NARUTO

 もう夏も終わろうとしている。

 夏の思い出を作ろうと、ナルトの提案で小さな花火大会を行うことになった俺達は、その準備に追われていた。
 俺自身は花火大会なんてお気楽なものには、全く興味などなくて。大体そんななれ合い行事など、忍者に必要があるのだろうか。遊んでいる暇があるのなら、あいつを倒せるだけの力を身につける時間に当てたかった。

「ちょっと買いすぎたな~」

 花火を買う係は俺とカカシ。カカシは膨大な量の花火を1対2の割合で袋に分けると、鼻歌を歌いながら大きな方をひょいと担いだ。
 端から見れば軽そうだが、実際の重みは半端ではない。だがそんな事はどうでも良い。俺も渡された袋を肩に担いだ。

「楽しくなさそうだな、サスケ」

 不意に声をかけられ、言葉に窮する。何故か心を読まれたような気がして、バツが悪かった。

「花火は嫌いか?」
「別に……」

 それは嘘ではない。夜空を照らす大輪の花も、手元を照らす一輪の花も結構気に入ってはいる。
 だが、今はそんな事にうつつを抜かしていられるほど心に余裕がないだけで。あいつを倒せない悔しさ、追いつけないもどかしさが心を締め付けていた。

「せっかく皆で花火をするんだから、楽しまないと損だぞ」
「……」

 どうしてやつらはいつでもこんなにお気楽なのだろう。教師でさえもこんな調子で。俺には到底理解など出来ない。

「……サスケ」

 ポン。

 一瞬、訳が分からなかった。頭の上に置かれた物があまりにも意外で。
 それは、カカシの手。

「お前は少し背伸びをし過ぎる。強くなりたい気持ちは分かるが、焦りは逆に成長を抑えるぞ」
「でも俺は……」

 そんな事は分かっている。だが、時間を無駄にはしたくないのだ。ほんの一瞬でも、あいつに近付ける時を速めたい。それが、あの時からの俺の一番の願いだから。

「確かに忍術の修行は必要だが、時には心と体を休めてやるというのも一つの修行だ。それも分かっているんだろう?」
「……」

 分かっている。もちろんそんな事は分かっているのだ。心に余裕がなければ、出来ることも出来なくなってしまう。体が万全でなければ、お話にならない。
 しかし……。

「前を見続けるのも良いが、今もしっかり見ておけ。そして時には過去を忘れるってのも必要だぞ」

 俺の考えていたことが分かったのか、にこりと笑いながらカカシが俺の頭を撫でる。とても大きくて温かい手が俺の頭を撫でる度に、不思議と俺の心の氷が溶けていった。

――たまには童心に帰るのものも悪くは無いか……。

 そんな風に思えてしまう、優しい温もりが心地よくて、俺の口元に笑みが浮かぶ。

「良い笑顔だな」

 そう言ったカカシの顔が、笑み崩れる。片方の目しか見えないが、多分それは満面の笑み。心の底から嬉しそうな表情は、何故か太陽の光を連想させた。

「本当に良い笑顔だ」

 再びそう言うと、ぽんぽんと俺の頭を軽く叩く。
「よし!」と満足げに言いながら、カカシは改めて袋を担ぎ直した。

「急いで帰らないと、皆が待ってる。走れるか?」
「はい」
「今はまだこんな事しかしてやれないが、いつか……」
「え?」
「いや、こちらの話だ。行くぞ」
「はい!」

 答えた時には、既にもう遙か彼方。俺も遅れを取ったものの、袋を担ぎ直すと全速力で走り出した。
 多分あの木の向こう辺りで、カカシは待ってくれているだろう。先ほどと同じ、優しい笑顔で。



 もう夏も終わろうとしている。
 この夏は、少しだけ思い出を作れるかもしれない。俺は、そんな予感がしてならなかった。

~了~
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