夢を聞かせて(フラキラ)
「ムウさんの夢ってなんですか?」
「へ?」
キラの唐突な質問に、ムウが素っ頓狂な声をあげた。
「だから『夢』です。ムウさんの夢ってなんなんだろうなーと思って」
「夢、ねぇ……」
その質問の意図が分からぬまま、ムウは自分の頭の中にある答えを引き出そうと首を傾げた。
ここはムウの部屋。つかの間の休息時間を与えられたパイロット二人は、今こうして同じベッドに身を預けている。
一通りの行為を終えて、心地よい疲れに微睡んでいた時に投げかけられた質問は、ムウにとってはなかなか難しいものだったらしい。腕の中で瞳を輝かせながら答えを待っているキラを見て、ムウはしばし頭を悩ませた。
「ムウさんには夢はないんですか?」
「おいおい。俺にだって夢くらいあるさ」
「でもすぐに答えられないじゃないですか。」
「まぁ、これでも夢は山程持ってるからな。どれを答えたら良いか分からなくなっちまったって感じかな?」
「そんなにたくさんあるんですか?」
「そりゃぁ男たるもの、夢はでっかくたくさん持っておかなきゃな! この胸に秘められた熱い夢の数は、半端じゃないぜ?」
キラの枕代わりになっているムウの腕が、ぐいとキラを抱き寄せる。鼻先がムウの胸に勢いよく当たりそうになり、キラは慌てて自らの手でそれをブロックした。
「いきなりなんなんですかー!」
「いや、俺の夢を少しでもキラに感じさせてやろうと思ってさ」
「わけ分かりませんよ、もう」
「あははははっ」
大笑いした後、口元にふっと浮かぶ小さな微笑み。これ以上ないくらいに愛情の込もったそれは、キラを優しく包み込む。
「ほんとに、ムウさんは……」
呆れたように小さく溜息をつきながらも、キラもまんざらではないらしい。ブロックしていた手をそっとどかすと、自らの頬をムウの胸に触れさせた。広くて厚い胸板は、逞しさと優しさに溢れている。
常に緊張を強いられているキラにとって、ここが唯一の安らぎの場所だった。
「そういうキラはどうなんだ? 俺にそんな事を聞いてくるって事は、自分も夢を持っているんだろう?」
「もちろんですよ。僕の夢はやっぱり、早く戦争を終わらせて平和な世界にする事……ですね」
僕の夢ははっきりしてるぞとばかり、得意満面に答えたキラの言葉に、ムウがくすりと笑う。
「なるほど。キラらしい夢だな」
なかなか良い夢じゃないかと頭を撫でてやると、キラは首を竦めながら嬉しそうに笑った。
戦場に出ればプロ顔負けの戦いを繰り広げているキラだが、実のところはまだまだ子供で。しかもそこらへんの子供よりも優しい心を持っている。
戦争さえ起きていなければ、平凡ながらも幸せな生活が送っていたであろうこの少年は、ひょんな事から戦いに巻き込まれてしまった。
それだけでなく、軍人であるムウと同じか、それ以上に危険な場所に身を投じなけばいけない状況に追い込まれていて。
だがそんな中、こうして必死に生きているキラを、ムウは心の底から愛おしく思っていた。
「戦争のない平和な世界になったら、キラはまた、学生に戻るのか?」
「そうですね……まだまだやりたいことも一杯あるし、戻れたら良いなと思ってますけど」
「そうか。そうだよなー。キラ達はまだまだこれからだもんな」
「ムウさんだって、これからじゃないですか」
「俺はもう年寄りだからなー。戦争が終わったら、田舎で茶でもすすりながら余生を過ごすさ」
「ムウさん……何もそこまで……」
くすくすと笑うキラの吐息がムウの胸に当たる。少しくすぐったそうにしながらムウは、再び笑みを浮かべた。
満ち足りた、とても幸せそうなその笑みを。
「ほら、そろそろ寝ておかないと寝そびれちまうぞ。子供はもう寝る時間だ」
「僕はまだ若いから、寝なくても平気なんですけどね。ムウさんには辛いかな?」
「言うねぇ。……でもその通りかもしれないな」
「さしものエンデュミオンの鷹も、睡魔には勝てないって感じですね。仕方ないな、僕が添い寝してあげますよ」
「そりゃありがたいことで」
その生意気な言葉で頬が緩んでしまうのを押さえられないムウに、キラは
「ゆっくり休んでください」
と言うと、自分の顔がムウの顔の正面になる位置まで移動した。
そのままそっとムウにキスをする。
「お休みなさい。ムウさん」
「……お休み。キラ」
ーーこのまま時間が止まればいいのに……。
唇から伝わる熱を感じながら、この時どちらがより強く願ったか。それを量る術など、誰一人持ってはいない。
お休みのキスに幸せを感じながら、二人はゆっくりと瞳を閉じた。
ーーそう言えば、ムウさんの夢を聞けてなかったな……。
暫くしてそれを思い出したキラは、一旦閉じた目を開けたが、隣で気持ちよさそうに眠っているムウを起こすことなど出来るはずもなく。
「疲れてたんですね、ムウさん……お休みなさい」
そう言ってムウの胸に頭をすり寄せるようにし、今度こそ眠りに就いた。
平和であれば、誰もが容易く手に入れられるであろうこの幸せな時間を噛み締めながら……。
