Dear my fairy(ニコル)
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暫くして聞こえてくるニコルの演奏。いつものように心を包み込んでくれるような優しい演奏に、私はしばし現実を忘れた。目を瞑ると、先ほどのニコルの笑顔が浮かぶ。
「単なる一ファンにしか過ぎないのに……さっきの私は何を言おうとしてたんだろう」
曲が終わると同時に膝の上に落ちた涙で、自分が泣いていたことに初めて気付く。
――切ない。
そんな想いが心を埋め尽くす。
実際の所、最初は単なるファンだった。あの表現力に憧れて、いつか自分もああなりたいと純粋に思っていた。
そのはずなのに、気が付けば……。
私は別の形で彼に憧れていた。
――好き。
そんな感情が芽生えていたのだ。
でもそれはよくありがちな、ブラウン管の中の芸能人への憧れのような物だと思っていた。思い込もうとしていたはずなのに。
先ほど見てしまったニコルの笑顔は、私に恋心を確信させてしまって、自然と溜息が出てしまう。
届くはずのない想いを抱いたところで、傷つくだけなのに。そう思って。
コンコン
もう一つ溜息をつこうとした時、ノックの音がした。
「フユツキさん、出番です」
「あ、はい。すぐ行きます」
いけない。これから演奏だというのに、心を乱していては音に現れてしまう。
パンッと両頬を強く叩くと、私は舞台へと向かった。
舞台へ近付くに連れ、何故かざわざわとした観客席の声が聞こえてくる。幕間の雑談と言うには少しばかりおかしいざわめき。何かがあったのだろうか?
ダーン!!
突然聞こえてきたのは、力強く鍵盤を叩く音。その音と同時に、客席は静まりかえる。聞こえてくるのはピアノの音だけ。
アップテンポの力強いメロディーが、会場を包み込む。かと思えばスローテンポの優しいメロディーに変わり、緩急付けられたこの曲に耳を奪われた。
それほどにとても心地の良い曲だったから。
胸を焦がす切なさと、痛いほどに強い情熱。優しさ、ときめき。これはきっと、想いと願いが込められた魂の曲。
最後の一音が消え、嵐のような拍手が聞こえる。私も無意識に舞台裏で拍手をしていた。
一体これを弾いていたのは誰だろう? ニコルは曲を弾き終えていた。その後休憩をはさんで私の出番なのに、その間に演奏をした人物。
私の心を鷲掴みにする曲を聴かせてくれた人は、誰……?
気になって舞台の袖に足を運び、ピアノの所に座っている人物を見た。
そこにいたのは――。
「ニコルさん……?」
先ほど私に笑顔を見せてくれた人。
そうだ、確かにあの音はニコルだった。でもいつもとは全く違う力強い演奏に、ニコルだと気付くことが出来なかった。
彼にはこんなにも力強く、情熱的な一面があるのか。私は正直驚いていた。
演奏を終えてぺこりと挨拶したニコルは、近くにあったマイクスタンドに近付くとゆっくりと語りはじめた。
「本日は、プログラムに書かれていない曲を一つ演奏させて頂きました。実はこれは、つい先日できたばかりの僕の新曲です。今日はどうしてもこの曲を聴いて頂きたい方がこの会場にいらっしゃるので、会場の方に無理を言って演奏の許可を頂いたんです。まだまだ未熟な演奏ですが、皆様の心の中に伝わる物があれば幸せです。ちなみにこの曲のタイトルですが……」
そこまで言ったニコルは、ちらりとこちらを見た。……そう思った。
「Dear my fairyです。」
再びぺこりと頭を下げるニコル。そして、私の方へと歩いてきた。
観客席から姿が見えないところまで入ってくると、ニコルは私の正面に立つ。
「サラさん。貴女の心に僕の曲は届きましたか?」
ドキリ。
目の前にいるのは、とても真摯な表情のニコル。
「僕は不器用なので、音楽でしか自分の心を表すことが出来ません。だから……もし良かったら、サラさんも音楽で……」
まさか、と思った。
これは……告白?
今日初めて出会った私に? それとも彼は……ずっと?
