桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
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「最後の最後でやっと、父親らしいことをしてくれたわ。今頃はきっと、お母さんと幸せにやってるんだろうな」
にこりとするサラの顔に、悲壮感は無い。
笑顔のままゆっくりと上を見上げれば、相変わらずはらはらと舞い落ちてくる桜の花びら。その中の1枚を手のひらで受け、優しく包み込む。
「あのね、アスラン」
花びらを握った手にそっと口付けながら、サラは言った。
「桜が何で薄紅色なのか、知ってる?」
「それは……」
唐突な質問に戸惑うアスラン。
だが、彼は知っているから。ためらいはあったが、アスランは答えを口にする。
「桜の木の根元には、死体が埋まってて、その血で紅く染まっている……だろう?」
そんな話はもちろん迷信で、現実の話ではない事だと言うことくらい分かっている。だが戦争によって流された多くの血を、桜が吸っていないとは言い切れないから。
「だから桜の色は薄紅色……いや、血の色なんだ」
アスランの中にあった答えはそれだけだった。ところがーー。
「あ、それ間違い」
一瞬にしてその答えは否定される。
「え?」
「それはただの迷信だよ。本当の理由は別にあるの」
「別?」
別の答えなど考えもしていなかったため、サラの言う『理由』とやらが全く分からない。
アスランは、サラの答えを待つしかなかった。
「あのね、桜の花は元々真っ白なの。でも、綺麗だからと人間達が見つめるから恥ずかしくて、頬を赤らめるように花びらを紅く染めてるんだよ」
「それは初耳だな」
それはとても女の子らしい発想。
しかしこの場合、そちらの話も迷信じゃないのか?
そんな疑いの眼差しを向けると、サラが口を尖らせる。
「嘘じゃないのよ。本当なの! ほら……」
サラは、握っていた花びらをアスランの目の前に差し出した。見ると、花びらはとても綺麗な白。しみ一つない真っ白な花びらが、サラの手のひらの上でそよ風と戯れている。
「その証拠に、白いでしょ?」
そう言うとサラは、今度は自分たちが座っている向かい側の木を指さした。
「あの木。全てが白い花びらなの」
「本当だ。でもそれは単なる桜の種類で……」
「ううん、違う!」
力強い否定が、アスランの言葉を遮る。少し興奮気味に語り出すサラの瞳は真剣だった。
「あの桜はね、昔は他と同じ薄紅色だった。白くなったのは、今から20年ほど前なの」
「20年前って……何でそんな事を知ってるんだ?」
「聞いたからよ。お母さんも桜が好きでね、よくここに来てたんだって」
こつん、とサラの頭がアスランの胸にぶつかる。
「そしてあの白い桜の木は、お父さんがお母さんに告白した木なの」
アスランは、何も言わずそっとサラの体を抱きしめた。
サラの声に小さな悲しみを感じたから。
そのままの体勢で、サラの言葉は続けられる。
「桜が薄紅色の理由を、お母さんはその時にお父さんから教えて貰ったんだって」
『そんなに桜ばかり見てるなよ、シルフィア』
『だって綺麗なんだもの。見惚れちゃう』
『桜も恥ずかしがって紅くなってるじゃないか』
『ぷっ……なぁに? それ。面白いお話ね』
『事実だよ。桜は見られることで恥ずかしがって紅くなるんだ。この桜は、シルフィアに見られて恥ずかしがってるんだよ』
『ケイジって、結構ロマンチストなのね』
『そうでもないさ。でも……』
『でも?』
『シルフィアの目を奪う桜には、ちょっと妬いてるな』
『な……っ、何言ってるのよ! そんな恥ずかしい台詞……』
『恥ずかしくなんてないさ。俺の本心だからな』
『ケイジ……』
『来年の春、この桜はきっと真っ白になってるはずだ』
『真っ白に? 何故?』
『結婚しよう、シルフィア』
『……っ!』
『もうこの桜も、紅く染まる事はないだろう。これからは、俺だけを見ていろよ、シルフィア』
『……はい』
「結婚したその翌年の春からは、あの桜はずっと白いままなんですって」
「そうか……」
「ね? 私の言ったこと、嘘じゃないでしょ?ちゃ~んと証拠があるのよ」
アスランの胸に額をくっつけたまま言うサラの胸中には、両親との思い出が走馬燈のように浮かんでは消えていく。何故か幸せな思い出ばかりが浮かんできて、思わず涙がこみあげてきた。
アスランに悟られないようにと、下を向いたままわざと明るい声で話していたのだがーー。ぽん、と頭に乗せられたアスランの手が、全て分かっているよと心に伝えてきた。
「そうだな。じゃぁもう一つ証拠を作っておこうか」
「え?」
アスランの手が、サラの頭をそっと撫でる。
「あの木がサラのご両親の思い出の木なら……俺達が今いるこの木を、俺達の思い出の木にしよう。きっと来年の春は、この木も白くなっているはずだよ」
「ア、アスラン?」
驚いて思わず体を起こしたサラの瞳には、涙。少しだけぼやけた視界の中には、優しく微笑むアスランの姿がある。
「ずっと一緒にいよう。誰よりも近くで、誰よりも深い絆で結ばれた二人になろう」
「アスラン……」
あまりの嬉しさに、言葉が出てこない。
そんなサラに、アスランは再び口付けた。想いの全てを込めて。
それは、誓いのキスーー。
「もう二度と、サラを放さない。……離れない」
「……うん……」
風が吹く。
偶然にも両親の思い出の木の方向から吹いてきた風は、白い花びらを二人のいる場所に振らせた。
それはまるで、両親からの祝福の言葉のようでーー。
「やっと……」
ーー皆、幸せになれるんだね。
アスランとサラの幸せそうな笑顔は、薄紅色に染まっていたのだった。
happy end
にこりとするサラの顔に、悲壮感は無い。
笑顔のままゆっくりと上を見上げれば、相変わらずはらはらと舞い落ちてくる桜の花びら。その中の1枚を手のひらで受け、優しく包み込む。
「あのね、アスラン」
花びらを握った手にそっと口付けながら、サラは言った。
「桜が何で薄紅色なのか、知ってる?」
「それは……」
唐突な質問に戸惑うアスラン。
だが、彼は知っているから。ためらいはあったが、アスランは答えを口にする。
「桜の木の根元には、死体が埋まってて、その血で紅く染まっている……だろう?」
そんな話はもちろん迷信で、現実の話ではない事だと言うことくらい分かっている。だが戦争によって流された多くの血を、桜が吸っていないとは言い切れないから。
「だから桜の色は薄紅色……いや、血の色なんだ」
アスランの中にあった答えはそれだけだった。ところがーー。
「あ、それ間違い」
一瞬にしてその答えは否定される。
「え?」
「それはただの迷信だよ。本当の理由は別にあるの」
「別?」
別の答えなど考えもしていなかったため、サラの言う『理由』とやらが全く分からない。
アスランは、サラの答えを待つしかなかった。
「あのね、桜の花は元々真っ白なの。でも、綺麗だからと人間達が見つめるから恥ずかしくて、頬を赤らめるように花びらを紅く染めてるんだよ」
「それは初耳だな」
それはとても女の子らしい発想。
しかしこの場合、そちらの話も迷信じゃないのか?
