合わせ鏡(イザーク)
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眠れない夜。
うつらうつらしてはいるものの、どうしても眠りに就くことが出来なかった俺は、何とはなしにデュエルの所へと向かっていた。
特に意味はない。ただなんとなく、デュエルが見たかった。いつも戦いの時に自分を守ってくれる相棒を。
真夜中と言うこともあり、デッキにはほとんど人がいなかった。非常灯でぼんやりと照らし出されたデュエルに近付き、上を見る。黒い影が鮮明に見えるほどに深い傷が生々しかったが、自分の顔に付けられた傷同様、あいつを倒すまではこれらの傷を消す気はない。
丁度視線の先にあったデュエルの傷を撫でると俺は、そっと寄りかかりながら腰を下ろした。
「やっぱり落ち着くな……」
ひんやりと冷たい感触が心地良い。無機質な物のはずなのに、何故かそれに身を預けることで心安らぐ自分がいるのが不思議だった。
まぁ何でも良い。いつ起こるやもしれない戦闘に支障がでないよう、体を休めることの出来る場所さえあれば。
全身を預けた形でぼんやりしていると、いつのまにかうつらうつらとし始める。これだけ睡魔が襲ってくれば、もう眠れるだろう……と思った矢先。
カタカタカタカタ……。
デュエルを通して、小さな音が聞こえた。
「……何だ?」
その音に、やっと訪れていた睡魔も逃げ出してしまう。はっきりと覚醒した意識を周囲に向けながら、そっとデュエルに耳を付けると……。
カタカタカタカタ……。
確かにおかしな音がする。これは……キーボードの音?
今夜はこの時間にデュエルの整備をするとは聞いていない。となると、一体誰が……?
俺は慌ててデュエルのコックピットが見える距離まで移動した。
「誰だ!? そこにいるのは!!」
コックピットに向かって叫ぶ。さすがに非常灯だけでは暗闇に近い状態ではあるが、目を凝らしてよく見ると明らかに誰かがそこにいた。
「貴様ぁっ! 誰の許しを得てデュエルに乗っている! 降りてこい!!」
再び叫んでみるが、返答はない。俺はすぐにクレーンを操作して、コックピットを目指した。
「貴様、何者だ!? どこの隊の所属か認識コードを言え!」
俺の姿を目にしても何の興味もないかのように、相変わらずキーボードを打ち続けている人間は、つなぎを着て目深に帽子を被っている。怒鳴りつけても何の反応も示さずにいる奴に、俺は業を煮やして掴みかかった。
「おい、何をして……っ!?」
ところが。掴みかかったと同時に俺の目の前の世界は横転していた。
一瞬のことで訳が分からず、目をぱちくりさせてしまう。
しかし俺も伊達に赤は着ていない。不覚にも投げ飛ばされはしたものの、着地と同時にホルスターに手をかけた。
「遅い」
「なんだと……っ!?」
俺が銃を握ったときには、既に奴は俺に銃を突きつけていた。
――速い。
「私が本気だったら、お前はもうこの世にはいなかったぞ。イザーク=ジュール」
「……っ!!」
「ガンダムに乗ればそれなりの働きを見せられるようだが、対人戦はまだ未熟なようだね。でも気配を消してここにいた私を見つけられたのは流石かな」
ハスキーボイスで俺に偉そうな口をきいてくる。殺気はないものの、不思議な威圧感を感じさせるそいつは、銃を仕舞いながらゆっくりと立ち上がった。
俺より頭半分ほど背が高い。だから、見えてしまった。そいつが……
「女……?」
「ああそうだ。女で悪いか?」
ふん、と鼻を鳴らすと、奴は帽子を取った。
同時に長い黒髪がファサリと空を舞う。
「私はサラ=フユツキ。これでも一応お前よりも以前から赤を着ている。ま、この格好じゃ信じては貰えないだろうがね」
奴は……フユツキと名乗ったこの女は、にやりと笑いながらそう言った。
俺より前に赤を着ているだと……? しかも女?
