桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
まだ、肌がざわついている。
「面白い……」
トレーニングウェアから軍服へと着替えながら、サラは呟く。
先ほどの試合。実はサラは、心の中で感嘆していた。
確かにアカデミーでは優秀な成績を修めていた少年達。戦争に必要な知識や技術を叩き込まれ、それらをこなす事で掴み取った今の地位。彼らは間違いなくザフトのトップガンだった。
だがいかんせん実戦経験が足りないわけで。どんなにアカデミー時代の成績が良くても、実戦ではほとんどそれらは通用しない。習った物はあくまで基礎。応用や、戦いの勘と行った物は実戦でしか身につけることは出来ない。
それが分かっているからこそ、サラは彼らの真の能力を測るべく試合に臨んだ。クルーゼからの命令も確かにあったのだが、自分自身の目でもそれを確かめたかったから。
案の定、イザークもアスランもまだまだ未熟だった。それなりの才能の片鱗は見せていても、開花させるほどではない。
それでも彼らは、サラに驚きを与えていた。今まで数多くの実戦を経験してきたサラだが、その彼女があれだけ『時間をかけて』戦わなければならなかった少年兵は珍しい。大抵は最初の一撃で沈んでしまうのだから。
ほんの数秒でも、一撃以上の動きをサラにさせた相手はなかなかいなかった。ましてやアスランのように、30秒近く戦い続けた相手は――。
「さすがね、アスラン」
そう呟いたサラの表情は、本当に嬉しそうだった。
「今はまだ弱いけど、磨けば確実に成長するわね。アスランも、イザークも。きっとラスティ達も。ほんと、面白いわ」
元々、戦う事自体は嫌いではない。誰かと競うことで、自分の存在を感じる事ができるというのは幸せな事だと教えられてきていたから。
――大好きで、大嫌いなあの人に。
ブルブルブル
不意に腕時計からの振動を感じた。慌てて腕を上げ、時計の横に付いている小さなボタンを押す。プツッと小さな音がすると同時に、回線が開かれた。
「はい」
『先ほども呼んだのだが、返事がなかったな。何かあったのか?』
「すみません。試合中だったもので。これからすぐに伺います」
『ほう、試合かね……面白い。良いデータは取れたかな』
「はい。まだ2人だけではありますが、まずは白兵戦のデータを取ることが出来ました」
『その辺は後ほど詳しく聞こう。すぐに私の部屋に来てくれたまえ』
「了解しました」
プツッと再び音がして、今度は回線が切れる。
クルーゼの部屋と、もう一カ所とを繋ぐことのできるこの回線は特殊なコードで、サラに与えられた時計のみ繋ぐことが可能な物だった。
「急がなくちゃ」
慌てて着替えを済ませ、ロッカールームを飛び出すサラ。無言でトレーニングルームを出ていくサラの後ろ姿には、誰からの声もかかることはなかった。
衝撃的な出会いから、3日が過ぎた。その間アスラン達には特別な任務が与えられることもなく、静かな時間が過ぎている。
戦争とは言っても、毎日寸暇を惜しんで戦っているわけではない。お互いが作戦を練りながら、時には静かに相手の動向をうかがう時間も必要なのだ。
「ここんとこ動きがないな、地球軍」
「ああ、気味の悪いくらいにな」
ミーティングルームでくつろいでいるディアッカとイザークは、あからさまに不満げな態度を見せていた。やはり屋内に閉じこもっているというのは性に合わないらしい。
「数ばかりのMAで動き回られるのも鬱陶しいが、こう何も動きがないと、体が生ってしようがないよな。あ~、戦いてー」
「何言ってるんですか、ディアッカ。戦わないでいられるなら、それに越したことはありませんよ」
「ふん! 相変わらずの腑抜けだな。ニコル」
「……っ! 何で戦わないことが腑抜けなんですか? イザーク!」
「おいおい、やめろよお前ら。イライラすんのは分かるけどさー」
今日何度目かの小さな小競り合いを、その度に仲裁しているラスティが、もう数え切れないほどついた溜息を又一つ増やした。
そんな彼らの姿を見ながら、アスランも嘆息する。
戦う意志のある者と、戦うことしか道が無かった者。その思いは皆違ったが、とりあえず今置かれている状況は変わらないわけで。戦場に身を置いているはずなのに緊張感のないこの環境は、彼らに別の意味での不安を与えているようだった。
「ニコルの言うことは尤もだと思うけどさ。かといって実戦から離れる時間が長くなるとやっぱ不安だよな。それだけ確実に腕も落ちるわけだし……しかも何故かシミュレーションルームの使用は不可と来てる。ほんと参るよな」
そう言ったラスティの顔にも、明らかに不満の色が濃く出ている。
実戦が無理でも、せめてシミュレーションくらい出来ればまだ気分も違うはずなのに。この3日間は、シミュレーターどころかMA等の機械類も触る機会を与えられていなかった。
「入隊して以来、こんな事は初めてだな。俺達の与り知らぬ所で、何か問題でもあったんだろうか?」
「別に無いわよ」
