合わせ鏡(イザーク)
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0200時。俺達は軍用のジープで既に出発していた。
15分前には到着していた俺よりも更に早くから、フユツキは待機していた。その時初めてこの女が、本当に赤を着ていると言うことを認識する。
なんというか……着慣れているのが分かるのだ。俺達よりもよっぽどしっくりと着こなしているその赤に、なんとなく嫉妬を覚えつつもジープに乗り込んだ。
ジープの後ろには、既に積み込まれていた荷物達。シートが被せられていたためにそれらが何なのかは分からなかったが、どうせ重火器類だろう。
「目的地には1時間ほどで着く。覚悟は出来ているな?」
「覚悟も何も、任務である以上俺は全力を尽くす。それだけだ」
「そうか……既に言ってある通り、この任務は前線よりは安全な仕事だ。失敗しても肉体が死ぬことはありえない」
「お前の言ってること、俺には理解できんな。何でわざわざそんな事を言う? 重要な任務に『安全』などという言葉を気安く使うな!」
俺は、運転しているフユツキの横顔を睨みながら言った。
先輩だろうと何だろうと、戦争中に気を緩めている人間と行動することなど出来ない。それはともすれば、全滅を意味することになるから。
「別に気安く使っているわけじゃないさ。事実なんだよ、これは」
「だが……」
「イザーク」
ゾクリ。
只名前を呼ばれただけなのに。背筋を冷たい物が走り、自分の意志とは関係なく体が硬直するのが分かった。
言いようのない不快感と恐怖感に襲われる。かつてこんな経験をしたことがあっただろうか?
何度も死線をくぐり抜けてきたはずの俺が、フユツキのたった一言。それも名前を呼ばれただけで萎縮してしまうとは……。
「お前が納得できないのは仕方のないことだ。だが私は事実を述べているまでのこと」
「……は……っ」
冷や汗が頬を伝う。
別に殺気を感じているというわけでもない。普通に話しかけられているだけのはずなのに、決して抗うことの出来ない何か。
「……イザーク、お前に聞きたいことがある」
隣で硬直している俺をちらりと横目で見たフユツキが、小さく口の端を上げているのが分かった。俺など所詮小物に過ぎないのだと、見下してでもいるのか。俺は自分のプライドをかけて、こわばった体を必死に動かして答えた。
「何だ?」
「お前にとって、敵とは何だ?」
「……はぁ?」
どんな質問を浴びせられるかと思えば……全く予想していなかった問いかけに、俺は面食らってしまった。
俺にとっての敵? そんなの決まってるじゃないか。
「俺の敵はナチュラルだ。能力の秀でた俺達コーディネーターを迫害し、ユニウスセブンを破壊したナチュラルどもに決まっている」
「そうか……では、ナチュラルの全てが敵なのか?」
「全て……?」
「そうだ。それともう一つ。君にとってコーディネーターは味方なのか?」
「共に戦っている以上、味方だろう」
「では、全てのコーディネーターが味方なのか?」
「それは……」
『全て』
この言葉が重くのしかかった。
確かにナチュラルは俺達の敵だ。だからこそ今こうして戦争をしている。
俺はコーディネーターであり、ザフトの軍人。それが現実である以上、敵と味方ははっきりとしているはずだ。それなのに、どうしても俺は答えられなかった。
『全て』のナチュラルが敵であり、
『全て』のコーディネーターが味方である、と。
俺には言い切れるだけの自信がなかった。
「迷いがあるな」
不意にかけられた声が優しくて、はっとする。横を見ると、そこには初めて見る顔があった。
「べ、別に迷いなど……」
「あぁ、責めてるんじゃないよ。むしろその逆だな」
「はぁ?」
「気に入った。お前は良い軍人だよ」
少しずつ慣れては来ているものの、脈絡があるんだかないんだか判断の付きかねるフユツキの言動には、翻弄されるばかりだ。ここまで来ると、さすがにもう怒る気にもなれない。
「そいつはどうも。だが貴様に気に入られても何の特にもならないな」
「サラ、だ」
「はぁ?」
「私のことはサラと呼んでくれ。ファミリーネームを呼ばれるのはあまり好きじゃないんだ。あと、貴様って呼ばれ方も、な」
「それは別に構わないが」
「私も『お前』ではなくきちんと『イザーク』と呼ぶよ。対等でいれば文句あるまい?」
「……好きにしたらいいだろう」
「好きにするさ」
フユツキは……サラはまるでいたずらっ子のような表情で笑うと、
「そんじゃま、親交も深めたことだし、いっちょ行きますか!」
とアクセルを踏み込んだ。あまりに荒い運転に、
「おい! こんな運転じゃ、目的地に着く前に事故を起こすぞ!」
と叫ぶ俺の言葉もお構いなし。
