夢を聞かせて(フラキラ)
ザフトのジェネシスと連合軍の核。
全てを破壊こそすれ、生み出す物は怨嗟でしかない兵器達が、今まさに発射されようとしている。
とうとう最後の戦いが目前に迫っていた。ムウ、キラはもちろん、アスランやディアッカ、そしてカガリまでもが出撃すべくMSに乗り込む。
――これ以上、あんな物で犠牲者を出したくないもんな~。
そう思いながらムウが計器の最終チェックをしていると、突如通信が入ってきた。
「何だ?」
『ムウさん』
「キラか。どうした、何かあったのか?」
エターナル内で同じく最終チェックをしているであろうキラからの通信だった。
モニターに映るキラの表情は、明らかに不安の色を帯びていて。これから戦いに出るというのにこんな弱気でどうするんだと思いながらも、その弱さを隠すことなく自分に見せているキラに、ムウは何故かほっとしていた。
「もうチェックは終わったのか?」
『あ、はい。フリーダムもジャスティスも問題なく動けます』
「そうか。ストライクの方も問題ない。……なんだよキラ。そんな顔して」
不安の色が更に濃くなり、今にも泣きそうなキラの表情を目の当たりにして思わずモニターに手を伸ばしそうになるが、その行為が無駄なことに気付いてムウは苦笑した。
「ほら、しっかりしろよ! ここからが正念場なんだぞ?」
『分かってます。分かってますけど……ムウさんもやっぱり出るんですよね?』
「当たり前だろう? 俺が出なくてどうするってのよ」
『でもムウさんの傷……まだ治ってないんじゃないですか?』
キラの言う通り、先日ラウとの戦いの最中に受けた腹部と肩の傷はまだ癒えてはいなかった。
体調が万全でも切り抜けることは厳しいこれからの戦い。しかも体にかなりの負担をかけるMSでの戦いになるのだ。そんな場所に満身創痍のムウが出陣することに、キラは言い知れぬ不安を覚えていた。
『ムウさん、お願いですから今回は出ないで下さい! 僕たちが何とかしますから!』
「おいおい。俺にキラ達が戦っているのを後ろで見てろってのか? 嫌だね。俺は出るさ」
『でもその体で……』
「キラが心配してくれるのは嬉しいさ。だが、今戦わなかったら絶対後悔しちまうだろ? それにAAに残っていたところで、結局戦うことに代わりはないしな」
『それは……そうなんですけど……』
モニター越しにも分かる、キラの目に浮かぶ涙。
「キラ……」
目の前にいたら、何を考える間もなく抱きしめていたかもしれない。だがこうして離れた場所にいるムウには、望んでも出来ないことだった。
「泣くなよ、キラ」
『だって……』
泣かれると弱いんだよなー、と、困ったような笑顔を浮かべながらムウは、慰める腕の代わりになる物を探した。
「なぁ、キラ。前に俺に聞いたよな。俺の夢は何かって」
『え? あ……はい』
急に話題を変えられ、思わずキラはきょとんとしてしまう。
「俺の夢もキラと同じだ。平和な世界が来るのを願ってる。でもそれよりももっと大きな夢がある」
『もっと大きな夢?』
「あぁ。それはキ……」
――MS、発進準備して下さい。
ムウの声に重なった別の声。肝心の部分がかき消され、ムウの言葉は最後までキラに届かなかった。
「タイムリミットか。気を付けろよ、キラ」
『あ、ムウさん! 今の言葉聞こえなくて……』
「帰ってきたらもう一度言ってやる。……死ぬなよ、キラ!」
『はい! ムウさんも絶対生きて帰ってくださいね!』
「もちろん、俺は夢を現実にするまでは絶対死なないさ!」
『約束ですからね!』
「あぁ!」
ブツリと切れる通信。その名残を惜しんでる余裕はもう無い。
「ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!」
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
二人は、その言葉を発した瞬間にお互いの存在を忘れた。
二人だけの約束を違えたくない一心で。
だが――。
ドミニオンから発射されたローエングリンを受け止めたのはストライク。その衝撃は凄まじく、周囲を明るく照らし出すほどで。
ビリビリと大きな音が聞こえてくる。コックピット内にまで届く圧迫感は、明らかに機体の限界を伝えていた。しかし間違いなくローエングリンの威力は落ちていく。
「やっぱ、俺って」
ゆっくりと振り向いた先では、偶然にもフリーダムが戦っていた。
――戦争が終わったら、キラの本当の笑顔を見たかったんだけどな。
戦争をしている間の笑顔には、どうしても影が差し込んでしまうから。
――キラの本当の笑顔が見たい。
それが、ムウのもう一つの夢。
「不可能を可能に……」
爆発の瞬間、ムウの目には何故か見えないはずのキラの姿が映っていた。
――キラ……。
キラがムウの話を聞いたのは、エターナルに帰艦してからだった。
泣きながら生還を喜ぶ回りの者達の存在も忘れ、キラはただ一人の事だけを考えていた。
――戻ってくると約束したのはついさっきだったのに・・・もう忘れちゃったんですか? ムウさん……。
不思議と涙は出なかった。人は悲しみが大きすぎると、泣くことを忘れてしまうのだろうか。
――ムウさんのもう一つの夢、聞けなかった。
せっかく最初の夢は叶いそうなのに。虚しさを残しつつも、少しずつ平和への道を辿ろうとし始めているのに。
――ねぇ、ムウさん……。
キラはガラスの向こうの広い宇宙を見つめた。視線の先は、丁度ムウが最後の雄志を見せた場所。答えなど返ってこない事を分かっていながら、キラが心の中で呟いたのは……。
――貴方が最期に見た物は、貴方の夢と同じでしたか……?
