桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
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「いよいよ明日……か」
アスラン達が、クルーゼから命令を受けていた頃。サラは最後の仕上げに取りかかっていた。
人の気配の全くしない研究所内で聞こえるのは、カタカタと無機質な音を立てる機械音とサラの息づかいだけ。
ただし、熱はあった。サラの足下で気を失っている人間達数名の熱だけは。
「MSの方はもう大丈夫だけど……私の目的がまだ達成できてないのよね。せめて廃棄だけはしてやらなきゃ」
物凄い勢いでキーボードを叩きながら、サラは一つ一つデータを消去していった。
流れていくデータは、遺伝子操作に関するもの。それはサラの身体についてのデータだった。
「あれだけ豪語していた癖に、大した進歩もなかったようね」
データを見ながら皮肉な笑みを浮かべる。
コーディネイターとナチュラルの混血の中でも、サラブレッドと称されるサラの全てを手に入れていたというのに。
「私の血も、細胞も全て研究した癖に、何も分かっちゃいないみたいだし」
両親と共に研究所を脱走した時から、ほとんど変わりのないデータ。改めてあの時周りにいた人物達の無能さと身勝手さを感じた。
「ジョージ・グレンの血を引きながらにして、最先端の遺伝子研究施設の中で生み出された母。ブルーコスモスの盟主であるムルタ・アズラエルの叔父であり、遺伝子研究の専門家である父。そんな二人の子供である私は、格好の研究材料よね」
どこにいても追われていた子供時代。
結局ブルーコスモスに捕らえられ、連れてこられたこの研究所で行われたのは、優秀な能力を持って生まれたサラの体の研究。
遺伝子に手を加えず生まれてきたサラは何故か、持っている可能性はコーディネイター以上でありながら、ナチュラルと全く変わらない遺伝子配列だった。
人並み以上に優れた運動神経。
コーディネイターを凌駕するかと思わせる高いIQ。
ならばもしかしたらナチュラルも、コーディネイターに近付けるかも知れない。同じように見えて、実は思いがけない何かがあり、ナチュラルの更なる可能性を見い出せるかも知れない。そんな身勝手な思いが、サラの体を切り刻む。
その頃付けられた傷は、今でも生々しく体のあちこちに残っていた。
しかもその研究チームには、聖の名前もあったのだ。自らの血と細胞を提供し、自らを研究材料として扱う。
何度も逃げだそうとした。
自らの命の火を消そうともした。
だが父母を人質に取られ、それを現実にすることも出来ずにいた地獄の日々。
「半ば逃げることを諦めた頃に、彼らと出会ったのよね」
高速で流れるデータを見ている内に、ふと思い出した者達がいた。
「ナチュラルの体を、一時的にでもコーディネーターと同じレベルまで引き上げる薬の研究。その被験者として彼らは連れて来られて――」
データを消去しながら、別の機械で彼らの情報を検索してみる。写真と名前しか表示されないパーソナルデータが、サラの中にあった彼らとの記憶を呼び起こした。
被験者は、サラより少しだけ年上の少年3人。
出会ったのは、初めてサラの研究させられていた薬の投薬実験を行うと言われた当日のこと。目の前で自分の作った薬が注入されていく姿を見たときは、気が狂いそうだった。
実験段階の薬には全く保証がないため、常に危険が伴う。何も症状が出ない事も稀にあったが、大抵は大きな副作用をもたらしていた。胸を掻きむしるような痛みが走り、一時は仮死状態に陥ったこともある。
そんな薬を与えられながらも、彼らは決してサラにだけは、恨み言も不満もぶつけなかった。他の研究者達には殴りかかった事すらあったというのに。
彼らも分かっていたのだ。
