桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
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CE62。まだ月の幼年学校に通っていた頃。紅葉に別れを告げ、本格的な冬が月に訪れようとしていた。
そんなある日、戦争などとは縁がないと思っていたアスランの平和で幸せな生活に、変化が起こる。
「こっちへ! 早く!!」
母レノアと久しぶりにデパートまで買い物に出ていたアスランに、突然声をかけてきた者がいた。
レノアが服を見ている間、ベンチに座って待っていたのだが、いきなり自分の所に走り寄ってきたかと思うと、有無を言わせず腕を引っ張り、走り出す。
「な、何だよお前。一体……」
「良いから来るんだ!」
アスランとほとんど変わらない背丈と高い声から察するに、アスランと同年代の子供だろうか。
少し大きめのGジャンに、Gパン。目深にかぶられた帽子は完全に顔を隠しており、それ以上のことは分からない。痛いほどがっしりと掴まれた腕に、為すすべもなく、とにかく一緒に走ることしかできなかった。
「お、おい、せめて理由を」
「わけは後だ。急げ!」
人通りの多い場所を、アスランを引っ張りながらもすいすいと駆け抜けていく。何度も何度も角を曲がってやっとたどり着いた先は、従業員専用の駐車場だった。
扉を開けた途端、目の前にものすごい勢いで車が走り込んでくる。急ブレーキと共に開かれたドアに
「乗って!」
と押し込まれると、そのまま車は勢いよくスタートした。
後部座席に押し込まれ、茫然自失状態のアスランだったが、
「アスラン、大丈夫?」
聞き覚えのある声に、はっと意識を取り戻す。見ると助手席にはレノアが乗っていた。
「母上っ!」
「二人とも怪我はないようね。でもまだ油断はできないわよ。しっかりつかまって!」
運転席の女性が、緊張した声で言う。油断ができないとは一体どういうことなのか。アスランが訊ねる前に、その理由は突きつけられた。
銃声と共に。
高い金属音が、車の外で何度も何度も響き渡る。
「振り切るわよ! サラ、援護して!」
「分かった!」
アスランを車に押し込めて自分も乗り込んできたその子供は、窓を開けて身を乗り出すと、後ろの車めがけて発砲する。器用にタイヤを撃ち抜くたびに、追尾してくる車の数は減っていった。
初めて見る本物の銃と発砲音に、息が止まる。
車の中に充満する火薬のにおいが妙に現実味を帯びていて、アスランは真っ青になりながら、弾を込め直す子供を見つめていた。
「何とかまいたようね。レノア、大丈夫?」
「お陰様で。ありがとう、助かったわ」
激しいカーチェイスを終え、ようやく車から降りることの出来た一同は、ほっとため息を吐いた。ただし、現状を把握できていないアスランを除いて。
「あらら、アスラン君大丈夫?」
先ほどまで運転をしていた女性が、それに気付いて声をかける。混乱のあまり返事の出来ないアスランは、ただ小さくこくりと頷くだけ。
「レノア……まさかとは思うけどアスラン君には」
「ええ、まだ言ってないのよ。この子は何も知らないわ」
「あんたねぇ……のんびりし過ぎ!」
その女性は呆れたようにレノアの頭をこつんと叩くと、アスランの元へと近付いてきた。
「吃驚したよね。いきなり車に押し込まれたり、側で銃をぶっ放されたり」
「はい……あの、あなた方は……」
優しい笑顔でそっと頭を撫でてくれる女性を見上げ、訊ねる。
「私はシルフィア。シルフィア・フユツキよ」
アスランの視線にあわせるようにかがみ込むと、彼女はそう名乗った。
「そして貴方を連れだしたのが私の子供。サラ・フユツキ。アスラン君より一つ年上になるのかな」
「シルフィアはね、私の昔からの友達で、元ザフトの軍人さんなの。優秀なのよ~。ずっと赤を着てたんだから」
ね? と笑顔で言うレノアに、そんな事ないないと手を振るシルフィア。
いかにも慣れていると言った風な二人のかけあいは、確かに二人が旧知の仲だと言うことを感じさせた。
だが自己紹介をされはしたものの、現状を把握できていないアスランはただ戸惑うばかりだ。
「相変わらず仲良いね、この二人は」
その姿をさすがに気の毒と思ったのか、サラはアスランに話しかけた。
「子供の頃から仲が良かったみたいだからね」
「そう……なんだ……」
「もしもーし? 大丈夫か~?」
「え? あ、ああ、大丈夫……」
「ま、無理もないやね。何も聞かされてない状態でこんな事になれば。何だったら今説明するけど?」
「あ、是非お願いしたい」
「ほいほい」
気が付けば世間話に花を咲かせ始めている母達を横目に、二人は車中へと戻った。
乗り込む時に視界に入った車体の銃弾の痕が、先ほどの銃撃戦を思い起こさせ、アスランは身震いしてしまう。だがそんな事には気にもとめずにサラは車に乗り込むと、おもむろに銃を取り出してカチャカチャとメンテナンスを始めた。
