リボンをかけて(イザーク)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
元々、女の子らしい事をするのは苦手だった。
自分を着飾ってみたり、好きな人のために一生懸命に何かをしてみたり。見ている分には可愛いな、と思うモノの、いざ自分がそれを実行に移そうとすると、どうしてもむず痒さを覚えてしまう。
生来の性格の問題だから仕方ないと諦めていた私だったが……。
「こんな日くらいは、もう一人の自分を出してみたら?」
親友の言葉に、私は意を決する事にした。だって、1年に1度しかないことだから。悲しい事だけれど、今のこの世の中では、次にその日を迎えられるかどうかなんて、分からないから。
ーーだから。
『今日の私は、もう一人の素直な私』
八月八日。
その日だけにしか効果のない、私だけの呪文。
「お父さ~ん!」
いつも通り、ぱたぱたと走りながら父の執務室へと走り込む。
私の父であるダルシーム=フユツキは、ザフトの事務次官補佐だ。子煩悩の父は、一人娘の私をよく仕事場に連れてきてくれていた。そのため、今ではともすれば顔パスになりそうなほどに、ザフトの人達との交流もある。
「サラ!」
父が嬉しそうに私を見た。
血のバレンタインで母を失って以来、母の面影を受け継いでいる私への溺愛ぶりは半端じゃない。亡き母の分まで私の成長をしっかりと見届けようと、それはそれは凄まじい愛情を注いでくれている。
「今日は午後から休講なの。お父さんの仕事が終わるまで、ここでのんびりしてて良い?」
「あぁ、良いとも。しかし……」
父が驚いたような顔で、私をまじまじと見ている。
それもそのはず。今日の私はーー。
「サラ……一体どういう風の吹き回しだ? あれほど私が言っても聞いてくれなかったのに、そんな女の子らしい格好をして……」
淡いピンクの花柄のワンピース。髪にはお揃いの柄のフリルのリボン。そして、生まれて初めてのお化粧。
それが今の私の姿。
「お前のスカート姿なんて、何年ぶりに見るだろう……お父さん嬉しいよ。お母さんもきっと天国で喜んでくれているだろうなぁ……うぅっ!」
「ちょ、ちょっとお父さん! こんな事くらいで涙ぐまないでよ!」
「サラ~〜! お父さんは幸せだよ~〜!」
「あーもう、はいはい。分かりました! とりあえず暫くその辺をうろうろしてるからね」
「母さん……やっとサラが……サラが〜〜!」
私のこの珍しい姿に父は涙を流しながら、いつも机に飾っている母の写真へと話しかける。
この姿からも、私への溺愛ぶりは容易に想像がつくだろう。もしも今日、私がこんな格好をしてきた理由を知ったら……お父さんはどんな顔をするのかなぁ。
一瞬脳裏をよぎる不安に私は大きく首を振ると、部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
と、その時。
ーーコンコン
ノックの音がして、外から声が聞こえてきた。
「イザーク=ジュールです。クルーゼ隊長より書類を預かって参りました」
「イザークか、入りたまえ」
涙を拭いながら父が答える。
私はと言えば、予想もしていなかった人物の来訪に大慌てだった。だってイザークこそ正に、これから私が会いに行こうと思っていたその人だったから。
プシューッという音と共にドアが開き、イザークが部屋に入ってくる。
「こちらが書類です。すぐに目を通していただき、ご返答下さいますようお願いいたします」
「あぁ、了解したと彼に伝えてくれ」
「はっ!」
敬礼するとイザークはくるりと踵を返し、ドアの方を向く。その時、ドアの前で固まっている私と目が合った。
「……サラ……?」
「あははは……久しぶり、イザーク……」
多分私はバツの悪そうな表情だっただろう。
軽く右手をあげて、いつも通り挨拶をしたつもりだったけれど、聞こえてくるのは引きつったような自分の声。
そんな私を呆気にとられたように見つめているイザーク。
「どうだ? イザーク。私の自慢の娘がとうとう女らしさに目覚めてくれたんだよ。今まではがさつで、まるで息子を持っているようだったが……これで私は娘を娘と堂々と言える! こうして着飾ると、サラの本当の美しさが分かるだろう? な? な?」
……壊れてるよ、お父さん……。きっとイザークも、こんな父を見るのは初めてだったのだろう。呆気にとられながら、私と父を交互に見ていた。
このままじゃ……まずい。
父が私のことで暴走を始めると、何が起こるか分からないと言うことは、娘として十六年間一緒に暮らしてきた為、嫌と言うほど分かっている。
「お、お父さん! 書類を急いで見ないといけないんでしょ? お邪魔だと思うから私は出かけるね。また後で~」
慌ててイザークを部屋から押し出しながら、私も部屋を出る。
後ろから、
「サラ~!」