――サラの立場を。
「良いから泣くな」
薬の効果が切れ、苦しみから解放された少年の口から出るのは、いつもこの言葉。玉のような汗をかきながらも、オルガは小さく微笑みを見せる。
「こんなんで負けてられるかってーの!」
息を切らしながら、強がりを言ってみせるのはクロト。「バカ」とサラに悪態をつきながらも、サラを気遣っているのが分かる。
「あーもーうざいよ」
眦に涙を浮かべながら言うのはシャニ。自分は涙を見せながらも、サラが涙するのは嫌なのだ。
不器用だが、本当に優しい少年達だった。
そんな彼らにサラは何度か話をしたことがある。幼い頃に出会った少年の話を。
少しやきもちを妬きはしたものの、その話をする時のサラの表情が本当に幸せそうだったから。彼らも微笑みながら、サラの話を聞いていた。
「いつかまたそいつと会えたらいいな」
締めに笑顔で必ず言われたこの言葉が、サラの記憶に鮮明に残っている。
だがもうあの笑顔も優しさも、もはや見ることはないだろうと言うことを、サラは分かっている。
あの薬は実験の際、最悪の場合でも命や精神に異常を来すギリギリのラインで止まるよう、細心の注意を払っていた。しかし今となってはもう、そんな悠長な事を言ってはいられない。
サラの目の前で流れている実験プログラムに示された数値は、サラの知っている数値とはかけ離れたもの。命を落としはしなくても、多分精神は――。
「間に合わなくて、ごめんね……」
サラのデータの消去を完了する。ふっと小さくため息をつくと、サラは3人のパーソナルデータを表示してるモニターを見つめながら呟いた。
「……やっぱり許せない」
ブルーコスモスも。
地球連合軍も。
あいつらは、罪のない数多の命を一瞬にして奪った。
あいつらは、かけがえの無い人の命を奪った。
あいつらは、大切な者達の命を弄ぶ。
「止めるなら、今しかない」
そこまで言ったとき、ふと気配に気付いた。扉の向こうに数人いるのが分かる。瞬時にモニターの電源を切ったサラは、機敏な動作で自らがそこにいた証拠を消し、自らも姿を消した。
アスラン達が、クルーゼから命令を受けていた頃。サラは最後の仕上げに取りかかっていた。
人の気配の全くしない研究所内で聞こえるのは、カタカタと無機質な音を立てる機械音とサラの息づかいだけ。
ただし、熱はあった。サラの足下で気を失っている人間達数名の熱だけは。
「MSの方はもう大丈夫だけど……私の目的がまだ達成できてないのよね。せめて廃棄だけはしてやらなきゃ」
物凄い勢いでキーボードを叩きながら、サラは一つ一つデータを消去していった。
流れていくデータは、遺伝子操作に関するもの。それはサラの身体についてのデータだった。
「あれだけ豪語していた癖に、大した進歩もなかったようね」
データを見ながら皮肉な笑みを浮かべる。
コーディネイターとナチュラルの混血の中でも、サラブレッドと称されるサラの全てを手に入れていたというのに。
「私の血も、細胞も全て研究した癖に、何も分かっちゃいないみたいだし」
両親と共に研究所を脱走した時から、ほとんど変わりのないデータ。改めてあの時周りにいた人物達の無能さと身勝手さを感じた。
「ジョージ・グレンの血を引きながらにして、最先端の遺伝子研究施設の中で生み出された母。ブルーコスモスの盟主であるムルタ・アズラエルの叔父であり、遺伝子研究の専門家である父。そんな二人の子供である私は、格好の研究材料よね」
どこにいても追われていた子供時代。
結局ブルーコスモスに捕らえられ、連れてこられたこの研究所で行われたのは、優秀な能力を持って生まれたサラの体の研究。
遺伝子に手を加えず生まれてきたサラは何故か、持っている可能性はコーディネイター以上でありながら、ナチュラルと全く変わらない遺伝子配列だった。
人並み以上に優れた運動神経。
コーディネイターを凌駕するかと思わせる高いIQ。
