桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
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それからの彼らを待ち受けていたのは、更なる過酷な戦争。
予想以上に手強い地球軍に翻弄されながら、必死に戦う彼らの口から『サラ』の名前が出る事はもう無かった。
とても大切な人ではあったけれど。今自分たちが生き延びるためには、大切な物を守るためには、感傷に浸っている暇などないから。
ヘリオポリス崩壊の日、流した涙が彼らを少しだけ強くしていた。
そして、時は流れ。
『停戦』の二文字が告げられる――。
ひらり、はらりと花びらが舞い落ちる。停戦協定が結ばれてから、初めての春が訪れた。
薄紅色の花びらが風と戯れながら地面を目指すその姿は、人の心を和ませてくれる。だが、アスランにとってそれは胸の痛む光景でしかなかった。
「サラ……」
あの日以来、誰一人口にすることの無かった少女の名が、アスランの口から紡がれる。アスラン自身も久しぶりに呼んだ名だった。
「今年もまた、綺麗に桜が咲いてるよ」
去年の春、サラと出会ったのと同じ場所に佇む。少しだけ期待を持って見上げてみるが、そこにはやはり薄紅色の花びらがあるだけ。
「桜の精は存在しない、か」
自嘲気味に呟くアスランの声に覇気はない。
停戦後も、やるべき事があると必死に気を張って生きては来ていたが、やはりすっぽりと抜け落ちてしまった物が大きすぎて。一人になるとそれが如実に現れてしまう。
「こんなに綺麗なのに、好きにはなれないな」
去年よりも少し赤みの強くなっている花びらが、アスランの肩に落ちてくる。それを指で軽く払いのけると、木にもたれかかった。
ずるずるとずり落ちた体を受け止めたのは、地面に降り積もった花びら達。軽く舞い上がった花びらは、アスランを優しく包み込んだ。
緩慢な動きで積もった花びらをどかせると、見えてくる地面。何故かその場所を、アスランは愛しそうに撫でる。
「サラ……」
呟くと、意を決したようにポケットから小さなスコップを取り出した。少しずつ掘り進められる地面は、徐々にその奥にある物をさらけ出す。
「案外浅かったな」
掘り返されたのは、小さな布にくるまれた小さな箱。土を払いのけて開いた箱の中に入っていたのは、サラが大切に持っていた、幼い日に4人で写した写真だった。少し色褪せてはいるものの、写真に写る笑顔に変わりはない。
「戦争さえ無ければ、今もこの笑顔を見ることが出来たかも知れないのに」
ヘリオポリス崩壊後、酷く憔悴していたアスランは、強制的に数日間の休暇を与えられた。その最初の日に、この場所を訪れて埋めたのがこの写真。サラに宛われていた部屋を片付けるときに、アスランが形見分けとして受け取った物だった。
本当は持ち歩きたいと思っていたのだが、戦場では何が起こるか分からない。それなら自分だけにしか分からない、安全なところに隠しておこうと、この場所を選んだのだ。
「サラの時は止まったまま、俺の時間だけが進んで行ってる」
予想通り傷付くことなく保管されていた写真は、懐かしさだけでなく悲しみも呼び起こす。
「桜の色は血の色、か」
ふと、丁度一年前にも心に浮かんだ言葉を思いだした。
「桜の木の根元には、死体が埋まっている。その血を吸って、桜の花びらは紅く色づくというけれど……この桜は血の代わりに、サラの未来を吸い取っているんだろうな」
止まってしまった、サラの未来へと歩むための時間。去年よりも紅い花びらが、アスランの考えを証明しているようで胸が痛んだ。
「俺も……」
ゆっくりと体を横たえる。地面と頬が触れたときの軽い衝撃が、周囲の花びらを舞い上がらせた。視界を覆う薄紅色が、やがてアスランを覆っていく。
「桜……出来るなら俺の未来も一緒に――」
ゆっくりと目を閉じる。
「……サラ」
突如、風が吹いた。辺りの花びらを一掃しそうなほどに強い風は、アスランを覆っていた花びらをも巻き上げる。
その時何故か、アスランの耳元を駆け抜ける大きな風の音の中に、不思議な音が混ざった。
「きゃっ!」
それは少女の悲鳴。少し離れた所から聞こえた声に、アスランはうっすらと目を開けた。
