
「早くしてくんないと、銀さん飢え死にしちゃうから。あんまし腹ペコだと自制が効かなくなっちまって……」
そう言いながら軽く身をかがめた銀時は、柚希の視線の高さに合わせる。そして……。
「今すぐここで食っちまうぞ」
「シ……!」
柚希の言葉を飲み込むように重ねられた唇は、いかに銀時が柚希を求めているかが分かる飢餓感と、甘い熱を帯びていて。
「まずは前菜、ごっそーさん」
羞恥心だけではないであろう、朱に染まった頬と潤んだ瞳を見ながら、銀時は満足気にぺろりと自らの唇を舐めたのだった。
~了~
「う〜ん、あとちょっと……」
これ以上なく真剣な面持ちで、必死に手を伸ばしているのは柚希。
「指先は届いてるのに、掴み切れないもどかしさ……っ!」
ギリギリの爪先立ちで手を伸ばした先にあるのは、棚の上の方に陳列されている箱。柚希は今日、これを買うためにスーパーにやって来ていた。
「何でこんな高い場所に……置いてるのよ……っ!」
怒りながらもプルプルと震える体を何とか支えつつ、商品に手を伸ばしていた柚希だったが、どんなに頑張っても手足が伸びるわけもなく。台の一つもあれば良いのだが、あいにく置いていないばかりか、近くに店員の姿も見当たらない。
「こうなったら仕方ない、か」
諦めきれないのか、しばし悩んでいたが、最終手段を取る事にしたようだ。小さく頷いた柚希は、徐に懐の扇子に手をかけた。
ところが扇子は取り出される事なく、柚希の動きが止まる。
「店ン中でそんなモンを使うんじゃありません。……これか?」
不意に後ろから影が差し、聞こえてきた声。同時に大きな手が棚の上にあった商品の箱を掴み、柚希の目の前に下ろしてきた。
振り向かずとも分かる、その声と手は……。
「シロ! いつの間に?」
「ったく、お前ってば常識人のようで、意外と大胆なんだよな」
商品を受け取りながら後ろを向けば、呆れながらも優しい笑みを見せている銀時が立っていた。
「時と場所をわきまえろってーの」
「だって、絶対買って帰りたかったんだもん。シロの好きなおやつの材料なのに、時々しかお店に並ばないからね」
ポフリと背中から倒れるように銀時の胸にもたれかかり、商品を見ながら「えへへ」と笑う柚希を、銀時は眩しそうに見つめる。幼い頃は同じ目線だった柚希が、今ではこうしてスッポリと自分の腕の中に入るばかりか、つむじまでも見下ろせるこの状況に、銀時は幸せを感じていた。
「そいつはわざわざどーも」
優しく柚希の頭をポンポンと叩いて「ほら、レジに行くぞ」と言えば、「はぁい」と軽やかな一歩を踏み出す柚希。その風に煽られてフワリと香る柚希の甘い匂いは、銀時をクラクラさせる物だった。
「なァ、柚希」
銀時が名を呼ぶと、目当ての物を買える喜びからか、嬉しそうに柚希が振り向く。 それは銀時にとって何よりも愛おしく、大切にしたい笑顔で。一気に想いが溢れ出てしまうのを抑える事は、到底無理な話だった。
「何?」
「そのおやつも良いんだけどよォ」
銀時の手が伸び、柚希の肩をそっと抱き寄せる。そのまま耳元で囁かれたのはーー。
「銀さん、今夜のデザートは柚希が良いなァ」
そう言ってカプリと耳たぶを甘噛みすれば、びくりと体を震わせる柚希。
「もちろん前菜からでも良いぜ。その代わりメインディッシュも柚希だかんな。な〜んかいくらでも食べられそうだわ」
「ばっ……!」
銀時の行動に言葉を失って真っ赤になりながらも、柚希が拒否しないのは何故か。その理由は銀時が一番分かっているようだ。
それがまた嬉しくて、更に愛しさが募る。
「さっさと帰ってメシにすんぞ」
「あ、あの、シロ!」
肩を抱いたまま強引に歩き出す銀時に、慌てる柚希。そんな柚希に、銀時は少しだけ意地悪な笑みを見せた。
「早くしてくんないと、銀さん飢え死にしちゃうから。あんまし腹ペコだと自制が効かなくなっちまって……」
そう言いながら軽く身をかがめた銀時は、柚希の視線の高さに合わせる。そして……。
「今すぐここで食っちまうぞ」
「シ……!」
柚希の言葉を飲み込むように重ねられた唇は、いかに銀時が柚希を求めているかが分かる飢餓感と、甘い熱を帯びていて。
「まずは前菜、ごっそーさん」
羞恥心だけではないであろう、朱に染まった頬と潤んだ瞳を見ながら、銀時は満足気にぺろりと自らの唇を舐めたのだった。
~了~