桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
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薄紅色の花びらが緑色の葉と入れ替わる頃。
正式にクルーゼ隊に入隊し、簡単な任務をこなせるほどになっていたアスラン達は、ある朝クルーゼの部屋に呼び出された。集められたのは、この春から入隊を許された新人のみ。
「朝早くからすまないな」
クルーゼはいつものように仮面で顔を隠したまま言った。微かに上がった口角から、かろうじて笑っているのだと言うことが分かる。
「はっ!」
イザーク、ディアッカ、ニコル、ラスティ、そしてアスランが一斉に敬礼をする。軽く手を挙げてそれに答えたクルーゼは、机の上のボタンを押した。と同時に、隣の部屋へと繋がる扉が開く。
「早速だが紹介しておきたい人物がいてね。君達と同じくこの春から私の隊に入っていたのだが、少々特殊な任務を頼んでいたので、合流するのが遅れてしまったのだよ。……入りたまえ」
「失礼します」
部屋の奥から聞こえた声。それはーー。
「女……?」
ディアッカが思わず呟く。自分達とは明らかに違う、澄んだ高い声だったから。
部屋に入ってきた人物は、軽やかな足取りでクルーゼの横につくと、さっと手を額に当てて敬礼した。
「初めまして。サラ・グレンです。宜しくお願いいたします」
一瞬、部屋がざわめく。目の前で敬礼している人物が、紛れもなく自分たちと同じ年頃の少女だったから。
一つに束ねた緑の黒髪はとても美しく、眼鏡の奥に隠されたダークブラウンの瞳は印象的で。見た感じ、身長は150センチそこそこといったところだろうか。その小さな体に纏っているのが赤い軍服ではなく、白いドレスだったら……そう思わずにはいられないほどに華奢な印象を受けた。
だが、驚きはそれだけではない。
「あの……失礼ですが、グレンって」
ニコルが驚きを隠せない表情で尋ねる。
「はい。お察しの通り、私はジョージ・グレンの関係者です。ですが、だからといって私を特別扱いはなさらないで下さい。もちろん女だから、というのも。私はそのように気を遣っていただかなければならないほど無能ではありませんし、それを証明できるだけの実績も持っておりますので」
まるで用意されていたかのような答えを返すサラ。その表情は、氷のように冷たい。それはこれ以上話しかけることは許されないような気にさせられる程で。
そんなサラの態度にディアッカ、ニコル、ラスティはなんとも言えない表情を浮かべ、イザークは忌々しそうに小さく舌打ちをする。
アスランはと言うと、顔にこそ出さないものの、頭の中はパニック寸前だった。
ーー彼女は……サラ?
目の前にいる少女が、先日桜の木の下で出会った少女だったから。
ファミリーネームこそ違えど、名前は同じ。髪や瞳の色も同じだから、多分間違いないとは思う。
クルーゼがサラに自分達の事を順番に紹介しているのを見ながら、アスランは頭の中で先日の出来事を反芻していた。
ーー彼女がそのうち分かると言っていたのは、この事だったんだろうか?
サラがアスランの事を知っていたのは、同じくザフトの軍人だから。その上所属も同じとなると、少し早くメンバーの情報が入っていてもおかしくはない。
だがそれなら何故あの時に言ってくれなかったのだろう。しかも、今目の前にいるサラは、あの時とは別人のような雰囲気で。
彼女があの時のサラだと確信しているつもりなのに、目の前の人物の纏っている空気は、アスランの自信を揺らがせていた。
「彼が、アスラン・ザラだ」
「宜しく。ザラさん」
クルーゼによる紹介と同時に何の感慨もなく差し出されたサラの手に、意識を飛ばしていたアスランは慌てて自分の手を差し出す。その握手はほんの一瞬で、相手の温もりを感じる時間すら与えられる事はない。
「宜しく……」
アスランがそう言った時には既に、サラの手は下ろされていた。
ーー握手は、仲良くなるためのおまじない
不意にサラの言葉が思い出される。あの時の握手は、とても温かく力強い物だった。
だが、今のは……。
もうアスランの事など眼中にないかのように、隣にいるニコルと握手を交わしているサラを見て、アスランは思った。
ーーこれは、彼女の言うおまじないの中に入らないんだろうか?
何の感情も込められていない、単なる形式上の握手。いつ触れたのかも分からないほどに一瞬の接触。
仲良くなんて、なれるはずがない。
ーー彼女は本当に、サラ?