その目は『せっかくサラの所へ行こうとしていたのに邪魔をしないでくれ』と訴えているように見える。
――が。
視界に入った物に、思わず目を見開いた。
予想以上に手強い地球軍に翻弄されながら、必死に戦う彼らの口から『サラ』の名前が出る事はもう無かった。
とても大切な人ではあったけれど。今自分たちが生き延びるためには、大切な物を守るためには、感傷に浸っている暇などないから。
ヘリオポリス崩壊の日、流した涙が彼らを少しだけ強くしていた。
そして、時は流れ。
『停戦』の二文字が告げられる――。
ひらり、はらりと花びらが舞い落ちる。停戦協定が結ばれてから、初めての春が訪れた。
薄紅色の花びらが風と戯れながら地面を目指すその姿は、人の心を和ませてくれる。だが、アスランにとってそれは胸の痛む光景でしかなかった。
「サラ……」
あの日以来、誰一人口にすることの無かった少女の名が、アスランの口から紡がれる。アスラン自身も久しぶりに呼んだ名だった。
「今年もまた、綺麗に桜が咲いてるよ」
去年の春、サラと出会ったのと同じ場所に佇む。少しだけ期待を持って見上げてみるが、そこにはやはり薄紅色の花びらがあるだけ。
「桜の精は存在しない、か」
自嘲気味に呟くアスランの声に覇気はない。
停戦後も、やるべき事があると必死に気を張って生きては来ていたが、やはりすっぽりと抜け落ちてしまった物が大きすぎて。一人になるとそれが如実に現れてしまう。
「こんなに綺麗なのに、好きにはなれないな」
去年よりも少し赤みの強くなっている花びらが、アスランの肩に落ちてくる。それを指で軽く払いのけると、木にもたれかかった。
ずるずるとずり落ちた体を受け止めたのは、地面に降り積もった花びら達。軽く舞い上がった花びらは、アスランを優しく包み込んだ。
緩慢な動きで積もった花びらをどかせると、見えてくる地面。何故かその場所を、アスランは愛しそうに撫でる。
「サラ……」
呟くと、意を決したようにポケットから小さなスコップを取り出した。少しずつ掘り進められる地面は、徐々にその奥にある物をさらけ出す。
「案外浅かったな」
掘り返されたのは、小さな布にくるまれた小さな箱。土を払いのけて開いた箱の中に入っていたのは、サラが大切に持っていた、幼い日に4人で写した写真だった。少し色褪せてはいるものの、写真に写る笑顔に変わりはない。
「戦争さえ無ければ、今もこの笑顔を見ることが出来たかも知れないのに」
ヘリオポリス崩壊後、酷く憔悴していたアスランは、強制的に数日間の休暇を与えられた。その最初の日に、この場所を訪れて埋めたのがこの写真。サラに宛われていた部屋を片付けるときに、アスランが形見分けとして受け取った物だった。
本当は持ち歩きたいと思っていたのだが、戦場では何が起こるか分からない。それなら自分だけにしか分からない、安全なところに隠しておこうと、この場所を選んだのだ。
「サラの時は止まったまま、俺の時間だけが進んで行ってる」
予想通り傷付くことなく保管されていた写真は、懐かしさだけでなく悲しみも呼び起こす。
「桜の色は血の色、か」
ふと、丁度一年前にも心に浮かんだ言葉を思いだした。
「桜の木の根元には、死体が埋まっている。その血を吸って、桜の花びらは紅く色づくというけれど……この桜は血の代わりに、サラの未来を吸い取っているんだろうな」
止まってしまった、サラの未来へと歩むための時間。去年よりも紅い花びらが、アスランの考えを証明しているようで胸が痛んだ。
「俺も……」
ゆっくりと体を横たえる。地面と頬が触れたときの軽い衝撃が、周囲の花びらを舞い上がらせた。視界を覆う薄紅色が、やがてアスランを覆っていく。
「桜……出来るなら俺の未来も一緒に――」
ゆっくりと目を閉じる。
「……サラ」
突如、風が吹いた。辺りの花びらを一掃しそうなほどに強い風は、アスランを覆っていた花びらをも巻き上げる。
その時何故か、アスランの耳元を駆け抜ける大きな風の音の中に、不思議な音が混ざった。
「きゃっ!」
それは少女の悲鳴。少し離れた所から聞こえた声に、アスランはうっすらと目を開けた。
その目は『せっかくサラの所へ行こうとしていたのに邪魔をしないでくれ』と訴えているように見える。
――が。
視界に入った物に、思わず目を見開いた。