という声が聞こえたが、もうお構いなし。
ドアの閉まる音と共に、私は大きく溜息をついた。
自分を着飾ってみたり、好きな人のために一生懸命に何かをしてみたり。見ている分には可愛いな、と思うモノの、いざ自分がそれを実行に移そうとすると、どうしてもむず痒さを覚えてしまう。
生来の性格の問題だから仕方ないと諦めていた私だったが……。
「こんな日くらいは、もう一人の自分を出してみたら?」
親友の言葉に、私は意を決する事にした。だって、1年に1度しかないことだから。悲しい事だけれど、今のこの世の中では、次にその日を迎えられるかどうかなんて、分からないから。
ーーだから。
『今日の私は、もう一人の素直な私』
八月八日。
その日だけにしか効果のない、私だけの呪文。
「お父さ~ん!」
いつも通り、ぱたぱたと走りながら父の執務室へと走り込む。
私の父であるダルシーム=フユツキは、ザフトの事務次官補佐だ。子煩悩の父は、一人娘の私をよく仕事場に連れてきてくれていた。そのため、今ではともすれば顔パスになりそうなほどに、ザフトの人達との交流もある。
「サラ!」
父が嬉しそうに私を見た。
血のバレンタインで母を失って以来、母の面影を受け継いでいる私への溺愛ぶりは半端じゃない。亡き母の分まで私の成長をしっかりと見届けようと、それはそれは凄まじい愛情を注いでくれている。
「今日は午後から休講なの。お父さんの仕事が終わるまで、ここでのんびりしてて良い?」
「あぁ、良いとも。しかし……」
父が驚いたような顔で、私をまじまじと見ている。
それもそのはず。今日の私はーー。
「サラ……一体どういう風の吹き回しだ? あれほど私が言っても聞いてくれなかったのに、そんな女の子らしい格好をして……」
淡いピンクの花柄のワンピース。髪にはお揃いの柄のフリルのリボン。そして、生まれて初めてのお化粧。
それが今の私の姿。
「お前のスカート姿なんて、何年ぶりに見るだろう……お父さん嬉しいよ。お母さんもきっと天国で喜んでくれているだろうなぁ……うぅっ!」
「ちょ、ちょっとお父さん! こんな事くらいで涙ぐまないでよ!」
「サラ~〜! お父さんは幸せだよ~〜!」
「あーもう、はいはい。分かりました! とりあえず暫くその辺をうろうろしてるからね」
「母さん……やっとサラが……サラが〜〜!」
私のこの珍しい姿に父は涙を流しながら、いつも机に飾っている母の写真へと話しかける。
この姿からも、私への溺愛ぶりは容易に想像がつくだろう。もしも今日、私がこんな格好をしてきた理由を知ったら……お父さんはどんな顔をするのかなぁ。
一瞬脳裏をよぎる不安に私は大きく首を振ると、部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
と、その時。
ーーコンコン
ノックの音がして、外から声が聞こえてきた。
「イザーク=ジュールです。クルーゼ隊長より書類を預かって参りました」
「イザークか、入りたまえ」
涙を拭いながら父が答える。
私はと言えば、予想もしていなかった人物の来訪に大慌てだった。だってイザークこそ正に、これから私が会いに行こうと思っていたその人だったから。
プシューッという音と共にドアが開き、イザークが部屋に入ってくる。
「こちらが書類です。すぐに目を通していただき、ご返答下さいますようお願いいたします」
「あぁ、了解したと彼に伝えてくれ」
「はっ!」
敬礼するとイザークはくるりと踵を返し、ドアの方を向く。その時、ドアの前で固まっている私と目が合った。
「……サラ……?」
「あははは……久しぶり、イザーク……」
多分私はバツの悪そうな表情だっただろう。
軽く右手をあげて、いつも通り挨拶をしたつもりだったけれど、聞こえてくるのは引きつったような自分の声。
そんな私を呆気にとられたように見つめているイザーク。
「どうだ? イザーク。私の自慢の娘がとうとう女らしさに目覚めてくれたんだよ。今まではがさつで、まるで息子を持っているようだったが……これで私は娘を娘と堂々と言える! こうして着飾ると、サラの本当の美しさが分かるだろう? な? な?」
……壊れてるよ、お父さん……。きっとイザークも、こんな父を見るのは初めてだったのだろう。呆気にとられながら、私と父を交互に見ていた。
このままじゃ……まずい。
父が私のことで暴走を始めると、何が起こるか分からないと言うことは、娘として十六年間一緒に暮らしてきた為、嫌と言うほど分かっている。
「お、お父さん! 書類を急いで見ないといけないんでしょ? お邪魔だと思うから私は出かけるね。また後で~」
慌ててイザークを部屋から押し出しながら、私も部屋を出る。
後ろから、
「サラ~!」
という声が聞こえたが、もうお構いなし。
ドアの閉まる音と共に、私は大きく溜息をついた。
1/4ページ