君がいるこの場所へ(ムウマリュ)

「マリュー」
「なぁに? ムウ」
「……ただいま」
「お帰りなさい……」

 動けないムウを気遣いながら、マリューがそっと口付けをする。

「……サンキュ、女神様」
「え……?」

 唇が離れたと同時に聞こえた言葉の意味が分からず、マリューは尋ねた。

「さっきも言ってたわよね。女神って一体?」
「俺にとって女神は、あの扱い辛いメビウスゼロをすっ飛ばして、俺の所に駆けつけてくれちゃうような、勇ましくて勢いのある優しい女性だけ」
「そ、それは……」
「女神様のキスで、怪我も早く治りそうだよ。これからも頼むな」
「馬鹿……」

 頬を赤らめるマリューを、愛おしそうに見ているムウ。その姿は、心の底から幸せそうに見えた。




「ねぇ、ムウ」

 何度目かの口付けの後、マリューは言った。

「もう一度言って」
「……? 何を?」

 マリューの手が優しくムウの頬を撫でる。少しくすぐったそうにしながら、ムウは尋ねた。

「俺に愛の告白でも求めてるのかな?」
「それも良いけど……今はちょっと違うわ」
「じゃあ何だよ」
「帰って来たときに言う言葉。もう一度欲しいの」

 今思えば、たった数時間のことではあるけれど。ムウを失ったと思ったあの絶望感は、マリューの心に深く突き刺さっていた。こうして目の前にムウが存在する今でも、まだそれは心の中に欠片を残していたらしい。

「ね? お願い」

 ねだるように言うマリューがあまりにも可愛くて、ムウの口元が思わず緩む。
 本人は気付いていないのかも知れないが、それはもう犯罪的な可愛さで。他の誰にもこんな彼女を見せたくない。そう思ってしまうほどに、ムウの中の独占欲を強くする。
 だがそれ以上に、自分を心から必要としてくれていることが嬉しかった。

 あの時、身を呈してマリューを助けることが出来て良かった。帰って来ることが出来て良かった。
 
 ――マリューが待っていてくれて本当に良かった。

「……ただいま、マリュー」
「お帰りなさい」
「帰ってきたよ、君の元へ」
「ええ……」
「俺の帰る場所は、ここしかないから」
「うん……」
「もう、どこにも行かない」
「本当に?」
「ああ、約束する」
「絶対……?」
「俺が約束破ったことある?」

 その言葉に、マリューは笑顔でゆっくりと首を横に振った。

「そうだったわね……」

 絡んだ視線に、想いが込められる。
 言葉なんていらない。もう、不安はないから。想いは全て伝わっているから。

 再びマリューの顔が、ムウに近付く。

 そのままゆっくりと、二人の唇は重なった――。

~fin~
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