「恐かった? でももう大丈夫だよ。追尾してきたやつらは全部排除したしさ」
「君たちは一体?」
「ボディーガードみたいなもんかな? 君のお父さんがザフトの偉い人じゃない? 高官ともなるとやっぱり命を狙われたり、脅迫されたりすることもあるわけで。案の定、昨日パトリックおじ様の所へ脅迫状が届いたらしくてね。この度君たちのガードをする事になったというわけ」
「そんな事が……」
「最近ではコーディネーターとナチュラルの間での戦いが激しくなってきてるしね。表には出てないけど、水面下ではかなり色々起きてるみたい。今回も、ブルーコスモスが関わってるんじゃないかっていう噂があるしさ」
「ブルーコスモス……」
「……ほんとに何にも聞かされてなかったんだな」
サラが同情したように、アスランの肩をぽんぽんと叩く。
何とも悲しくなって、アスランはがっくりと頭を垂れた。
「ま、今知っても遅いわけじゃなし。とにかくこれから暫くは、君たちのガードをしてるから大丈夫だよ。安心しな」
「でもお前俺とほとんど変わらない年齢で、そんな危険な事……」
「『お前』じゃなくて『サラ』。べっつにこれが仕事なんだからかまわない。子供でもプロだからね。そこら辺の府抜けた軍人よりは役に立つよ。それとも何か? こんな年端もいかない奴は信用できないってか?」
「いや、決してそんなわけでは……」
確かにまだ子供ではあるが、素人が見ても巧みな銃裁きは素晴らしくて。その実力は認めざるを得ない。
「ま、大船に乗った気でいてよ。微妙に端の方が泥船かもしんないけどさ」
「それって安心できるのか? できないのか?」
「微妙」
「何だよそれ!」
「あははははっ」
アスランの緊張をほぐそうとして言われた言葉だというのが、嫌でも分かる。こんな仕事をしていなければ、とても気の利く優しい子供なのだろう。そんな風に思えた。
「ま、改めて宜しく。アスラン」
帽子を取り、サラが手を差し出す。実はこの時初めて、アスランはサラの顔をまともに見た。
「女……の子……!?」
「その通りっ! 守ってくれるのが可愛い女の子で嬉しいっしょ?」
「……自分で言うなよ」
「人が言ってくれないから自分で言うの!」
まばゆい笑顔を見せるサラに、アスランが目を細める。そしてアスランも、ゆっくりと自分の手を差し出した。
握った手は、銃を持つにはふさわしくないと思えてならないほどに小さくて。何とも言えない気持ちになる。
これが、サラとアスランの初めての出会いだった。
そんなある日、戦争などとは縁がないと思っていたアスランの平和で幸せな生活に、変化が起こる。
「こっちへ! 早く!!」
母レノアと久しぶりにデパートまで買い物に出ていたアスランに、突然声をかけてきた者がいた。
レノアが服を見ている間、ベンチに座って待っていたのだが、いきなり自分の所に走り寄ってきたかと思うと、有無を言わせず腕を引っ張り、走り出す。
「な、何だよお前。一体……」
「良いから来るんだ!」
アスランとほとんど変わらない背丈と高い声から察するに、アスランと同年代の子供だろうか。
少し大きめのGジャンに、Gパン。目深にかぶられた帽子は完全に顔を隠しており、それ以上のことは分からない。痛いほどがっしりと掴まれた腕に、為すすべもなく、とにかく一緒に走ることしかできなかった。
「お、おい、せめて理由を」
「わけは後だ。急げ!」
人通りの多い場所を、アスランを引っ張りながらもすいすいと駆け抜けていく。何度も何度も角を曲がってやっとたどり着いた先は、従業員専用の駐車場だった。
扉を開けた途端、目の前にものすごい勢いで車が走り込んでくる。急ブレーキと共に開かれたドアに
「乗って!」
と押し込まれると、そのまま車は勢いよくスタートした。
後部座席に押し込まれ、茫然自失状態のアスランだったが、
「アスラン、大丈夫?」
聞き覚えのある声に、はっと意識を取り戻す。見ると助手席にはレノアが乗っていた。
「母上っ!」
「二人とも怪我はないようね。でもまだ油断はできないわよ。しっかりつかまって!」
運転席の女性が、緊張した声で言う。油断ができないとは一体どういうことなのか。アスランが訊ねる前に、その理由は突きつけられた。
銃声と共に。
高い金属音が、車の外で何度も何度も響き渡る。
「振り切るわよ! サラ、援護して!」
「分かった!」
アスランを車に押し込めて自分も乗り込んできたその子供は、窓を開けて身を乗り出すと、後ろの車めがけて発砲する。器用にタイヤを撃ち抜くたびに、追尾してくる車の数は減っていった。
初めて見る本物の銃と発砲音に、息が止まる。
車の中に充満する火薬のにおいが妙に現実味を帯びていて、アスランは真っ青になりながら、弾を込め直す子供を見つめていた。