「そんな話は聞いたことがないな。女で赤を着ているなんて」
「同じ服を着ていても、所属する隊が違えば顔を合わせる機会は無きに等しい。それだけのことさ」
フユツキは、別におかしなことじゃないさと言いながら、再びキーボードを叩きだした。無機質な音が小さく響く。
「ならば何故俺達はこんな所で顔を合わせた!? 俺達の隊に関係ないのなら、俺の機体に触るな!!」
「まぁまぁそう怒るなよ。それよりこのデュエル、かなりガタが来てるぞ。お前の能力が秀でていたから今まではなんとかなっていたが、これ以上無茶をさせると戦闘中に分解してしまうことにもなりかねん」
「な……!?」
フユツキは、そう言いながらも手を休めることはない。付属している小さなモニターには、俺には全く理解できないグラフや数値が高速で流れていた。
「私は趣味で機械の方も触っているんだ。そこらへんの整備士よりは腕は確かだよ」
俺ににやりとした笑顔を向けると、フユツキはパシリとエンターキーを押し、大きく息を吐いた。
「やーれやれ。解析終わり! ったく、本来ならこれくらいのこと、整備士が出来て当たり前なんだぞ。もっと知識向上に励むよう言っておいてもらわないとな」
ぶつぶつと文句を言いながらも、楽しそうにキーボードやモニターをしまっているその姿に、俺は戸惑いを隠せなかった。
一体何なんだ? この女は。いくら考えてみても、赤を着た女の話など聞いたことはない。
ましてや、見た目からすると俺とほとんど年は離れていないように思える。
そんな俺の疑問は、口にしなくても伝わってしまったらしい。
「私はお前らのように表舞台には立たないからな。赤を着てはいるものの、日の目を見てはいけない存在だ。お前も私のことは忘れろよ」
「ならば、何故俺に姿を見せた? 名前まで名乗って、見ただけでは分からない赤を着る人間だと言うことまで教えて。本当に知られてはいけないのなら、俺に見つかった時点で俺を殺せば良かったじゃないか!」
気にくわない。
何故かは分からないが、妙にこの女が気にくわなかった。俺より早くから赤を着てるからだとか、女だとか、そういう事ではなくもっと深いところで。
……いらいらする。そのせいか、自然に俺の口調もきつくなる。しかし――。
「そう……かもしれないな」
フユツキがぽつりと呟いた。
先ほどまでとは違うこの弱々しい声を聞かなければ、俺はずっとこの女を嫌いでいられたかもしれない。だが……その声は俺の耳に届いてしまった。
「不必要な物は排除。邪魔な物は削除。そんな風に短絡的に考えられれば、私だって……」
声が震えているように思えた。
その時見た中で最も強く印象に残っているのは、言葉とは裏腹に表情のない能面のような顔ではなく、真っ白になるほど強く握りしめられた拳。
「フユツキ……?」
変な罪の意識を覚え、思わず名前を呼ぶ。しかしフユツキは能面のような顔のまま、
「データは取れた。明日は朝から整備士達に調整を行わせるといい。できれば君が陣頭指揮を取った方が良いかもしれないな。データはこの後すぐに整備班の方に渡しておくよ」
と俺に告げると、そのままゴンドラに乗り込み下へと降りていった。
「何なんだ? 一体……」
存在、行動、言動。全てが気にくわない。
何だかんだで小馬鹿にされたような気がして、フユツキの姿が見えなくなってもイライラは収まらなかった。
俺に偉そうな口を利くあの女のことを、部屋に戻っても、次の日目が覚めてもその存在を忘れることは出来ず。自分でも不思議なくらい、自分の中からあの女の存在を排除することが出来なかった。
うつらうつらしてはいるものの、どうしても眠りに就くことが出来なかった俺は、何とはなしにデュエルの所へと向かっていた。
特に意味はない。ただなんとなく、デュエルが見たかった。いつも戦いの時に自分を守ってくれる相棒を。
真夜中と言うこともあり、デッキにはほとんど人がいなかった。非常灯でぼんやりと照らし出されたデュエルに近付き、上を見る。黒い影が鮮明に見えるほどに深い傷が生々しかったが、自分の顔に付けられた傷同様、あいつを倒すまではこれらの傷を消す気はない。
丁度視線の先にあったデュエルの傷を撫でると俺は、そっと寄りかかりながら腰を下ろした。
「やっぱり落ち着くな……」
ひんやりと冷たい感触が心地良い。無機質な物のはずなのに、何故かそれに身を預けることで心安らぐ自分がいるのが不思議だった。
まぁ何でも良い。いつ起こるやもしれない戦闘に支障がでないよう、体を休めることの出来る場所さえあれば。
全身を預けた形でぼんやりしていると、いつのまにかうつらうつらとし始める。これだけ睡魔が襲ってくれば、もう眠れるだろう……と思った矢先。
カタカタカタカタ……。
デュエルを通して、小さな音が聞こえた。
「……何だ?」
その音に、やっと訪れていた睡魔も逃げ出してしまう。はっきりと覚醒した意識を周囲に向けながら、そっとデュエルに耳を付けると……。
カタカタカタカタ……。
確かにおかしな音がする。これは……キーボードの音?
今夜はこの時間にデュエルの整備をするとは聞いていない。となると、一体誰が……?