――Dear my fairy
その曲名からも、曲自身からもひしひしと伝わってきた感情。それは私に対してと自惚れても良いのだろうか。
少し頬を赤らめている彼に、私は意を決してこう答えた。
「全ては、演奏で」
「単なる一ファンにしか過ぎないのに……さっきの私は何を言おうとしてたんだろう」
曲が終わると同時に膝の上に落ちた涙で、自分が泣いていたことに初めて気付く。
――切ない。
そんな想いが心を埋め尽くす。
実際の所、最初は単なるファンだった。あの表現力に憧れて、いつか自分もああなりたいと純粋に思っていた。
そのはずなのに、気が付けば……。
私は別の形で彼に憧れていた。
――好き。
そんな感情が芽生えていたのだ。
でもそれはよくありがちな、ブラウン管の中の芸能人への憧れのような物だと思っていた。思い込もうとしていたはずなのに。
先ほど見てしまったニコルの笑顔は、私に恋心を確信させてしまって、自然と溜息が出てしまう。
届くはずのない想いを抱いたところで、傷つくだけなのに。そう思って。
コンコン
もう一つ溜息をつこうとした時、ノックの音がした。
「フユツキさん、出番です」
「あ、はい。すぐ行きます」
いけない。これから演奏だというのに、心を乱していては音に現れてしまう。
パンッと両頬を強く叩くと、私は舞台へと向かった。
舞台へ近付くに連れ、何故かざわざわとした観客席の声が聞こえてくる。幕間の雑談と言うには少しばかりおかしいざわめき。何かがあったのだろうか?
ダーン!!
突然聞こえてきたのは、力強く鍵盤を叩く音。その音と同時に、客席は静まりかえる。聞こえてくるのはピアノの音だけ。
アップテンポの力強いメロディーが、会場を包み込む。かと思えばスローテンポの優しいメロディーに変わり、緩急付けられたこの曲に耳を奪われた。
それほどにとても心地の良い曲だったから。
胸を焦がす切なさと、痛いほどに強い情熱。優しさ、ときめき。これはきっと、想いと願いが込められた魂の曲。
最後の一音が消え、嵐のような拍手が聞こえる。私も無意識に舞台裏で拍手をしていた。
一体これを弾いていたのは誰だろう? ニコルは曲を弾き終えていた。その後休憩をはさんで私の出番なのに、その間に演奏をした人物。
私の心を鷲掴みにする曲を聴かせてくれた人は、誰……?
気になって舞台の袖に足を運び、ピアノの所に座っている人物を見た。
そこにいたのは――。
「ニコルさん……?」
先ほど私に笑顔を見せてくれた人。
そうだ、確かにあの音はニコルだった。でもいつもとは全く違う力強い演奏に、ニコルだと気付くことが出来なかった。
彼にはこんなにも力強く、情熱的な一面があるのか。私は正直驚いていた。
演奏を終えてぺこりと挨拶したニコルは、近くにあったマイクスタンドに近付くとゆっくりと語りはじめた。
「本日は、プログラムに書かれていない曲を一つ演奏させて頂きました。実はこれは、つい先日できたばかりの僕の新曲です。今日はどうしてもこの曲を聴いて頂きたい方がこの会場にいらっしゃるので、会場の方に無理を言って演奏の許可を頂いたんです。まだまだ未熟な演奏ですが、皆様の心の中に伝わる物があれば幸せです。ちなみにこの曲のタイトルですが……」
そこまで言ったニコルは、ちらりとこちらを見た。……そう思った。
「Dear my fairyです。」
再びぺこりと頭を下げるニコル。そして、私の方へと歩いてきた。
観客席から姿が見えないところまで入ってくると、ニコルは私の正面に立つ。
「サラさん。貴女の心に僕の曲は届きましたか?」
ドキリ。
目の前にいるのは、とても真摯な表情のニコル。
「僕は不器用なので、音楽でしか自分の心を表すことが出来ません。だから……もし良かったら、サラさんも音楽で……」
まさか、と思った。
これは……告白?
今日初めて出会った私に? それとも彼は……ずっと?
――Dear my fairy
その曲名からも、曲自身からもひしひしと伝わってきた感情。それは私に対してと自惚れても良いのだろうか。
少し頬を赤らめている彼に、私は意を決してこう答えた。
「全ては、演奏で」