ならばもしかしたらナチュラルも、コーディネイターに近付けるかも知れない。同じように見えて、実は思いがけない何かがあり、ナチュラルの更なる可能性を見い出せるかも知れない。そんな身勝手な思いが、サラの体を切り刻む。
その頃付けられた傷は、今でも生々しく体のあちこちに残っていた。
しかもその研究チームには、聖の名前もあったのだ。自らの血と細胞を提供し、自らを研究材料として扱う。
何度も逃げだそうとした。
自らの命の火を消そうともした。
だが父母を人質に取られ、それを現実にすることも出来ずにいた地獄の日々。
「半ば逃げることを諦めた頃に、彼らと出会ったのよね」
高速で流れるデータを見ている内に、ふと思い出した者達がいた。
「ナチュラルの体を、一時的にでもコーディネーターと同じレベルまで引き上げる薬の研究。その被験者として彼らは連れて来られて――」
データを消去しながら、別の機械で彼らの情報を検索してみる。写真と名前しか表示されないパーソナルデータが、サラの中にあった彼らとの記憶を呼び起こした。
被験者は、サラより少しだけ年上の少年3人。
出会ったのは、初めてサラの研究させられていた薬の投薬実験を行うと言われた当日のこと。目の前で自分の作った薬が注入されていく姿を見たときは、気が狂いそうだった。
実験段階の薬には全く保証がないため、常に危険が伴う。何も症状が出ない事も稀にあったが、大抵は大きな副作用をもたらしていた。胸を掻きむしるような痛みが走り、一時は仮死状態に陥ったこともある。
そんな薬を与えられながらも、彼らは決してサラにだけは、恨み言も不満もぶつけなかった。他の研究者達には殴りかかった事すらあったというのに。
彼らも分かっていたのだ。
――サラの立場を。
「良いから泣くな」
薬の効果が切れ、苦しみから解放された少年の口から出るのは、いつもこの言葉。玉のような汗をかきながらも、オルガは小さく微笑みを見せる。
「こんなんで負けてられるかってーの!」
息を切らしながら、強がりを言ってみせるのはクロト。「バカ」とサラに悪態をつきながらも、サラを気遣っているのが分かる。
「あーもーうざいよ」
眦に涙を浮かべながら言うのはシャニ。自分は涙を見せながらも、サラが涙するのは嫌なのだ。
不器用だが、本当に優しい少年達だった。
そんな彼らにサラは何度か話をしたことがある。幼い頃に出会った少年の話を。
少しやきもちを妬きはしたものの、その話をする時のサラの表情が本当に幸せそうだったから。彼らも微笑みながら、サラの話を聞いていた。
「いつかまたそいつと会えたらいいな」
締めに笑顔で必ず言われたこの言葉が、サラの記憶に鮮明に残っている。
だがもうあの笑顔も優しさも、もはや見ることはないだろうと言うことを、サラは分かっている。
あの薬は実験の際、最悪の場合でも命や精神に異常を来すギリギリのラインで止まるよう、細心の注意を払っていた。しかし今となってはもう、そんな悠長な事を言ってはいられない。
サラの目の前で流れている実験プログラムに示された数値は、サラの知っている数値とはかけ離れたもの。命を落としはしなくても、多分精神は――。
「間に合わなくて、ごめんね……」
サラのデータの消去を完了する。ふっと小さくため息をつくと、サラは3人のパーソナルデータを表示してるモニターを見つめながら呟いた。
「……やっぱり許せない」
ブルーコスモスも。
地球連合軍も。
あいつらは、罪のない数多の命を一瞬にして奪った。
あいつらは、かけがえの無い人の命を奪った。
あいつらは、大切な者達の命を弄ぶ。
「止めるなら、今しかない」
そこまで言ったとき、ふと気配に気付いた。扉の向こうに数人いるのが分かる。瞬時にモニターの電源を切ったサラは、機敏な動作で自らがそこにいた証拠を消し、自らも姿を消した。
