海に焦がれて(アスラン)
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「海が見たい」
久しぶりの休暇で帰ってきた俺を出迎えたサラの、最初の言葉がそれだった。
「また唐突だね。一体どうしたの?」
サラが突拍子の無いことを言うのはよくあることなので動じることはなかったが……海という単語を聞かされたのはあまりにも久しぶりだったので、不思議に思い尋ねた。
「ただ、何となく……見たくなったの。海が」
プラントにも一応海はある。
人工的に作られたその場所は、俺にとっては単なる水瓶のような物で。一度だけ見に行ったことはあるものの、昔の人がなぜこんな物に惹かれたり、郷愁を覚えたりするのかは全く分からなかった。
そんな場所に行くことを、サラは望んでいる。
「駄目?」
「……いや、良いよ。これから行ってみる?」
「うん」
俺は、サラの乗ってきた車の運転席に座った。
街外れの郊外に、海は存在している。近付くほどに聞こえてくる波の音と潮の香り。少しべったりとした空気が、肌にまとわりつくような感覚。
「海って……こんな場所なんだね」
「サラは初めて?」
「うん。写真では何度か見たことがあったんだけどね」
「そっか」
窓を全開にし、体を乗り出すようにして海を眺めているサラ。風になびく髪を片手で押さえながら、嬉しそうな顔をしているその姿に、俺は久しぶりに安らぎを感じていた。
それは、俺がとても好きな表情だったから。
「あのね、アスラン」
「ん? 何?」
「海ってね、生命の源なんだって」
「生命の?」
「人間も、動物も、植物も。皆海から生まれた物なんだって」
「そうなのか?」
「海って……凄いね。」
こちらを向いてにこりと笑う彼女はとても綺麗で。
だけどそれ以上に儚さを感じられて。俺は何も答えず、そっと彼女の肩を引き寄せた。
サラと出会ったのは、俺が風邪を引いて偶然駆け込んだ病院。廊下を歩いていたとき、突然の発作で倒れ込んでしまった彼女を介抱したのがきっかけだった。
コーディネーターの中にも、弱い体で生まれてくる者は存在する。それが彼女だった。
生まれたときから病院暮らしをしていた彼女は、外の世界に触れたことのない真っ白な人間だった。
1ヶ月前になんとか退院し、今では少しずつ外の世界に慣れてきているものの、多分まだ彼女は現実を知らない。
コーディネーターとナチュラルが戦っていることも。
俺が……戦場で人の命を奪っていることも。
俺も、敢えてそのことは口にしてはいなかった。
何となく見舞いを続けている内に、彼女が退院する頃には、お互いの両親が認める仲になっていた俺達。
でもきっと皆は気付いていないだろう。俺がまだ悩んでいることに。
サラを好きだという気持ちに偽りはない。彼女ほど大切な人はいないし、彼女ほど俺を癒してくれる人物も存在しない。
でも……だからこそ、俺は悩んでいる。
真っ白で純粋な彼女を、俺は汚してしまうのではないか、と。
血に染まった俺は、彼女を赤く染め上げてしまうには十分の存在。
「アスラン……どうしたの? 痛いよ?」
「え? あ……ごめんごめん」
無意識の内に、サラの肩に回していた手に力が入っていたらしい。痛みに耐えている彼女の顔を見て、慌てて手を放した。
「何考えてるの? アスラン」
「いや、大した事じゃないさ」
「お仕事のこと?」
「ん~、まぁそんなとこかな」
彼女は俺を疑うことを知らない。
知らないはずだ。きっと……。
「お休みの日でも考え込んじゃうくらい、お仕事大変なのね」
心配そうに俺を見るサラに、俺は罪の意識を感じながらも
「大丈夫だよ。せっかくだし、海の水に触ってみる?」
と話を変え、海岸沿いに車を止めた。
久しぶりの休暇で帰ってきた俺を出迎えたサラの、最初の言葉がそれだった。
「また唐突だね。一体どうしたの?」
サラが突拍子の無いことを言うのはよくあることなので動じることはなかったが……海という単語を聞かされたのはあまりにも久しぶりだったので、不思議に思い尋ねた。
「ただ、何となく……見たくなったの。海が」
プラントにも一応海はある。
人工的に作られたその場所は、俺にとっては単なる水瓶のような物で。一度だけ見に行ったことはあるものの、昔の人がなぜこんな物に惹かれたり、郷愁を覚えたりするのかは全く分からなかった。
そんな場所に行くことを、サラは望んでいる。
「駄目?」
「……いや、良いよ。これから行ってみる?」
「うん」
俺は、サラの乗ってきた車の運転席に座った。
街外れの郊外に、海は存在している。近付くほどに聞こえてくる波の音と潮の香り。少しべったりとした空気が、肌にまとわりつくような感覚。
「海って……こんな場所なんだね」
「サラは初めて?」
「うん。写真では何度か見たことがあったんだけどね」
「そっか」
窓を全開にし、体を乗り出すようにして海を眺めているサラ。風になびく髪を片手で押さえながら、嬉しそうな顔をしているその姿に、俺は久しぶりに安らぎを感じていた。
それは、俺がとても好きな表情だったから。
「あのね、アスラン」
「ん? 何?」
「海ってね、生命の源なんだって」
「生命の?」
「人間も、動物も、植物も。皆海から生まれた物なんだって」
「そうなのか?」
「海って……凄いね。」
こちらを向いてにこりと笑う彼女はとても綺麗で。
だけどそれ以上に儚さを感じられて。俺は何も答えず、そっと彼女の肩を引き寄せた。
サラと出会ったのは、俺が風邪を引いて偶然駆け込んだ病院。廊下を歩いていたとき、突然の発作で倒れ込んでしまった彼女を介抱したのがきっかけだった。
コーディネーターの中にも、弱い体で生まれてくる者は存在する。それが彼女だった。
生まれたときから病院暮らしをしていた彼女は、外の世界に触れたことのない真っ白な人間だった。
1ヶ月前になんとか退院し、今では少しずつ外の世界に慣れてきているものの、多分まだ彼女は現実を知らない。
コーディネーターとナチュラルが戦っていることも。
俺が……戦場で人の命を奪っていることも。
俺も、敢えてそのことは口にしてはいなかった。
何となく見舞いを続けている内に、彼女が退院する頃には、お互いの両親が認める仲になっていた俺達。
でもきっと皆は気付いていないだろう。俺がまだ悩んでいることに。
サラを好きだという気持ちに偽りはない。彼女ほど大切な人はいないし、彼女ほど俺を癒してくれる人物も存在しない。
でも……だからこそ、俺は悩んでいる。
真っ白で純粋な彼女を、俺は汚してしまうのではないか、と。
血に染まった俺は、彼女を赤く染め上げてしまうには十分の存在。
「アスラン……どうしたの? 痛いよ?」
「え? あ……ごめんごめん」
無意識の内に、サラの肩に回していた手に力が入っていたらしい。痛みに耐えている彼女の顔を見て、慌てて手を放した。
「何考えてるの? アスラン」
「いや、大した事じゃないさ」
「お仕事のこと?」
「ん~、まぁそんなとこかな」
彼女は俺を疑うことを知らない。
知らないはずだ。きっと……。
「お休みの日でも考え込んじゃうくらい、お仕事大変なのね」
心配そうに俺を見るサラに、俺は罪の意識を感じながらも
「大丈夫だよ。せっかくだし、海の水に触ってみる?」
と話を変え、海岸沿いに車を止めた。
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