君がいるこの場所へ(ムウマリュ)

 私は、いつまでも待っているわ。
 貴方が帰ってくるその瞬間まで。
 貴方のその言葉を聞いた時、初めて私は安心するの。

 だから……早く帰ってきてね。





「いやぁ~~っ!!」

 悲痛な叫びが艦内に響き渡った。

「こんな事……ありえない! あって良いはずがないっ!」

 頭を抱え、絞り出すように叫ぶマリューに目を向ける者は居ない。
 艦内にいる者達の視線の先には、ほんの数秒前まで、ぼろぼろになりながらも勇姿を見せていたストライクの、なけなしの残骸が浮遊している。アークエンジェルを狙って、ドミニオンから発射されたローエングリンを受け止めたストライクは、原型を止めることなく飛散した。
 そのあまりにも激しい爆発は、

 ――もしかしたら緊急シャッターが降りて、助かっているかも知れない。

 そんなマリューの淡い期待を打ち砕く。

「帰ってくるって……言ったのにぃっ!」

 人目もはばからず、大粒の涙をぼろぼろとこぼしながらマリューは叫んだ。

 ――絶対に私の所に戻ってくるって言ったじゃない! いつだって自信満々に「不可能を可能にする」って言ってたのに! さっきだって……っ!!

 自らの体を抱きしめると、小刻みに震えているのが分かる。
 軍人になってから何度も経験した人の死。でも何度経験してみても、慣れることなど出来るはずもなく。

「ムウ……!!」

 どうして神は、自分の大切な者ばかりを奪ってしまうのか。

 ――帰ってきて、お願い……っ!

 心から叫んでも、神には届かない。
 ほんの数秒前まで、途切れ途切れに聞こえていた声と。ノイズの混じったモニター越しに見える傷ついた姿が、まるで幻覚だったかのように。
 マリューの唯一の宝物は、一瞬で消え去った。

 ――お願い、これは夢だと……嘘だと言って!!




 我を忘れるほどの衝撃を受けていても、それに浸る事すら許されはしないこの状況。マリューもまた例外ではなく、悲しみに暮れながらも、目前にあるドミニオンへと照準を合わせる。
 戦って、戦って、戦い抜いて。最後に残ったのは、虚しさだけ。
 終結宣言の放送が流れた後も、人々の心からその虚しさが拭われる事など無く。誰もが望んでいた戦争終結のはずなのに、そこには心からの笑顔は存在しなかった。
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