桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
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バタンと自室のドアを閉め、厳重に鍵をかける。そのままベッドに飛び込むと、枕に顔を埋めた。
「最悪……っ!」
吐き捨てるように言ったその言葉は、何故か悲しげで。実際サラの顔は、それを如実に表していた。
「どんな時でも動揺しないで、常に冷静な判断を下し、対処する。馴れ合いにうつつを抜かすなんてもってのほか。私だって分かってる……戦場でならそれを貫ける自信はあるわ」
サラの目が赤い。
「でも……ここはまだ本当の戦場じゃない。私に緊張感が足りないせい? あんな言葉で……アスランの一言で私……」
ぎゅっと力強く枕を抱きしめる。
「動揺してる……」
サラとアスランが桜の下で出会った時。既にサラはザフトへの入隊が決まっていた。
ただし、前線ではなく研究者として。
ところがその数日後に事態は一変し、今に至る。そう、あの時は未だサラは『サラ・フユツキ』でいられたのだ。アスランと無邪気に、本当の姿で話すことの出来る一人の少女のままで。
だからこそサラは、アスランに自分の存在をアピールしたのだった。まさかこのような事態に陥るとは考えてもみなかったから。
「あの時顔を合わせていなければ、昔の憧れだけで終われたかも知れないのに」
そう言いながらベッドを降りると、机の引き出しを開けて中の物を取り出す。それはとてもシンプルなシルバーフレームの写真立てだった。
中に入っているのは、とても仲の良さそうな母子の写真。赤い軍服を着た母親の腕に抱かれた子供は、一瞬男の子と見間違えてしまいそうなほどにやんちゃな笑顔を見せてはいるが、それはまさしく幼き日のサラ。
「お母さん……」
過去の自分を満面の笑顔で抱きしめている写真の中の女性に、語りかける。変わらぬ笑顔が、サラを見つめていた。
しばし写真に見入っていたサラだったが、その写真をそっと抜き出すと、今度は更にその下に隠されていたもう一枚の写真を取り出す。
「色あせかけていた写真に、再び色を付けてしまったから……」
そこには先ほどの母子の笑顔。
そして更にもう一組の母子が写っていた。
何故か端の方が少し焼けこげているその写真には、小さくこんな文字が書かれている。
『アスラン&レノア&サラ&シルフィア』
サラ達と一緒に写っているもう一組の母子。アスランとレノアは、サラ達と同様とても幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「初恋……だったんだよね。アスランは気付いてなかったんだろうけど」
ふっとため息を付きながら、写真の中のアスランを指ではじく。パシッと小気味良い音が、室内に響いた。
「私が女だって事すら、気付いてなかったみたいだし」
何が起きても大丈夫なようにと、常に動きやすい服装でいるようにと躾られてきたサラ。日頃の訓練で鍛えられていた事もあり、いつもやんちゃで元気だった彼女は、女の子と気付かれる方が稀だった。
そんな彼女のスカートデビューはこの春だという。
「良いところを一杯持ってる癖に、そういう所が鈍いんだよね。相変わらずというか何というか」
桜の下で出会ったアスランは、記憶の中の彼がそのまま大きくなっただけで。
男の子なのにとても繊細で、綺麗で、優しくて。自分にない物をたくさん持っているアスランに、サラはずっと憧れ続けていた。
だからこそアスランがザフトに入隊することを知ったとき、自分もその道を選んだのだ。密かにオファーが来ていたものの、ずっと断り続けていたザフトでの武器開発の研究。研究自体は気乗りしなかったが、それでもアスランの側に行きたくて。
「お母さん……私、どうしたら良いの?」
視線を移し、写真の中で微笑む母に問いかける。答えなど返ってくるはずもないのに。
「あの日から……血のバレンタインのあの日から、私の心の支えは彼だけだった。逃亡生活のせいで友達のできなかった私の、唯一の友達で……大切な人。でも……」
サラの顔が、苦しそうにゆがむ。
「こんなに動揺してしまうようじゃ、これ以上好きになるわけにはいかない」
任務を終えるまでは、心を乱すことを許されない。任務の失敗は、死を意味するのだから。
「お母さんのお下がりのこの赤を着て、アスランの側に来て。大切な物が全て身近にあるのに、それが裏目に出るなんて思わなかった」
