桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
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紹介も終わり、解散を許されたアスラン達は、ラスティを除いてトレーニングルームにいた。
軍に所属しているからと言って、年がら年中戦いに明け暮れているわけではない。時間のある時には自分の機体を整備したり、肉体を衰えさせないよう常に気を遣う必要がある。まだMSをあてがわれていない彼らは、主に空いている時間をトレーニングに当てていた。
「ったく何なんだ、あいつは!」
イザークが、怒りを露わにしながら、ラットプルダウンを物凄い勢いで引っ張っている。ガシャンガシャンと大きな音を立てて重りが下ろされているため、トレーニングと言うよりは八つ当たりに近い。
それを横目で見ながら溜息をつきつつ、ディアッカがチェストプレスのハンドルを握った。
「少し落ち着けよ、イザーク。……でもその気持ちは分からなくもないけどな」
イザークもディアッカも、どうやらサラの事が気に入らないらしい。特にイザークは、思い出すだけでも腹が立つようで。
「気を遣われなければならないほど無能でもなければ、それなりの実績もあるだと!? よくもぬけぬけと……だったらそれを見せてみろってんだ!!」
女のくせに~~! と叫びながらイザークは更に負荷を増やし、ガッシャンガッシャンと派手な音を立ててラットバーを引っ張り続けている。
「……イザーク……」
やりすぎだろ? と思いながらも、ディアッカは止めない。怒っているときのイザークは、絶対に何かに八つ当たりをしないとその怒りを鎮める事が出来ないと言うことを、嫌と言うほど分かっているから。
どうせ八つ当たりするのなら、自分よりこうしてトレーニング機具に当たってくれる方がありがたい。ついついそんな計算をしてしまうほどに、ディアッカはいつも被害を受けていた。
「ジョージ・グレンの関係者か……どんな関係かは知らないけどさ。どうせその辺に何らかの秘密があるんだろ。実績とやらも、ひょっとしたらジョージ・グレンに関係してるんじゃねーの? 例えば、愛人の娘……とかな」
「それは実績じゃなくて、七光りのようなものじゃないか」
ディアッカの言葉に、イザークがすかさず突っ込みを入れる。
だがなるほど、それなら納得がいく。自分達とそう変わらない年齢で、しかも入隊したばかりの少女がいきなり実績など残せるはずがないのだから。
何らかの後ろ盾がなければーー。
つい今し方まで殺気立っていたイザークの表情が、少し柔らかくなった。
そんな二人の会話を聞いていたニコルが、ふと思い出したように言った。
「そういえば、聞いたことがあります」
「何をだ? ニコル」
アスランが問う。
民間人なら目を剥いてしまいそうな負荷をかけたエアロバイクをこいでいる彼らの額には、うっすらと汗が光っていた。だが、さすがに普段から訓練しているだけあって、息は全く乱れていない。
「ジョージ・グレンですよ。確か彼は、何人もの養子を迎えているという話です」
「養子?」
「ええ、コーディネーターの中でも特に何かの能力に秀でている者を、自分の養子に迎えているとか言う噂をちらりと耳にしたことがあるんです」
「それが本当だとすると、サラ・グレンは養女ということになるのか?」
「先ほどの自己紹介では関係者ということでしたけど、グレンと名乗れるほどの方ですから、一番考えられるのはその線ですね」
まぁこれも単なる噂ですから、真偽のほどは分かりませんけどね、とニコルが付け加える。
グレンの名を名乗れるのは、ファーストコーディネーターと呼ばれるジョージ・グレンに認められた者のみ。本人がそう言ったわけではないのだが、それはいつのまにか暗黙の了解となっている事だった。
それほどにジョージ・グレンはコーディネーターに崇められている存在。だからこそ、彼に関する様々な噂は後を絶たない。
「ということはあの女の実績とやらは、本当に実績ということなのか?」
せっかく穏やかになり始めていたイザークの顔が、再び固くなる。
「本人に聞いたわけじゃありませんから何とも……でももし本当に養女なら、何か物凄い才能を持っているのかもしれませんね。ま、あくまで想像ですけど」
「想像でも何でも、可能性があるとなると腹が立つ!!」
「イザーク、それって……」
『ひょっとして嫉妬ですか?』
そう言おうとして、ディアッカに視線で制される。慌てて言葉を飲み込んだニコルを一瞬ちらりと見たイザークは、すぐに正面に向き直るとそのうち重りがふっとんでしまうのではないかというような勢いで、再びラットバーを引っ張り始めた。その勢いは、もう誰にも止められないことは明白である。
触らぬ神にたたりなし。
そんな考えが頭を掠めたディアッカとニコルは、もう何も言うまいと目で合図をし、自分のトレーニングへと意識を集中した。
アスランはというと、今の会話で更にサラの謎が増えてしまったため、もう完全に意識は別の方へと移ってしまっていた。
今アスランの脳裏をよぎるのは、サラただ一人。
初めて出会ったときは、とても明るい笑顔で人懐こくて、元気な印象。 桜の精だと言い張りながら目の前に降りてきた彼女は、口にこそしなかったが本当に妖精か天使のようだった。
苦しかった心が、ほんの一瞬で癒されてしまったあの時。たった数分の出会いだったのに、今でも鮮明に記憶に焼き付いている。
ーーあれは幻だったのか?
再び出会った彼女は、笑顔も妖精もほど遠い雰囲気を纏っていて。しかもあの時とは違う名で現れた。自分を見ても、顔色一つ替えない冷徹な表情は、何故か見ていて辛かった。
ーー君は一体何者なんだ?
