明日を見つめて(アスラン)
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車を走らせながら見る夕陽。アスランは助手席でぼんやりと赤く染まっている空を眺めていた。
風に靡くさらさらの髪。アスランのお母様は、この綺麗な髪の毛が凄く好きだった。
アスランが短く切ろうとするたびに、長い方が似合ってる! と力説していたのを覚えている。
口答えをしていた割には、お母様に弱いアスラン。いつも最後には自分から折れていた。多分アスランはマザコンなのだろう。見ていてとてもほほえましいその関係を、いつも私はからかっていたのだけれど。
――もう私はその姿を見ることもない。
「アスラン……」
無表情のまま、風を受けているアスランに私は声をかけた。
「何?」
そっけない返事。未だかつて、こんな返事が返ってきたことは無かった。いつだって私が声をかけると、必ず笑顔を見せてくれていたのに。
多分アスランは気付いていないだろう。
私はあの日以来、アスランに名前を呼ばれていなかった。
もう、こんなアスランを見ていることなんてできない。私は路肩に車を止めると、ぐいとアスランの胸ぐらを掴んだ。一瞬驚いた表情を見せたアスランだったが、すぐにその瞳は伏せられてしまう。
「アスラン……いつまでそんな状態でいるつもり?」
そんな彼を睨みながら、私は聞いた。しかし返事は無く、まるで人形のようにただされるがままだ。
それもこれもきっと――。
「ねぇ、アスラン」
胸ぐらから、頬へと手を移動する。しっかりとアスランの顔を固定すると、私は言った。
「あの日から、一度でも貴方は泣いた?」
一瞬、瞳が揺れた気がした。が、すぐに瞼は閉じられ、真実は隠されてしまう。とはいえ、その行為は答えに等しいものなのだけれど。
「泣いてしまいなよ、アスラン」
目を瞑ったままのアスランの額に、私の額をくっつける。
「人は泣かないと前に進めないこともあるんだよ。泣いて泣いて、思い切り泣いて……魂を浄化するの。涙は心を綺麗に洗ってくれる力があるって……ママも言ってたんだ……」
『涙には浄化作用があるのよ。』
昔母がよく言っていたその言葉は、私が越えられない壁にぶつかる度に助けてくれていた。思い出すだけでも涙が出そうになるその言葉を、今私はアスランに伝えようとしている。
――今度はアスランを助けてくれますように。
そんな願いを込めて。
「今なら私だけしかいないから。泣いたらいいよ、アスラン」
「俺は別に……」
「心の中で泣いても、心自身を洗うことは出来ないんだよ。ちゃんと涙を流さなきゃ」
「でも……俺は泣いちゃ駄目なんだ……」
「何故? 誰がそんな事言ったの?」
「俺が泣いたら父が……」
「お父様が何? 困るの? 迷惑するの?」
「俺はザラ家の人間だから……」
「縛られないで、アスラン!」
ああ、やっぱり。
アスランは縛られすぎている。ザラという名前に。悲しい現実に。
「泣きなさいよ、アスラン。今のままじゃ何も変わらない。前に進むためにも、貴方は泣かなきゃ駄目だよ」
「俺は……」
「どうしても、泣けない?」
額を離し、アスランの表情を伺う。未だ開かれない瞼と苦悶の表情が、アスランの心をありありと表していた。見ている私ですらこんなにも辛さを覚えるのだから、アスランはきっと――。
「じゃぁ……」
すうっと一筋の涙が伝う。
私の頬を。
「泣いてあげる」
「え……?」
「私がアスランの代わりに泣くわ」
私の物ではない涙が、止めどなく流れていく。一度作られた涙の筋は、次の涙をたぐり寄せた。
流れ続ける涙を、私は拭おうとはしない。アスランと同じように瞼を閉じて。ただ溢れ出る涙にその意思を任せ、ひたすら泣き続けていた。
風に靡くさらさらの髪。アスランのお母様は、この綺麗な髪の毛が凄く好きだった。
アスランが短く切ろうとするたびに、長い方が似合ってる! と力説していたのを覚えている。
口答えをしていた割には、お母様に弱いアスラン。いつも最後には自分から折れていた。多分アスランはマザコンなのだろう。見ていてとてもほほえましいその関係を、いつも私はからかっていたのだけれど。
――もう私はその姿を見ることもない。
「アスラン……」
無表情のまま、風を受けているアスランに私は声をかけた。
「何?」
そっけない返事。未だかつて、こんな返事が返ってきたことは無かった。いつだって私が声をかけると、必ず笑顔を見せてくれていたのに。
多分アスランは気付いていないだろう。
私はあの日以来、アスランに名前を呼ばれていなかった。
もう、こんなアスランを見ていることなんてできない。私は路肩に車を止めると、ぐいとアスランの胸ぐらを掴んだ。一瞬驚いた表情を見せたアスランだったが、すぐにその瞳は伏せられてしまう。
「アスラン……いつまでそんな状態でいるつもり?」
そんな彼を睨みながら、私は聞いた。しかし返事は無く、まるで人形のようにただされるがままだ。
それもこれもきっと――。
「ねぇ、アスラン」
胸ぐらから、頬へと手を移動する。しっかりとアスランの顔を固定すると、私は言った。
「あの日から、一度でも貴方は泣いた?」
一瞬、瞳が揺れた気がした。が、すぐに瞼は閉じられ、真実は隠されてしまう。とはいえ、その行為は答えに等しいものなのだけれど。
「泣いてしまいなよ、アスラン」
目を瞑ったままのアスランの額に、私の額をくっつける。
「人は泣かないと前に進めないこともあるんだよ。泣いて泣いて、思い切り泣いて……魂を浄化するの。涙は心を綺麗に洗ってくれる力があるって……ママも言ってたんだ……」
『涙には浄化作用があるのよ。』
昔母がよく言っていたその言葉は、私が越えられない壁にぶつかる度に助けてくれていた。思い出すだけでも涙が出そうになるその言葉を、今私はアスランに伝えようとしている。
――今度はアスランを助けてくれますように。
そんな願いを込めて。
「今なら私だけしかいないから。泣いたらいいよ、アスラン」
「俺は別に……」
「心の中で泣いても、心自身を洗うことは出来ないんだよ。ちゃんと涙を流さなきゃ」
「でも……俺は泣いちゃ駄目なんだ……」
「何故? 誰がそんな事言ったの?」
「俺が泣いたら父が……」
「お父様が何? 困るの? 迷惑するの?」
「俺はザラ家の人間だから……」
「縛られないで、アスラン!」
ああ、やっぱり。
アスランは縛られすぎている。ザラという名前に。悲しい現実に。
「泣きなさいよ、アスラン。今のままじゃ何も変わらない。前に進むためにも、貴方は泣かなきゃ駄目だよ」
「俺は……」
「どうしても、泣けない?」
額を離し、アスランの表情を伺う。未だ開かれない瞼と苦悶の表情が、アスランの心をありありと表していた。見ている私ですらこんなにも辛さを覚えるのだから、アスランはきっと――。
「じゃぁ……」
すうっと一筋の涙が伝う。
私の頬を。
「泣いてあげる」
「え……?」
「私がアスランの代わりに泣くわ」
私の物ではない涙が、止めどなく流れていく。一度作られた涙の筋は、次の涙をたぐり寄せた。
流れ続ける涙を、私は拭おうとはしない。アスランと同じように瞼を閉じて。ただ溢れ出る涙にその意思を任せ、ひたすら泣き続けていた。