俺は慌ててデュエルのコックピットが見える距離まで移動した。
「誰だ!? そこにいるのは!!」
コックピットに向かって叫ぶ。さすがに非常灯だけでは暗闇に近い状態ではあるが、目を凝らしてよく見ると明らかに誰かがそこにいた。
「貴様ぁっ! 誰の許しを得てデュエルに乗っている! 降りてこい!!」
再び叫んでみるが、返答はない。俺はすぐにクレーンを操作して、コックピットを目指した。
「貴様、何者だ!? どこの隊の所属か認識コードを言え!」
俺の姿を目にしても何の興味もないかのように、相変わらずキーボードを打ち続けている人間は、つなぎを着て目深に帽子を被っている。怒鳴りつけても何の反応も示さずにいる奴に、俺は業を煮やして掴みかかった。
「おい、何をして……っ!?」
ところが。掴みかかったと同時に俺の目の前の世界は横転していた。
一瞬のことで訳が分からず、目をぱちくりさせてしまう。
しかし俺も伊達に赤は着ていない。不覚にも投げ飛ばされはしたものの、着地と同時にホルスターに手をかけた。
「遅い」
「なんだと……っ!?」
俺が銃を握ったときには、既に奴は俺に銃を突きつけていた。
――速い。
「私が本気だったら、お前はもうこの世にはいなかったぞ。イザーク=ジュール」
「……っ!!」
「ガンダムに乗ればそれなりの働きを見せられるようだが、対人戦はまだ未熟なようだね。でも気配を消してここにいた私を見つけられたのは流石かな」
ハスキーボイスで俺に偉そうな口をきいてくる。殺気はないものの、不思議な威圧感を感じさせるそいつは、銃を仕舞いながらゆっくりと立ち上がった。
俺より頭半分ほど背が高い。だから、見えてしまった。そいつが……
「女……?」
「ああそうだ。女で悪いか?」
ふん、と鼻を鳴らすと、奴は帽子を取った。
同時に長い黒髪がファサリと空を舞う。
「私はサラ=フユツキ。これでも一応お前よりも以前から赤を着ている。ま、この格好じゃ信じては貰えないだろうがね」
奴は……フユツキと名乗ったこの女は、にやりと笑いながらそう言った。
俺より前に赤を着ているだと……? しかも女?
「そんな話は聞いたことがないな。女で赤を着ているなんて」
「同じ服を着ていても、所属する隊が違えば顔を合わせる機会は無きに等しい。それだけのことさ」
フユツキは、別におかしなことじゃないさと言いながら、再びキーボードを叩きだした。無機質な音が小さく響く。
「ならば何故俺達はこんな所で顔を合わせた!? 俺達の隊に関係ないのなら、俺の機体に触るな!!」
「まぁまぁそう怒るなよ。それよりこのデュエル、かなりガタが来てるぞ。お前の能力が秀でていたから今まではなんとかなっていたが、これ以上無茶をさせると戦闘中に分解してしまうことにもなりかねん」
「な……!?」
フユツキは、そう言いながらも手を休めることはない。付属している小さなモニターには、俺には全く理解できないグラフや数値が高速で流れていた。
「私は趣味で機械の方も触っているんだ。そこらへんの整備士よりは腕は確かだよ」
俺ににやりとした笑顔を向けると、フユツキはパシリとエンターキーを押し、大きく息を吐いた。
「やーれやれ。解析終わり! ったく、本来ならこれくらいのこと、整備士が出来て当たり前なんだぞ。もっと知識向上に励むよう言っておいてもらわないとな」
ぶつぶつと文句を言いながらも、楽しそうにキーボードやモニターをしまっているその姿に、俺は戸惑いを隠せなかった。
一体何なんだ? この女は。いくら考えてみても、赤を着た女の話など聞いたことはない。
ましてや、見た目からすると俺とほとんど年は離れていないように思える。
そんな俺の疑問は、口にしなくても伝わってしまったらしい。
「私はお前らのように表舞台には立たないからな。赤を着てはいるものの、日の目を見てはいけない存在だ。お前も私のことは忘れろよ」
「ならば、何故俺に姿を見せた? 名前まで名乗って、見ただけでは分からない赤を着る人間だと言うことまで教えて。本当に知られてはいけないのなら、俺に見つかった時点で俺を殺せば良かったじゃないか!」
気にくわない。
何故かは分からないが、妙にこの女が気にくわなかった。俺より早くから赤を着てるからだとか、女だとか、そういう事ではなくもっと深いところで。
……いらいらする。そのせいか、自然に俺の口調もきつくなる。しかし――。
「そう……かもしれないな」
フユツキがぽつりと呟いた。
先ほどまでとは違うこの弱々しい声を聞かなければ、俺はずっとこの女を嫌いでいられたかもしれない。だが……その声は俺の耳に届いてしまった。
「不必要な物は排除。邪魔な物は削除。そんな風に短絡的に考えられれば、私だって……」
声が震えているように思えた。
その時見た中で最も強く印象に残っているのは、言葉とは裏腹に表情のない能面のような顔ではなく、真っ白になるほど強く握りしめられた拳。
「フユツキ……?」
変な罪の意識を覚え、思わず名前を呼ぶ。しかしフユツキは能面のような顔のまま、
「データは取れた。明日は朝から整備士達に調整を行わせるといい。できれば君が陣頭指揮を取った方が良いかもしれないな。データはこの後すぐに整備班の方に渡しておくよ」
と俺に告げると、そのままゴンドラに乗り込み下へと降りていった。
「何なんだ? 一体……」
存在、行動、言動。全てが気にくわない。
何だかんだで小馬鹿にされたような気がして、フユツキの姿が見えなくなってもイライラは収まらなかった。
俺に偉そうな口を利くあの女のことを、部屋に戻っても、次の日目が覚めてもその存在を忘れることは出来ず。自分でも不思議なくらい、自分の中からあの女の存在を排除することが出来なかった。
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