「何とかまいたようね。レノア、大丈夫?」
「お陰様で。ありがとう、助かったわ」
激しいカーチェイスを終え、ようやく車から降りることの出来た一同は、ほっとため息を吐いた。ただし、現状を把握できていないアスランを除いて。
「あらら、アスラン君大丈夫?」
先ほどまで運転をしていた女性が、それに気付いて声をかける。混乱のあまり返事の出来ないアスランは、ただ小さくこくりと頷くだけ。
「レノア……まさかとは思うけどアスラン君には」
「ええ、まだ言ってないのよ。この子は何も知らないわ」
「あんたねぇ……のんびりし過ぎ!」
その女性は呆れたようにレノアの頭をこつんと叩くと、アスランの元へと近付いてきた。
「吃驚したよね。いきなり車に押し込まれたり、側で銃をぶっ放されたり」
「はい……あの、あなた方は……」
優しい笑顔でそっと頭を撫でてくれる女性を見上げ、訊ねる。
「私はシルフィア。シルフィア・フユツキよ」
アスランの視線にあわせるようにかがみ込むと、彼女はそう名乗った。
「そして貴方を連れだしたのが私の子供。サラ・フユツキ。アスラン君より一つ年上になるのかな」
「シルフィアはね、私の昔からの友達で、元ザフトの軍人さんなの。優秀なのよ~。ずっと赤を着てたんだから」
ね? と笑顔で言うレノアに、そんな事ないないと手を振るシルフィア。
いかにも慣れていると言った風な二人のかけあいは、確かに二人が旧知の仲だと言うことを感じさせた。
だが自己紹介をされはしたものの、現状を把握できていないアスランはただ戸惑うばかりだ。
「相変わらず仲良いね、この二人は」
その姿をさすがに気の毒と思ったのか、サラはアスランに話しかけた。
「子供の頃から仲が良かったみたいだからね」
「そう……なんだ……」
「もしもーし? 大丈夫か~?」
「え? あ、ああ、大丈夫……」
「ま、無理もないやね。何も聞かされてない状態でこんな事になれば。何だったら今説明するけど?」
「あ、是非お願いしたい」
「ほいほい」
気が付けば世間話に花を咲かせ始めている母達を横目に、二人は車中へと戻った。
乗り込む時に視界に入った車体の銃弾の痕が、先ほどの銃撃戦を思い起こさせ、アスランは身震いしてしまう。だがそんな事には気にもとめずにサラは車に乗り込むと、おもむろに銃を取り出してカチャカチャとメンテナンスを始めた。
「恐かった? でももう大丈夫だよ。追尾してきたやつらは全部排除したしさ」
「君たちは一体?」
「ボディーガードみたいなもんかな? 君のお父さんがザフトの偉い人じゃない? 高官ともなるとやっぱり命を狙われたり、脅迫されたりすることもあるわけで。案の定、昨日パトリックおじ様の所へ脅迫状が届いたらしくてね。この度君たちのガードをする事になったというわけ」
「そんな事が……」
「最近ではコーディネーターとナチュラルの間での戦いが激しくなってきてるしね。表には出てないけど、水面下ではかなり色々起きてるみたい。今回も、ブルーコスモスが関わってるんじゃないかっていう噂があるしさ」
「ブルーコスモス……」
「……ほんとに何にも聞かされてなかったんだな」
サラが同情したように、アスランの肩をぽんぽんと叩く。
何とも悲しくなって、アスランはがっくりと頭を垂れた。
「ま、今知っても遅いわけじゃなし。とにかくこれから暫くは、君たちのガードをしてるから大丈夫だよ。安心しな」
「でもお前俺とほとんど変わらない年齢で、そんな危険な事……」
「『お前』じゃなくて『サラ』。べっつにこれが仕事なんだからかまわない。子供でもプロだからね。そこら辺の府抜けた軍人よりは役に立つよ。それとも何か? こんな年端もいかない奴は信用できないってか?」
「いや、決してそんなわけでは……」
確かにまだ子供ではあるが、素人が見ても巧みな銃裁きは素晴らしくて。その実力は認めざるを得ない。
「ま、大船に乗った気でいてよ。微妙に端の方が泥船かもしんないけどさ」
「それって安心できるのか? できないのか?」
「微妙」
「何だよそれ!」
「あははははっ」
アスランの緊張をほぐそうとして言われた言葉だというのが、嫌でも分かる。こんな仕事をしていなければ、とても気の利く優しい子供なのだろう。そんな風に思えた。
「ま、改めて宜しく。アスラン」
帽子を取り、サラが手を差し出す。実はこの時初めて、アスランはサラの顔をまともに見た。
「女……の子……!?」
「その通りっ! 守ってくれるのが可愛い女の子で嬉しいっしょ?」
「……自分で言うなよ」
「人が言ってくれないから自分で言うの!」
まばゆい笑顔を見せるサラに、アスランが目を細める。そしてアスランも、ゆっくりと自分の手を差し出した。
握った手は、銃を持つにはふさわしくないと思えてならないほどに小さくて。何とも言えない気持ちになる。
これが、サラとアスランの初めての出会いだった。