全員との挨拶を終えて、何事もなかったかのようにクルーゼの部屋を出ていくサラの後ろ姿を見ながら、アスランは一人その謎と対峙していた。
正式にクルーゼ隊に入隊し、簡単な任務をこなせるほどになっていたアスラン達は、ある朝クルーゼの部屋に呼び出された。集められたのは、この春から入隊を許された新人のみ。
「朝早くからすまないな」
クルーゼはいつものように仮面で顔を隠したまま言った。微かに上がった口角から、かろうじて笑っているのだと言うことが分かる。
「はっ!」
イザーク、ディアッカ、ニコル、ラスティ、そしてアスランが一斉に敬礼をする。軽く手を挙げてそれに答えたクルーゼは、机の上のボタンを押した。と同時に、隣の部屋へと繋がる扉が開く。
「早速だが紹介しておきたい人物がいてね。君達と同じくこの春から私の隊に入っていたのだが、少々特殊な任務を頼んでいたので、合流するのが遅れてしまったのだよ。……入りたまえ」
「失礼します」
部屋の奥から聞こえた声。それはーー。
「女……?」
ディアッカが思わず呟く。自分達とは明らかに違う、澄んだ高い声だったから。
部屋に入ってきた人物は、軽やかな足取りでクルーゼの横につくと、さっと手を額に当てて敬礼した。
「初めまして。サラ・グレンです。宜しくお願いいたします」
一瞬、部屋がざわめく。目の前で敬礼している人物が、紛れもなく自分たちと同じ年頃の少女だったから。
一つに束ねた緑の黒髪はとても美しく、眼鏡の奥に隠されたダークブラウンの瞳は印象的で。見た感じ、身長は150センチそこそこといったところだろうか。その小さな体に纏っているのが赤い軍服ではなく、白いドレスだったら……そう思わずにはいられないほどに華奢な印象を受けた。
だが、驚きはそれだけではない。
「あの……失礼ですが、グレンって」
ニコルが驚きを隠せない表情で尋ねる。
「はい。お察しの通り、私はジョージ・グレンの関係者です。ですが、だからといって私を特別扱いはなさらないで下さい。もちろん女だから、というのも。私はそのように気を遣っていただかなければならないほど無能ではありませんし、それを証明できるだけの実績も持っておりますので」
まるで用意されていたかのような答えを返すサラ。その表情は、氷のように冷たい。それはこれ以上話しかけることは許されないような気にさせられる程で。
そんなサラの態度にディアッカ、ニコル、ラスティはなんとも言えない表情を浮かべ、イザークは忌々しそうに小さく舌打ちをする。
アスランはと言うと、顔にこそ出さないものの、頭の中はパニック寸前だった。
ーー彼女は……サラ?
目の前にいる少女が、先日桜の木の下で出会った少女だったから。
ファミリーネームこそ違えど、名前は同じ。髪や瞳の色も同じだから、多分間違いないとは思う。
クルーゼがサラに自分達の事を順番に紹介しているのを見ながら、アスランは頭の中で先日の出来事を反芻していた。
ーー彼女がそのうち分かると言っていたのは、この事だったんだろうか?
サラがアスランの事を知っていたのは、同じくザフトの軍人だから。その上所属も同じとなると、少し早くメンバーの情報が入っていてもおかしくはない。
だがそれなら何故あの時に言ってくれなかったのだろう。しかも、今目の前にいるサラは、あの時とは別人のような雰囲気で。
彼女があの時のサラだと確信しているつもりなのに、目の前の人物の纏っている空気は、アスランの自信を揺らがせていた。
「彼が、アスラン・ザラだ」
「宜しく。ザラさん」
クルーゼによる紹介と同時に何の感慨もなく差し出されたサラの手に、意識を飛ばしていたアスランは慌てて自分の手を差し出す。その握手はほんの一瞬で、相手の温もりを感じる時間すら与えられる事はない。
「宜しく……」
アスランがそう言った時には既に、サラの手は下ろされていた。
ーー握手は、仲良くなるためのおまじない
不意にサラの言葉が思い出される。あの時の握手は、とても温かく力強い物だった。
だが、今のは……。
もうアスランの事など眼中にないかのように、隣にいるニコルと握手を交わしているサラを見て、アスランは思った。
ーーこれは、彼女の言うおまじないの中に入らないんだろうか?
何の感情も込められていない、単なる形式上の握手。いつ触れたのかも分からないほどに一瞬の接触。
仲良くなんて、なれるはずがない。
ーー彼女は本当に、サラ?
全員との挨拶を終えて、何事もなかったかのようにクルーゼの部屋を出ていくサラの後ろ姿を見ながら、アスランは一人その謎と対峙していた。