桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
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あの日から、サラに対して文句を言う物はいなくなった。
相変わらず悪態はつくものの、それでもサラから与えられる訓練に真剣に取り組んでいた少年達は、目に見えて大きな成長を遂げている。
夏が終わる頃には、サラも思わず舌を巻くほどで。もちろんそれまでに何度か経験した実戦も、その成長に拍車を掛けていた。
本来アカデミーを首席で卒業していても、実戦では何の役にも立たない。訓練学校で身に付くのはあくまで一般的な知識のみで、イレギュラーな事に対応できる応用力を得てはいないのだから。真に強い兵士になるには実際に体験し、その時々の臨機応変な対応をその体で覚えていくしかないのだ。
その点サラの訓練は完璧だった。
実際にアスラン達を戦場に連れ出し、戦渦に放り込む。相手を殲滅できればそれでよし。駄目ならぎりぎりの所でサラがフォローし、その実戦をそのまますぐにシミュレーションプログラムとして、何度も反芻させる。
お陰でアスラン達の成長ぶりはザフトの高官達にも一目置かれるほどに早く、最近では他の隊からサラにトレーナーとして来てくれないかとスカウトが来るほどだった。
だがもちろんクルーゼ隊がサラを手放すはずもなく。
サラ自身もクルーゼ隊以外には興味はないと、そっけない返事を返し続けていた。
そんなある日の事。
「本日の訓練はこれで終了。解散」
「はっ」
足並みを揃えて敬礼する少年達に、サラは小さく頷くとそのまま部屋を出た。
急ぎ足で自分の部屋へと戻ると施錠を確認し、慌てて腕時計のボタンを押す。先ほどから不快な振動を伝えていた腕時計が、やっとその動きを止めた。
「はい」
『遅いぞ? サラ。そんな事ではいざと言うときに困るじゃないか」
「ここは戦場じゃないわ。それについ今し方訓練が終わったんだもの」
2つの回線を結ぶ特殊なこの時計。回線の一つはクルーゼの部屋へと繋がっていた。だがこのサラの口振りだと、今話をしている相手はクルーゼではない。
となると、もう一つの回線の相手。それはーー。
『あぁ、訓練中だったのか。・・・どうだ?コーディネーター達の実力のほどは』
「貴方の予想以上でしょうね。なんてったって飲み込みも成長も早いから」
『やはりそうか』
「うかうかしてると、あっという間に私も追い越されてしまいそう」
『ほう、サラの口からそんな言葉を聞くとはな』
「何よそれ。……そんな事より何で急に連絡なんかよこすのよ。お父さん」
『お父さん』
相手は、サラの父親であるケイジ・フユツキだった。
『何の連絡もないまま数ヶ月が経ってる。気になるのは当然だろう?』
「問題がなければ連絡はいらない。そう言ったのはお父さんじゃない」
『それだけ心配だって事だ』
「どうだかね。プラント側の情報が欲しいだけなんじゃないの?」
『それももちろん否定はしないが、やっぱりお前が心配なんだよ。母さんのようにならないかと不安で……』
「お母さん……」
呟きと共に思い出すのは、母の顔。強くて、優しくて、格好良くて、涙もろくて……本当に大好きだった。
「連合軍が暴走しなければ大丈夫よ。それはお父さんが止めてくれてるんでしょう? それとも何か動きがあったの?」
『いや、そういうわけではないんだが……』
歯切れの悪い返事に、サラが首を傾げる。
そもそも回線を持ってはいるものの、よっぽどの用事がない限りは連絡を取らないことになっていた。それなのにこうして連絡をしてきたケイジ。ただ雑談をするだけに連絡をしてきたとは思えない。
「一体どうしたの?」
『その、なんだ……』
「お父さん?」
『サラ……』
開かれた口から紡がれた言葉が、サラを閉口させた。
『あの少年は駄目だぞ』
「……!」
『あの少年』が誰のことを指しているのか。サラはすぐにそれを理解する。
「別に、私は……」
『その感情を持っては駄目だ。……分かっているな?』
「……はい」
ーーまた、か。
心の中で、サラは思う。
ーー駄目だ、駄目だ、駄目だ。
いつも自分に与えられるのは、否定の言葉。今までも、今も、これからも。自分に許されることはないのだろうか。
誰かを『想う』という感情を持つ事を。
『想いは、人から冷静な判断力を奪う。大きな弱みになる。今のお前には必要のない物だ。良いな?』
「お父さんも、ザフトの上官達と同じようなことを言うのね」
『今がそういう世の中だと言うことだ。私たちが何のために戦っているのか、それを忘れるな』
「忘れてなんか……いないよ……」
何のために戦っているのか。そんな重要なことを、忘れられるはずなどない。
「分かってるから……忘れられないから必死なんじゃない。私の方は問題ないから。お父さんはお父さんの仕事をして」
戦争を少しでも早く終わらせるために。一人でも犠牲者を少なくするために。
それが、父と母の間に生まれた自分の使命なのだから。
だからこそ、あの時……アスランからのメッセージを見て以来、更に彼を敬遠するようになったのだ。
それは不自然なほどの拒否反応。でもそれを悟られないように、細心の注意は払っている。誰にも心を許さないという態度を貫くことで。
今のサラには、ザフトの中に誰一人友達もいなければ、心を許せる相手も存在してはいなかった。
「私は自分の使命を全うしてみせる。コーディネーターとして。ナチュラルとして。そして……どちらでもない者として」
サラの拳がぎゅっと握りしめられる。
そこにあるのは新たな決意。だが、今話をしている父も気付くことはない。