そんな疑いの眼差しを向けると、サラが口を尖らせる。
「嘘じゃないのよ。本当なの! ほら……」
サラは、握っていた花びらをアスランの目の前に差し出した。見ると、花びらはとても綺麗な白。しみ一つない真っ白な花びらが、サラの手のひらの上でそよ風と戯れている。
「その証拠に、白いでしょ?」
そう言うとサラは、今度は自分たちが座っている向かい側の木を指さした。
「あの木。全てが白い花びらなの」
「本当だ。でもそれは単なる桜の種類で……」
「ううん、違う!」
力強い否定が、アスランの言葉を遮る。少し興奮気味に語り出すサラの瞳は真剣だった。
「あの桜はね、昔は他と同じ薄紅色だった。白くなったのは、今から20年ほど前なの」
「20年前って……何でそんな事を知ってるんだ?」
「聞いたからよ。お母さんも桜が好きでね、よくここに来てたんだって」
こつん、とサラの頭がアスランの胸にぶつかる。
「そしてあの白い桜の木は、お父さんがお母さんに告白した木なの」
アスランは、何も言わずそっとサラの体を抱きしめた。
サラの声に小さな悲しみを感じたから。
そのままの体勢で、サラの言葉は続けられる。
「桜が薄紅色の理由を、お母さんはその時にお父さんから教えて貰ったんだって」
『そんなに桜ばかり見てるなよ、シルフィア』
『だって綺麗なんだもの。見惚れちゃう』
『桜も恥ずかしがって紅くなってるじゃないか』
『ぷっ……なぁに? それ。面白いお話ね』
『事実だよ。桜は見られることで恥ずかしがって紅くなるんだ。この桜は、シルフィアに見られて恥ずかしがってるんだよ』
『ケイジって、結構ロマンチストなのね』
『そうでもないさ。でも……』
『でも?』
『シルフィアの目を奪う桜には、ちょっと妬いてるな』
『な……っ、何言ってるのよ! そんな恥ずかしい台詞……』
『恥ずかしくなんてないさ。俺の本心だからな』
『ケイジ……』
『来年の春、この桜はきっと真っ白になってるはずだ』
『真っ白に? 何故?』
『結婚しよう、シルフィア』
『……っ!』
『もうこの桜も、紅く染まる事はないだろう。これからは、俺だけを見ていろよ、シルフィア』
『……はい』
「結婚したその翌年の春からは、あの桜はずっと白いままなんですって」
「そうか……」
「ね? 私の言ったこと、嘘じゃないでしょ?ちゃ~んと証拠があるのよ」
アスランの胸に額をくっつけたまま言うサラの胸中には、両親との思い出が走馬燈のように浮かんでは消えていく。何故か幸せな思い出ばかりが浮かんできて、思わず涙がこみあげてきた。
アスランに悟られないようにと、下を向いたままわざと明るい声で話していたのだがーー。ぽん、と頭に乗せられたアスランの手が、全て分かっているよと心に伝えてきた。
「そうだな。じゃぁもう一つ証拠を作っておこうか」
「え?」
アスランの手が、サラの頭をそっと撫でる。
「あの木がサラのご両親の思い出の木なら……俺達が今いるこの木を、俺達の思い出の木にしよう。きっと来年の春は、この木も白くなっているはずだよ」
「ア、アスラン?」
驚いて思わず体を起こしたサラの瞳には、涙。少しだけぼやけた視界の中には、優しく微笑むアスランの姿がある。
「ずっと一緒にいよう。誰よりも近くで、誰よりも深い絆で結ばれた二人になろう」
「アスラン……」
あまりの嬉しさに、言葉が出てこない。
そんなサラに、アスランは再び口付けた。想いの全てを込めて。
それは、誓いのキスーー。
「もう二度と、サラを放さない。……離れない」
「……うん……」
風が吹く。
偶然にも両親の思い出の木の方向から吹いてきた風は、白い花びらを二人のいる場所に振らせた。
それはまるで、両親からの祝福の言葉のようでーー。
「やっと……」
ーー皆、幸せになれるんだね。
アスランとサラの幸せそうな笑顔は、薄紅色に染まっていたのだった。
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