~END~
全てを破壊こそすれ、生み出す物は怨嗟でしかない兵器達が、今まさに発射されようとしている。
とうとう最後の戦いが目前に迫っていた。ムウ、キラはもちろん、アスランやディアッカ、そしてカガリまでもが出撃すべくMSに乗り込む。
――これ以上、あんな物で犠牲者を出したくないもんな~。
そう思いながらムウが計器の最終チェックをしていると、突如通信が入ってきた。
「何だ?」
『ムウさん』
「キラか。どうした、何かあったのか?」
エターナル内で同じく最終チェックをしているであろうキラからの通信だった。
モニターに映るキラの表情は、明らかに不安の色を帯びていて。これから戦いに出るというのにこんな弱気でどうするんだと思いながらも、その弱さを隠すことなく自分に見せているキラに、ムウは何故かほっとしていた。
「もうチェックは終わったのか?」
『あ、はい。フリーダムもジャスティスも問題なく動けます』
「そうか。ストライクの方も問題ない。……なんだよキラ。そんな顔して」
不安の色が更に濃くなり、今にも泣きそうなキラの表情を目の当たりにして思わずモニターに手を伸ばしそうになるが、その行為が無駄なことに気付いてムウは苦笑した。
「ほら、しっかりしろよ! ここからが正念場なんだぞ?」
『分かってます。分かってますけど……ムウさんもやっぱり出るんですよね?』
「当たり前だろう? 俺が出なくてどうするってのよ」
『でもムウさんの傷……まだ治ってないんじゃないですか?』
キラの言う通り、先日ラウとの戦いの最中に受けた腹部と肩の傷はまだ癒えてはいなかった。
体調が万全でも切り抜けることは厳しいこれからの戦い。しかも体にかなりの負担をかけるMSでの戦いになるのだ。そんな場所に満身創痍のムウが出陣することに、キラは言い知れぬ不安を覚えていた。
『ムウさん、お願いですから今回は出ないで下さい! 僕たちが何とかしますから!』
「おいおい。俺にキラ達が戦っているのを後ろで見てろってのか? 嫌だね。俺は出るさ」
『でもその体で……』
「キラが心配してくれるのは嬉しいさ。だが、今戦わなかったら絶対後悔しちまうだろ? それにAAに残っていたところで、結局戦うことに代わりはないしな」
『それは……そうなんですけど……』
モニター越しにも分かる、キラの目に浮かぶ涙。
「キラ……」
目の前にいたら、何を考える間もなく抱きしめていたかもしれない。だがこうして離れた場所にいるムウには、望んでも出来ないことだった。
「泣くなよ、キラ」
『だって……』
泣かれると弱いんだよなー、と、困ったような笑顔を浮かべながらムウは、慰める腕の代わりになる物を探した。
「なぁ、キラ。前に俺に聞いたよな。俺の夢は何かって」
『え? あ……はい』
急に話題を変えられ、思わずキラはきょとんとしてしまう。
「俺の夢もキラと同じだ。平和な世界が来るのを願ってる。でもそれよりももっと大きな夢がある」
『もっと大きな夢?』
「あぁ。それはキ……」
――MS、発進準備して下さい。
ムウの声に重なった別の声。肝心の部分がかき消され、ムウの言葉は最後までキラに届かなかった。
「タイムリミットか。気を付けろよ、キラ」
『あ、ムウさん! 今の言葉聞こえなくて……』
「帰ってきたらもう一度言ってやる。……死ぬなよ、キラ!」
『はい! ムウさんも絶対生きて帰ってくださいね!』
「もちろん、俺は夢を現実にするまでは絶対死なないさ!」
『約束ですからね!』
「あぁ!」
ブツリと切れる通信。その名残を惜しんでる余裕はもう無い。
「ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!」
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
二人は、その言葉を発した瞬間にお互いの存在を忘れた。
二人だけの約束を違えたくない一心で。
だが――。
ドミニオンから発射されたローエングリンを受け止めたのはストライク。その衝撃は凄まじく、周囲を明るく照らし出すほどで。
ビリビリと大きな音が聞こえてくる。コックピット内にまで届く圧迫感は、明らかに機体の限界を伝えていた。しかし間違いなくローエングリンの威力は落ちていく。
「やっぱ、俺って」
ゆっくりと振り向いた先では、偶然にもフリーダムが戦っていた。
――戦争が終わったら、キラの本当の笑顔を見たかったんだけどな。
戦争をしている間の笑顔には、どうしても影が差し込んでしまうから。
――キラの本当の笑顔が見たい。
それが、ムウのもう一つの夢。
「不可能を可能に……」
爆発の瞬間、ムウの目には何故か見えないはずのキラの姿が映っていた。
――キラ……。
キラがムウの話を聞いたのは、エターナルに帰艦してからだった。
泣きながら生還を喜ぶ回りの者達の存在も忘れ、キラはただ一人の事だけを考えていた。
――戻ってくると約束したのはついさっきだったのに・・・もう忘れちゃったんですか? ムウさん……。
不思議と涙は出なかった。人は悲しみが大きすぎると、泣くことを忘れてしまうのだろうか。
――ムウさんのもう一つの夢、聞けなかった。
せっかく最初の夢は叶いそうなのに。虚しさを残しつつも、少しずつ平和への道を辿ろうとし始めているのに。
――ねぇ、ムウさん……。
キラはガラスの向こうの広い宇宙を見つめた。視線の先は、丁度ムウが最後の雄志を見せた場所。答えなど返ってこない事を分かっていながら、キラが心の中で呟いたのは……。
――貴方が最期に見た物は、貴方の夢と同じでしたか……?
~END~