「へ?」
キラの唐突な質問に、ムウが素っ頓狂な声をあげた。
「だから『夢』です。ムウさんの夢ってなんなんだろうなーと思って」
「夢、ねぇ……」
その質問の意図が分からぬまま、ムウは自分の頭の中にある答えを引き出そうと首を傾げた。
ここはムウの部屋。つかの間の休息時間を与えられたパイロット二人は、今こうして同じベッドに身を預けている。
一通りの行為を終えて、心地よい疲れに微睡んでいた時に投げかけられた質問は、ムウにとってはなかなか難しいものだったらしい。腕の中で瞳を輝かせながら答えを待っているキラを見て、ムウはしばし頭を悩ませた。
「ムウさんには夢はないんですか?」
「おいおい。俺にだって夢くらいあるさ」
「でもすぐに答えられないじゃないですか。」
「まぁ、これでも夢は山程持ってるからな。どれを答えたら良いか分からなくなっちまったって感じかな?」
「そんなにたくさんあるんですか?」
「そりゃぁ男たるもの、夢はでっかくたくさん持っておかなきゃな! この胸に秘められた熱い夢の数は、半端じゃないぜ?」
キラの枕代わりになっているムウの腕が、ぐいとキラを抱き寄せる。鼻先がムウの胸に勢いよく当たりそうになり、キラは慌てて自らの手でそれをブロックした。
「いきなりなんなんですかー!」
「いや、俺の夢を少しでもキラに感じさせてやろうと思ってさ」
「わけ分かりませんよ、もう」
「あははははっ」
大笑いした後、口元にふっと浮かぶ小さな微笑み。これ以上ないくらいに愛情の込もったそれは、キラを優しく包み込む。
「ほんとに、ムウさんは……」
呆れたように小さく溜息をつきながらも、キラもまんざらではないらしい。ブロックしていた手をそっとどかすと、自らの頬をムウの胸に触れさせた。広くて厚い胸板は、逞しさと優しさに溢れている。
常に緊張を強いられているキラにとって、ここが唯一の安らぎの場所だった。
「そういうキラはどうなんだ? 俺にそんな事を聞いてくるって事は、自分も夢を持っているんだろう?」
「もちろんですよ。僕の夢はやっぱり、早く戦争を終わらせて平和な世界にする事……ですね」
僕の夢ははっきりしてるぞとばかり、得意満面に答えたキラの言葉に、ムウがくすりと笑う。
「なるほど。キラらしい夢だな」
なかなか良い夢じゃないかと頭を撫でてやると、キラは首を竦めながら嬉しそうに笑った。
戦場に出ればプロ顔負けの戦いを繰り広げているキラだが、実のところはまだまだ子供で。しかもそこらへんの子供よりも優しい心を持っている。
戦争さえ起きていなければ、平凡ながらも幸せな生活が送っていたであろうこの少年は、ひょんな事から戦いに巻き込まれてしまった。
それだけでなく、軍人であるムウと同じか、それ以上に危険な場所に身を投じなけばいけない状況に追い込まれていて。
だがそんな中、こうして必死に生きているキラを、ムウは心の底から愛おしく思っていた。
「戦争のない平和な世界になったら、キラはまた、学生に戻るのか?」
「そうですね……まだまだやりたいことも一杯あるし、戻れたら良いなと思ってますけど」
「そうか。そうだよなー。キラ達はまだまだこれからだもんな」
「ムウさんだって、これからじゃないですか」
「俺はもう年寄りだからなー。戦争が終わったら、田舎で茶でもすすりながら余生を過ごすさ」
「ムウさん……何もそこまで……」
くすくすと笑うキラの吐息がムウの胸に当たる。少しくすぐったそうにしながらムウは、再び笑みを浮かべた。
満ち足りた、とても幸せそうなその笑みを。
「ほら、そろそろ寝ておかないと寝そびれちまうぞ。子供はもう寝る時間だ」
「僕はまだ若いから、寝なくても平気なんですけどね。ムウさんには辛いかな?」
「言うねぇ。……でもその通りかもしれないな」
「さしものエンデュミオンの鷹も、睡魔には勝てないって感じですね。仕方ないな、僕が添い寝してあげますよ」
「そりゃありがたいことで」
その生意気な言葉で頬が緩んでしまうのを押さえられないムウに、キラは
「ゆっくり休んでください」
と言うと、自分の顔がムウの顔の正面になる位置まで移動した。
そのままそっとムウにキスをする。
「お休みなさい。ムウさん」
「……お休み。キラ」
ーーこのまま時間が止まればいいのに……。
唇から伝わる熱を感じながら、この時どちらがより強く願ったか。それを量る術など、誰一人持ってはいない。
お休みのキスに幸せを感じながら、二人はゆっくりと瞳を閉じた。
ーーそう言えば、ムウさんの夢を聞けてなかったな……。
暫くしてそれを思い出したキラは、一旦閉じた目を開けたが、隣で気持ちよさそうに眠っているムウを起こすことなど出来るはずもなく。
「疲れてたんですね、ムウさん……お休みなさい」
そう言ってムウの胸に頭をすり寄せるようにし、今度こそ眠りに就いた。
平和であれば、誰もが容易く手に入れられるであろうこの幸せな時間を噛み締めながら……。