サラは笑いながら、猛スピードで車を走らせた。
予定時刻より15分も速く目的地に着くほどに。
15分前には到着していた俺よりも更に早くから、フユツキは待機していた。その時初めてこの女が、本当に赤を着ていると言うことを認識する。
なんというか……着慣れているのが分かるのだ。俺達よりもよっぽどしっくりと着こなしているその赤に、なんとなく嫉妬を覚えつつもジープに乗り込んだ。
ジープの後ろには、既に積み込まれていた荷物達。シートが被せられていたためにそれらが何なのかは分からなかったが、どうせ重火器類だろう。
「目的地には1時間ほどで着く。覚悟は出来ているな?」
「覚悟も何も、任務である以上俺は全力を尽くす。それだけだ」
「そうか……既に言ってある通り、この任務は前線よりは安全な仕事だ。失敗しても肉体が死ぬことはありえない」
「お前の言ってること、俺には理解できんな。何でわざわざそんな事を言う? 重要な任務に『安全』などという言葉を気安く使うな!」
俺は、運転しているフユツキの横顔を睨みながら言った。
先輩だろうと何だろうと、戦争中に気を緩めている人間と行動することなど出来ない。それはともすれば、全滅を意味することになるから。
「別に気安く使っているわけじゃないさ。事実なんだよ、これは」
「だが……」
「イザーク」
ゾクリ。
只名前を呼ばれただけなのに。背筋を冷たい物が走り、自分の意志とは関係なく体が硬直するのが分かった。
言いようのない不快感と恐怖感に襲われる。かつてこんな経験をしたことがあっただろうか?
何度も死線をくぐり抜けてきたはずの俺が、フユツキのたった一言。それも名前を呼ばれただけで萎縮してしまうとは……。
「お前が納得できないのは仕方のないことだ。だが私は事実を述べているまでのこと」
「……は……っ」
冷や汗が頬を伝う。
別に殺気を感じているというわけでもない。普通に話しかけられているだけのはずなのに、決して抗うことの出来ない何か。
「……イザーク、お前に聞きたいことがある」
隣で硬直している俺をちらりと横目で見たフユツキが、小さく口の端を上げているのが分かった。俺など所詮小物に過ぎないのだと、見下してでもいるのか。俺は自分のプライドをかけて、こわばった体を必死に動かして答えた。
「何だ?」
「お前にとって、敵とは何だ?」
「……はぁ?」
どんな質問を浴びせられるかと思えば……全く予想していなかった問いかけに、俺は面食らってしまった。
俺にとっての敵? そんなの決まってるじゃないか。
「俺の敵はナチュラルだ。能力の秀でた俺達コーディネーターを迫害し、ユニウスセブンを破壊したナチュラルどもに決まっている」
「そうか……では、ナチュラルの全てが敵なのか?」
「全て……?」
「そうだ。それともう一つ。君にとってコーディネーターは味方なのか?」
「共に戦っている以上、味方だろう」
「では、全てのコーディネーターが味方なのか?」
「それは……」
『全て』
この言葉が重くのしかかった。
確かにナチュラルは俺達の敵だ。だからこそ今こうして戦争をしている。
俺はコーディネーターであり、ザフトの軍人。それが現実である以上、敵と味方ははっきりとしているはずだ。それなのに、どうしても俺は答えられなかった。
『全て』のナチュラルが敵であり、
『全て』のコーディネーターが味方である、と。
俺には言い切れるだけの自信がなかった。
「迷いがあるな」
不意にかけられた声が優しくて、はっとする。横を見ると、そこには初めて見る顔があった。
「べ、別に迷いなど……」
「あぁ、責めてるんじゃないよ。むしろその逆だな」
「はぁ?」
「気に入った。お前は良い軍人だよ」
少しずつ慣れては来ているものの、脈絡があるんだかないんだか判断の付きかねるフユツキの言動には、翻弄されるばかりだ。ここまで来ると、さすがにもう怒る気にもなれない。
「そいつはどうも。だが貴様に気に入られても何の特にもならないな」
「サラ、だ」
「はぁ?」
「私のことはサラと呼んでくれ。ファミリーネームを呼ばれるのはあまり好きじゃないんだ。あと、貴様って呼ばれ方も、な」
「それは別に構わないが」
「私も『お前』ではなくきちんと『イザーク』と呼ぶよ。対等でいれば文句あるまい?」
「……好きにしたらいいだろう」
「好きにするさ」
フユツキは……サラはまるでいたずらっ子のような表情で笑うと、
「そんじゃま、親交も深めたことだし、いっちょ行きますか!」
とアクセルを踏み込んだ。あまりに荒い運転に、
「おい! こんな運転じゃ、目的地に着く前に事故を起こすぞ!」
と叫ぶ俺の言葉もお構いなし。
サラは笑いながら、猛スピードで車を走らせた。
予定時刻より15分も速く目的地に着くほどに。