アスランの呟きに被さるように聞こえてきた声。数日ぶりに聞いたその声は、相変わらず冷たかった。
「面白い……」
トレーニングウェアから軍服へと着替えながら、サラは呟く。
先ほどの試合。実はサラは、心の中で感嘆していた。
確かにアカデミーでは優秀な成績を修めていた少年達。戦争に必要な知識や技術を叩き込まれ、それらをこなす事で掴み取った今の地位。彼らは間違いなくザフトのトップガンだった。
だがいかんせん実戦経験が足りないわけで。どんなにアカデミー時代の成績が良くても、実戦ではほとんどそれらは通用しない。習った物はあくまで基礎。応用や、戦いの勘と行った物は実戦でしか身につけることは出来ない。
それが分かっているからこそ、サラは彼らの真の能力を測るべく試合に臨んだ。クルーゼからの命令も確かにあったのだが、自分自身の目でもそれを確かめたかったから。
案の定、イザークもアスランもまだまだ未熟だった。それなりの才能の片鱗は見せていても、開花させるほどではない。
それでも彼らは、サラに驚きを与えていた。今まで数多くの実戦を経験してきたサラだが、その彼女があれだけ『時間をかけて』戦わなければならなかった少年兵は珍しい。大抵は最初の一撃で沈んでしまうのだから。
ほんの数秒でも、一撃以上の動きをサラにさせた相手はなかなかいなかった。ましてやアスランのように、30秒近く戦い続けた相手は――。
「さすがね、アスラン」
そう呟いたサラの表情は、本当に嬉しそうだった。
「今はまだ弱いけど、磨けば確実に成長するわね。アスランも、イザークも。きっとラスティ達も。ほんと、面白いわ」
元々、戦う事自体は嫌いではない。誰かと競うことで、自分の存在を感じる事ができるというのは幸せな事だと教えられてきていたから。
――大好きで、大嫌いなあの人に。
ブルブルブル
不意に腕時計からの振動を感じた。慌てて腕を上げ、時計の横に付いている小さなボタンを押す。プツッと小さな音がすると同時に、回線が開かれた。
「はい」
『先ほども呼んだのだが、返事がなかったな。何かあったのか?』
「すみません。試合中だったもので。これからすぐに伺います」
『ほう、試合かね……面白い。良いデータは取れたかな』
「はい。まだ2人だけではありますが、まずは白兵戦のデータを取ることが出来ました」
『その辺は後ほど詳しく聞こう。すぐに私の部屋に来てくれたまえ』
「了解しました」
プツッと再び音がして、今度は回線が切れる。
クルーゼの部屋と、もう一カ所とを繋ぐことのできるこの回線は特殊なコードで、サラに与えられた時計のみ繋ぐことが可能な物だった。
「急がなくちゃ」
慌てて着替えを済ませ、ロッカールームを飛び出すサラ。無言でトレーニングルームを出ていくサラの後ろ姿には、誰からの声もかかることはなかった。
衝撃的な出会いから、3日が過ぎた。その間アスラン達には特別な任務が与えられることもなく、静かな時間が過ぎている。
戦争とは言っても、毎日寸暇を惜しんで戦っているわけではない。お互いが作戦を練りながら、時には静かに相手の動向をうかがう時間も必要なのだ。
「ここんとこ動きがないな、地球軍」
「ああ、気味の悪いくらいにな」
ミーティングルームでくつろいでいるディアッカとイザークは、あからさまに不満げな態度を見せていた。やはり屋内に閉じこもっているというのは性に合わないらしい。
「数ばかりのMAで動き回られるのも鬱陶しいが、こう何も動きがないと、体が生ってしようがないよな。あ~、戦いてー」
「何言ってるんですか、ディアッカ。戦わないでいられるなら、それに越したことはありませんよ」
「ふん! 相変わらずの腑抜けだな。ニコル」
「……っ! 何で戦わないことが腑抜けなんですか? イザーク!」
「おいおい、やめろよお前ら。イライラすんのは分かるけどさー」
今日何度目かの小さな小競り合いを、その度に仲裁しているラスティが、もう数え切れないほどついた溜息を又一つ増やした。
そんな彼らの姿を見ながら、アスランも嘆息する。
戦う意志のある者と、戦うことしか道が無かった者。その思いは皆違ったが、とりあえず今置かれている状況は変わらないわけで。戦場に身を置いているはずなのに緊張感のないこの環境は、彼らに別の意味での不安を与えているようだった。
「ニコルの言うことは尤もだと思うけどさ。かといって実戦から離れる時間が長くなるとやっぱ不安だよな。それだけ確実に腕も落ちるわけだし……しかも何故かシミュレーションルームの使用は不可と来てる。ほんと参るよな」
そう言ったラスティの顔にも、明らかに不満の色が濃く出ている。
実戦が無理でも、せめてシミュレーションくらい出来ればまだ気分も違うはずなのに。この3日間は、シミュレーターどころかMA等の機械類も触る機会を与えられていなかった。
「入隊して以来、こんな事は初めてだな。俺達の与り知らぬ所で、何か問題でもあったんだろうか?」
「別に無いわよ」
アスランの呟きに被さるように聞こえてきた声。数日ぶりに聞いたその声は、相変わらず冷たかった。