考えれば考えるほど分からない。
「サラ・グレン……」
「何か用?」
無意識に呟いた名に返答が返ってきて、驚く。見ると、トレーニングルームの入り口にはサラとラスティが立っていた。
軍に所属しているからと言って、年がら年中戦いに明け暮れているわけではない。時間のある時には自分の機体を整備したり、肉体を衰えさせないよう常に気を遣う必要がある。まだMSをあてがわれていない彼らは、主に空いている時間をトレーニングに当てていた。
「ったく何なんだ、あいつは!」
イザークが、怒りを露わにしながら、ラットプルダウンを物凄い勢いで引っ張っている。ガシャンガシャンと大きな音を立てて重りが下ろされているため、トレーニングと言うよりは八つ当たりに近い。
それを横目で見ながら溜息をつきつつ、ディアッカがチェストプレスのハンドルを握った。
「少し落ち着けよ、イザーク。……でもその気持ちは分からなくもないけどな」
イザークもディアッカも、どうやらサラの事が気に入らないらしい。特にイザークは、思い出すだけでも腹が立つようで。
「気を遣われなければならないほど無能でもなければ、それなりの実績もあるだと!? よくもぬけぬけと……だったらそれを見せてみろってんだ!!」
女のくせに~~! と叫びながらイザークは更に負荷を増やし、ガッシャンガッシャンと派手な音を立ててラットバーを引っ張り続けている。
「……イザーク……」
やりすぎだろ? と思いながらも、ディアッカは止めない。怒っているときのイザークは、絶対に何かに八つ当たりをしないとその怒りを鎮める事が出来ないと言うことを、嫌と言うほど分かっているから。
どうせ八つ当たりするのなら、自分よりこうしてトレーニング機具に当たってくれる方がありがたい。ついついそんな計算をしてしまうほどに、ディアッカはいつも被害を受けていた。
「ジョージ・グレンの関係者か……どんな関係かは知らないけどさ。どうせその辺に何らかの秘密があるんだろ。実績とやらも、ひょっとしたらジョージ・グレンに関係してるんじゃねーの? 例えば、愛人の娘……とかな」
「それは実績じゃなくて、七光りのようなものじゃないか」
ディアッカの言葉に、イザークがすかさず突っ込みを入れる。
だがなるほど、それなら納得がいく。自分達とそう変わらない年齢で、しかも入隊したばかりの少女がいきなり実績など残せるはずがないのだから。
何らかの後ろ盾がなければーー。
つい今し方まで殺気立っていたイザークの表情が、少し柔らかくなった。
そんな二人の会話を聞いていたニコルが、ふと思い出したように言った。
「そういえば、聞いたことがあります」
「何をだ? ニコル」
アスランが問う。
民間人なら目を剥いてしまいそうな負荷をかけたエアロバイクをこいでいる彼らの額には、うっすらと汗が光っていた。だが、さすがに普段から訓練しているだけあって、息は全く乱れていない。
「ジョージ・グレンですよ。確か彼は、何人もの養子を迎えているという話です」
「養子?」
「ええ、コーディネーターの中でも特に何かの能力に秀でている者を、自分の養子に迎えているとか言う噂をちらりと耳にしたことがあるんです」
「それが本当だとすると、サラ・グレンは養女ということになるのか?」
「先ほどの自己紹介では関係者ということでしたけど、グレンと名乗れるほどの方ですから、一番考えられるのはその線ですね」
まぁこれも単なる噂ですから、真偽のほどは分かりませんけどね、とニコルが付け加える。
グレンの名を名乗れるのは、ファーストコーディネーターと呼ばれるジョージ・グレンに認められた者のみ。本人がそう言ったわけではないのだが、それはいつのまにか暗黙の了解となっている事だった。
それほどにジョージ・グレンはコーディネーターに崇められている存在。だからこそ、彼に関する様々な噂は後を絶たない。
「ということはあの女の実績とやらは、本当に実績ということなのか?」
せっかく穏やかになり始めていたイザークの顔が、再び固くなる。
「本人に聞いたわけじゃありませんから何とも……でももし本当に養女なら、何か物凄い才能を持っているのかもしれませんね。ま、あくまで想像ですけど」
「想像でも何でも、可能性があるとなると腹が立つ!!」
「イザーク、それって……」
『ひょっとして嫉妬ですか?』
そう言おうとして、ディアッカに視線で制される。慌てて言葉を飲み込んだニコルを一瞬ちらりと見たイザークは、すぐに正面に向き直るとそのうち重りがふっとんでしまうのではないかというような勢いで、再びラットバーを引っ張り始めた。その勢いは、もう誰にも止められないことは明白である。
触らぬ神にたたりなし。
そんな考えが頭を掠めたディアッカとニコルは、もう何も言うまいと目で合図をし、自分のトレーニングへと意識を集中した。
アスランはというと、今の会話で更にサラの謎が増えてしまったため、もう完全に意識は別の方へと移ってしまっていた。
今アスランの脳裏をよぎるのは、サラただ一人。
初めて出会ったときは、とても明るい笑顔で人懐こくて、元気な印象。 桜の精だと言い張りながら目の前に降りてきた彼女は、口にこそしなかったが本当に妖精か天使のようだった。
苦しかった心が、ほんの一瞬で癒されてしまったあの時。たった数分の出会いだったのに、今でも鮮明に記憶に焼き付いている。
ーーあれは幻だったのか?
再び出会った彼女は、笑顔も妖精もほど遠い雰囲気を纏っていて。しかもあの時とは違う名で現れた。自分を見ても、顔色一つ替えない冷徹な表情は、何故か見ていて辛かった。
ーー君は一体何者なんだ?
考えれば考えるほど分からない。
「サラ・グレン……」
「何か用?」
無意識に呟いた名に返答が返ってきて、驚く。見ると、トレーニングルームの入り口にはサラとラスティが立っていた。