写真を握りしめる手が震えている。
「お母さん……」
そっと閉じられた瞼から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
「最悪……っ!」
吐き捨てるように言ったその言葉は、何故か悲しげで。実際サラの顔は、それを如実に表していた。
「どんな時でも動揺しないで、常に冷静な判断を下し、対処する。馴れ合いにうつつを抜かすなんてもってのほか。私だって分かってる……戦場でならそれを貫ける自信はあるわ」
サラの目が赤い。
「でも……ここはまだ本当の戦場じゃない。私に緊張感が足りないせい? あんな言葉で……アスランの一言で私……」
ぎゅっと力強く枕を抱きしめる。
「動揺してる……」
サラとアスランが桜の下で出会った時。既にサラはザフトへの入隊が決まっていた。
ただし、前線ではなく研究者として。
ところがその数日後に事態は一変し、今に至る。そう、あの時は未だサラは『サラ・フユツキ』でいられたのだ。アスランと無邪気に、本当の姿で話すことの出来る一人の少女のままで。
だからこそサラは、アスランに自分の存在をアピールしたのだった。まさかこのような事態に陥るとは考えてもみなかったから。
「あの時顔を合わせていなければ、昔の憧れだけで終われたかも知れないのに」
そう言いながらベッドを降りると、机の引き出しを開けて中の物を取り出す。それはとてもシンプルなシルバーフレームの写真立てだった。
中に入っているのは、とても仲の良さそうな母子の写真。赤い軍服を着た母親の腕に抱かれた子供は、一瞬男の子と見間違えてしまいそうなほどにやんちゃな笑顔を見せてはいるが、それはまさしく幼き日のサラ。
「お母さん……」
過去の自分を満面の笑顔で抱きしめている写真の中の女性に、語りかける。変わらぬ笑顔が、サラを見つめていた。
しばし写真に見入っていたサラだったが、その写真をそっと抜き出すと、今度は更にその下に隠されていたもう一枚の写真を取り出す。
「色あせかけていた写真に、再び色を付けてしまったから……」
そこには先ほどの母子の笑顔。
そして更にもう一組の母子が写っていた。
何故か端の方が少し焼けこげているその写真には、小さくこんな文字が書かれている。
『アスラン&レノア&サラ&シルフィア』
サラ達と一緒に写っているもう一組の母子。アスランとレノアは、サラ達と同様とても幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「初恋……だったんだよね。アスランは気付いてなかったんだろうけど」
ふっとため息を付きながら、写真の中のアスランを指ではじく。パシッと小気味良い音が、室内に響いた。
「私が女だって事すら、気付いてなかったみたいだし」
何が起きても大丈夫なようにと、常に動きやすい服装でいるようにと躾られてきたサラ。日頃の訓練で鍛えられていた事もあり、いつもやんちゃで元気だった彼女は、女の子と気付かれる方が稀だった。
そんな彼女のスカートデビューはこの春だという。
「良いところを一杯持ってる癖に、そういう所が鈍いんだよね。相変わらずというか何というか」
桜の下で出会ったアスランは、記憶の中の彼がそのまま大きくなっただけで。
男の子なのにとても繊細で、綺麗で、優しくて。自分にない物をたくさん持っているアスランに、サラはずっと憧れ続けていた。
だからこそアスランがザフトに入隊することを知ったとき、自分もその道を選んだのだ。密かにオファーが来ていたものの、ずっと断り続けていたザフトでの武器開発の研究。研究自体は気乗りしなかったが、それでもアスランの側に行きたくて。
「お母さん……私、どうしたら良いの?」
視線を移し、写真の中で微笑む母に問いかける。答えなど返ってくるはずもないのに。
「あの日から……血のバレンタインのあの日から、私の心の支えは彼だけだった。逃亡生活のせいで友達のできなかった私の、唯一の友達で……大切な人。でも……」
サラの顔が、苦しそうにゆがむ。
「こんなに動揺してしまうようじゃ、これ以上好きになるわけにはいかない」
任務を終えるまでは、心を乱すことを許されない。任務の失敗は、死を意味するのだから。
「お母さんのお下がりのこの赤を着て、アスランの側に来て。大切な物が全て身近にあるのに、それが裏目に出るなんて思わなかった」
写真を握りしめる手が震えている。
「お母さん……」
そっと閉じられた瞼から、一粒の涙がこぼれ落ちた。