この時の聖の瞳にーー
「だからお父さんはあいつを……アズラエルをしっかり押さえていて。暴走しないように」
大粒の涙が光っていたことを。
相変わらず悪態はつくものの、それでもサラから与えられる訓練に真剣に取り組んでいた少年達は、目に見えて大きな成長を遂げている。
夏が終わる頃には、サラも思わず舌を巻くほどで。もちろんそれまでに何度か経験した実戦も、その成長に拍車を掛けていた。
本来アカデミーを首席で卒業していても、実戦では何の役にも立たない。訓練学校で身に付くのはあくまで一般的な知識のみで、イレギュラーな事に対応できる応用力を得てはいないのだから。真に強い兵士になるには実際に体験し、その時々の臨機応変な対応をその体で覚えていくしかないのだ。
その点サラの訓練は完璧だった。
実際にアスラン達を戦場に連れ出し、戦渦に放り込む。相手を殲滅できればそれでよし。駄目ならぎりぎりの所でサラがフォローし、その実戦をそのまますぐにシミュレーションプログラムとして、何度も反芻させる。
お陰でアスラン達の成長ぶりはザフトの高官達にも一目置かれるほどに早く、最近では他の隊からサラにトレーナーとして来てくれないかとスカウトが来るほどだった。
だがもちろんクルーゼ隊がサラを手放すはずもなく。
サラ自身もクルーゼ隊以外には興味はないと、そっけない返事を返し続けていた。
そんなある日の事。
「本日の訓練はこれで終了。解散」
「はっ」
足並みを揃えて敬礼する少年達に、サラは小さく頷くとそのまま部屋を出た。
急ぎ足で自分の部屋へと戻ると施錠を確認し、慌てて腕時計のボタンを押す。先ほどから不快な振動を伝えていた腕時計が、やっとその動きを止めた。
「はい」
『遅いぞ? サラ。そんな事ではいざと言うときに困るじゃないか」
「ここは戦場じゃないわ。それについ今し方訓練が終わったんだもの」
2つの回線を結ぶ特殊なこの時計。回線の一つはクルーゼの部屋へと繋がっていた。だがこのサラの口振りだと、今話をしている相手はクルーゼではない。
となると、もう一つの回線の相手。それはーー。
『あぁ、訓練中だったのか。・・・どうだ?コーディネーター達の実力のほどは』
「貴方の予想以上でしょうね。なんてったって飲み込みも成長も早いから」
『やはりそうか』
「うかうかしてると、あっという間に私も追い越されてしまいそう」
『ほう、サラの口からそんな言葉を聞くとはな』
「何よそれ。……そんな事より何で急に連絡なんかよこすのよ。お父さん」
『お父さん』
相手は、サラの父親であるケイジ・フユツキだった。
『何の連絡もないまま数ヶ月が経ってる。気になるのは当然だろう?』
「問題がなければ連絡はいらない。そう言ったのはお父さんじゃない」
『それだけ心配だって事だ』
「どうだかね。プラント側の情報が欲しいだけなんじゃないの?」
『それももちろん否定はしないが、やっぱりお前が心配なんだよ。母さんのようにならないかと不安で……』
「お母さん……」
呟きと共に思い出すのは、母の顔。強くて、優しくて、格好良くて、涙もろくて……本当に大好きだった。
「連合軍が暴走しなければ大丈夫よ。それはお父さんが止めてくれてるんでしょう? それとも何か動きがあったの?」
『いや、そういうわけではないんだが……』
歯切れの悪い返事に、サラが首を傾げる。
そもそも回線を持ってはいるものの、よっぽどの用事がない限りは連絡を取らないことになっていた。それなのにこうして連絡をしてきたケイジ。ただ雑談をするだけに連絡をしてきたとは思えない。
「一体どうしたの?」
『その、なんだ……』
「お父さん?」
『サラ……』
開かれた口から紡がれた言葉が、サラを閉口させた。
『あの少年は駄目だぞ』
「……!」
『あの少年』が誰のことを指しているのか。サラはすぐにそれを理解する。
「別に、私は……」
『その感情を持っては駄目だ。……分かっているな?』
「……はい」
ーーまた、か。
心の中で、サラは思う。
ーー駄目だ、駄目だ、駄目だ。
いつも自分に与えられるのは、否定の言葉。今までも、今も、これからも。自分に許されることはないのだろうか。
誰かを『想う』という感情を持つ事を。
『想いは、人から冷静な判断力を奪う。大きな弱みになる。今のお前には必要のない物だ。良いな?』
「お父さんも、ザフトの上官達と同じようなことを言うのね」
『今がそういう世の中だと言うことだ。私たちが何のために戦っているのか、それを忘れるな』
「忘れてなんか……いないよ……」
何のために戦っているのか。そんな重要なことを、忘れられるはずなどない。
「分かってるから……忘れられないから必死なんじゃない。私の方は問題ないから。お父さんはお父さんの仕事をして」
戦争を少しでも早く終わらせるために。一人でも犠牲者を少なくするために。
それが、父と母の間に生まれた自分の使命なのだから。
だからこそ、あの時……アスランからのメッセージを見て以来、更に彼を敬遠するようになったのだ。
それは不自然なほどの拒否反応。でもそれを悟られないように、細心の注意は払っている。誰にも心を許さないという態度を貫くことで。
今のサラには、ザフトの中に誰一人友達もいなければ、心を許せる相手も存在してはいなかった。
「私は自分の使命を全うしてみせる。コーディネーターとして。ナチュラルとして。そして……どちらでもない者として」
サラの拳がぎゅっと握りしめられる。
そこにあるのは新たな決意。だが、今話をしている父も気付くことはない。
この時の聖の瞳にーー
「だからお父さんはあいつを……アズラエルをしっかり押さえていて。暴走しないように」
大粒の涙が光っていたことを。